けしか欄002(2021/01)-2

↑前回です。

 遅くなってて、申し訳ございません。

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続けざま回送バスを見送って 行けない場所がこの世にはある
/伊奈

「回送バス」っていうものの質感、の歌だなと思います。知らなきゃどこに向かってるのかわかんない、でも間違いなくどこかへは行っている、もので、それを見て「行けない場所がこの世にはある」と思うこと、はすごくわかります。(よくもわるくも)ベタだなー、とも思いつつ、一字空けを挟んで提示される感慨の質量、の説得力を強く感じます。
 回送のバスの行き先ってその気になれば基本的に行けなくもなさそう、だからこそ、この歌における「行けない場所」のニュアンスの含みが広くなっていておもしろいんだと思います。「絶対に行けない」だけが「行けない」ではない、という。

○   ○   ○

随分と小さくなってやけ食いに適さぬスイスロールをかじる
/新棚のい

 お菓子とか、定番商品がこっそりサイズダウンしてる、みたいな話はよく聞く話で、でもそれ自体をいじっている感じよりも、主体の「やけ食い」観におもしろの主眼がある歌だと思います。まあそりゃ小さいよりでかいほうが「やけ食い」っぽくはあるけど、なんだろう、「適さぬ」って言いかたの冷静さが「やけ食い」の語の感触と微妙に違う、からこんなにおもしろいんじゃないかと思う。最後も「かじる」んだ、って感じで、今やけ食いをしたいわけではない、もしくは小ささで気が削がれた?、イメージが湧いてくる、一首の中での印象の動きがたのしかったです。

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 続けます。よろしくお願いします。

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