男性ブランコSolo Live Swing#1『笑う蛍』脚本

男性ブランコSolo Live Swing#1【笑う蛍】という単独ライブの全脚本をUPします。ト書きがnoteに載せる仕様となっております。それも合わせてお楽しみください。



男性ブランコSolo Live Swing#1【笑う蛍】

シーンごとのシーン名です。飛ばしちゃって構いません。

① 今 青年とおじいちゃんが横断歩道にて

② 昔 横断歩道にて

③ 今 青年とおじいちゃんが喫茶店

④ 昔 小高い丘にて

⑤ 昔 劇団ペンチペーメ

⑥ 今 青年とおじいちゃんが小高い丘にて

⑦ 昔 蛍の川にて

⑧ 今 おじいちゃん

⑨ 今 蛍の川にて

⑩ 今 その後の話です

① おじいちゃんと青年が横断歩道にて



お始まりお始まり〜。


車の走る音。

舞台中央に大きなリュックを背負っているおじいちゃんが1人佇んでいる。

車の走る音が消え、信号が青になり『とおりゃんせ』の音がかかる。

しかし、そのおじいちゃんはその場から動かず立ったままである。

1人の青年が現れる。

ふと、佇みおじいちゃんに気づく。

青年は少し迷った後、勇気を出して声をかける。いいぞ青年。


青年 あの、荷物持ちましょうか?

おじい (笑顔)

青年 あの荷物を持って渡りますか?

おじい ああ〜。いやあ〜。

青年 横断歩道一緒に渡りましょうか?

おじい ああ。はあ。

青年 手伝いますよ。

おじい ほお。

青年 荷物。お待ちしますよ〜。

おじい …んじゃ。(ボソッと)

青年 はい?遠慮しないでください。荷物持ちますよ!

おじい …いじゃ。

青年 え?荷物持ちますよ!おじいさん?荷物、持ちますよ〜!

おじい しつこいんじゃ!

青年 え!?

おじい なんじゃ、お前さっきから!

青年 え?いや…。

おじい 人が惚けたフリしとったらやんややんや言いおって!

青年 ええ!惚けたフリだったんですか!?

おじい そうだ!お前は何なんじゃ!いきなり声かけおって、ナンパか??

青年 違いますよ!ただの親切です!

おじい なんじゃ!その独りよがりの親切心を振りかざして、お前の目的は何なんじゃ!

青年 目的とかないですよ!荷物を持とうとしただけでしょ?

おじい わかった!あれか?最近の若者も捨てたもんじゃないなあ〜これで日本も安泰じゃって言われたいんか!

青年 違いますって!ひねくれすぎでしょ。

おじい わかった!お前の望みを叶えてやろう!最近の若者も捨てたもんじゃないな!!これで日本も安泰じゃなー!!あー!満足かー!!

青年 なんかすいません!すごい元気だな。

おじい ふんっ。

青年 …。

おじい …。

青年 本当にもう〜。

おじい …。

青年 ねえ〜もう〜。

おじい うん!まだおる??

青年 え!?

おじい いや、こんな公衆の面前で怒鳴るヤバいおじいさんがいるんだぞ!さっと帰るのが普通だろ!

青年 ああ。

おじい せっかく親切にしたのに最低最悪だと思わんのか?

青年 ああ、まあ少し。(小さく指ジェスチャー)

おじい 少しどころじゃないだろ!最悪だろ!ここ裂けるだろ!指の股が!わしのことはほっといてさっさと行け!

青年 …あのなんで横断歩道渡らないんですか?

おじい この後に及んで!なんだ、お前は。世の中の好奇心をかき集めてギュッとして、

ギュッギュッとしてカチカチの玉にして、その玉からパカッて産まれた玉太郎か!

青年 違いますよ!玉太郎ってなんですか!好奇心関係なくなってるじゃないですか。

おじい お、おお。突くポイントはちゃんと突くんだな。調子が狂う。

青年 教えてくださいよ〜。気になるんです。こういうの。渡るんだったら荷物持ちますし、

ここにいるならそのワケを教えてください。困ってることがあったら何でも言って

ください!

おじい 若くしておせっかいだな〜。お前はあれか?世の中のおせっかいおばさんをかき集めて、ギュッギュッと絞ってその一滴一滴をペットボトルに入れて満タンにして。お前はその

ペットボトルか!

青年 ペットボトルじゃないでしょ!人ですから。

おじい 突くとこを突くんだよな〜。調子が狂う。

青年 うちの母さんの教えです。困ってる人がいたら助けなさい。面白そうなことがあったら首を突っ込みなさいって。

おじい あれ?面白そうに思ってる?

青年 少し(変な指ジェスチャー)

おじい どういう少しなんだ、それは。

青年 目的を教えてください!

おじい はあ。まったく。…私の目的はこの横断歩道じゃ。

青年 横断歩道?

おじい この横断歩道を見に来たんだよ。

青年 この横断歩道って有名なんですか?

おじい 有名とかそういうことじゃない。

青年 じゃあなんでこの横断歩道なんですか?

おじい 興味がしんしんだな。お前は。

青年 しん!

おじい しん!じゃないんだよ!はあ…この横断歩道は、ばあさんとの思い出の場所なんだ。

青年 ああ。おばあさんとの。

おじい 私はご覧の通りジジイだろ?

青年 そ、そ、そんなことはないです。

おじい すごい気をつかったな。ええ。ええ。もうじき本当にボケてしまうだろう。ボケちまう前になんていうかな、ばあさんとの思い出の場所を巡って、この目に焼き付けておこうと思ってな。そうすればボケたとしても、いつも見ることができるだろう。

青年 そうでしたか。

おじい もうわかっただろ?これでお前の好奇心は満たされたはずだ。さあ帰るんじゃ。

青年 それじゃあ、今からそのおばあさんとの思い出の場所を巡るんですか?

おじい そうだ。

青年 わかりました。いきましょか!

おじい まじか!こいつ!暇か!超絶暇なんか!

青年 予定はあります。

おじい そっち優先せえ!なんでジジイの思い出巡りについてくるんだ!

青年 僕が、そうしたいんです!

おじい エゴー!エゴがすごいぞ!おせっかいがすごいぞ!私はね、断ってるよ!

青年 さ、どこいきましょ?

おじい ちょっと話を聞けって。

青年 いきましょか!

おじい おい!

青年 さあさあ。ではこの荷物を持ちましょか!


小気味の良いミュージック

このミュージックの中、無声で荷物持つ持たないのやりとり。

その間にタイトルが投射される。



② 昔 横断歩道にて



車の走る音。

そこに男子学生が走り込んでくる。

男子 まずいな。遅れちゃう。この信号長いんだよな。早く早く。

男子は足踏みをしながら急ぎ急ぎ焦り焦り汗汗。

反対側から女子学生が現れる


女子 やっばい!遅刻しそう!刻に遅しそう!刻に遅!すなわち遅刻!

信号が青に変わり『とおりゃんせ』が流れる。

男子 お!変わった!

男子と女子はぶつかりそうになるが、お互いがお互いの進路をふさいじゃう例のやつ。アイコンタクトでちょっと私こっち行きます、僕はこっちから行きますをやっ、結局またぶつかる例のやつ。

男子 ちょっと!こっちから行く感じだったでしょ!

女子 人生思い通りに行ったら面白くないでしょ!

男子 今は思い通りに行って欲しいよ!

女子 この横断歩道を通りたければ私の屍を越えて行きなさい!

男子 怖いよ!なんだよ、屍って。

女子 さあ私を倒しなさい!

男子 倒さないよ。学校に遅刻しそうなんだよ。

女子 えらいもんで私もよ!

男子 ていうかその制服うちの学校じゃないか。方向違うよ。

女子 え!?嘘!本当!?恥ずかし!私咲子。よろしく。

男子 急に!?自己紹介!?

女子 同じ学校でしょ?自己紹介してけつかるべきだわ。

男子 けつかるって。ああ、僕はかつや。

咲子 よろしく。

咲子は握手を求める。しかし、すごい握りしめグー。

かつや え?握手?握手だったらパーが欲しいところだな。

咲子 あらごめんなさい!

咲子は手を広げる。すると、びっくり、丸まった食パンが出てくる。

かつや うわ!なにこれ?

咲子 朝食の食パンを握りこんでいたの!

かつや 握りこむなよ!食パンを!

咲子 握りこんで、小さくして、一気に飲み込んで、胃袋の中で膨らむという戦法よ!

かつや 戦法ってなんだよ!

信号が赤に変わる。

かつや あ!赤になった!早く渡ろう!

咲子 ちなみに、あなたの食パンを食べる戦法をお聞かせ願えないかしら。

かつや 信号赤だから!

咲子 私ね、クロワッサンに関しては牛乳に浸して溶かしきってから飲むというドリンク殺法!

かつや 気持ち悪いな!何だよ、ドリンク殺法って!赤だから!

車のクラクション。

かつや ああ!すいません!すぐどきます!とにかく僕は行くから!

咲子 私の方が先に行くから!

咲子はダッシュで走り去る。

かつや そっちは反対だって!行ってしまった。ふう…てんしん…らんまんっ!

車の怒りのクラクション。

かつや ああ!ごめんなさい!

場面は変わる。

場所は学校の教室。夕暮れ時。かつやは友人と話している模様。

かつや ああ、今日も1日疲れた。最後の授業に体育ってきついよな〜。お腹ペコペコだよ。…え?今から転校生の挨拶がある?こんな帰り際にそんなことある?ああ、めんどくさいな。

かつやは椅子に座る

咲子が現れる。頭に枝とか刺さってる。顔も泥だらけ。

かつや わ!朝のあいつだ!え?いや、知り合いとかじゃないけど。何があったんだ。

咲子 え〜大変遅れてしまいました。本来なら朝挨拶する予定だったんですけど。街で遭難してしまいました。

かつや 街で遭難!?逆にどうやったら遭難できるんだよ。

咲子 最終、山岳警備隊を呼んで救助してもらいました。

かつや 街に山岳警備隊呼ぶなよ。

咲子 助けてもらうまでものすごい時間がかかりました。あいつら街では役立たずでした。

かつや なんてこというんだよ!助けてもらったんだろ!

咲子 改めて自己紹介させてもらいます。私のことは蛍子って呼んでください。

かつや ええ!?咲子じゃないの?!(立ち上がり)え!?いや、知り合いじゃないですよ!朝たまたま会っただけですよ。ねえ!

蛍子 (え〜みたいな誰〜みたいな)

かつや うわ!え!?どういうこと?覚えてないの?やばっ!

蛍子 皆さん何か、インドのバザールみたいに賑やかにしちゃってすいません。

かつや インドのバザールって何だよ。

蛍子 あの仲良くしてください。以上です。

蛍子はかつやの隣の席に座る。

かつや ちょっと。ちょっと。

蛍子 ん?

かつや 朝会ったよね?

蛍子 会ったね!

かつや じゃあなんだよ!あの誰〜みたいな顔!

蛍子 転校初日はかまさないといけないから。

かつや かまさなくていいよ!

蛍子 で、どいつをシめたら牛耳れる?

かつや 牛耳ろうとするなよ!

蛍子 牛耳りたい〜。牛の耳たい。

かつや 牛の耳と書いて牛耳ると読むけども。あ、そうだ、咲子じゃないの?

蛍子 咲子は偽名!

かつや 偽名!?なんで偽名なんだよ。

蛍子 見ず知らずの知らない人に本名を教えるほど軽くないの。私は慎重なの。

かつや 慎重なら街で遭難するなよ。

蛍子 さ!学校初日を楽しむわよ〜!

かつや もう下校だよ!

蛍子 そっか!!てへ…ぺろ。

かつや ペロが遅い!



③ 今 おじいちゃんと青年が喫茶店にて



ここはとある喫茶店。

おじいちゃんと青年は向かい合って座っている。テーブル上には大量のコップやグラスが乗っている。


おじい とまあ、それが蛍子さんとの最初の出会いだ。

青年 そうだったんですねえ〜。

おじい それにしても、ものすごい話聞いてくれたな!

青年 (コーヒ飲みながら)ええ〜。

おじい そして、すごい飲むなあ!

青年 戦後最大級の喉カラでしたから。

おじい うるさいな〜。

青年 大丈夫ですよ。ここは僕が払わせてもらいますから。

おじい そういうわけもいかんだろ。わしの方がすごい年上だからな。

青年 いやいや、僕の方が話を聞かせてもらってるわけですし。

おじい いや、わしが奢ってやるよ。

青年 そうですかあ〜?

おじい 腹立つな!

青年 お言葉に甘えますう〜。吸う〜(ストローで吸う)

おじい ますうのすうを利用して吸うな!

青年 ありがとうございますう〜。(ストローで吸う)

おじい それやめえ!

青年 で、その後、蛍子さんとはどうなったんですか?

おじい 出会った次の日ぐらいに付き合うことになった。

青年 はやっ!え?もう!?

おじい 二人ともいらっしゃいませおませさんだったからなあ。

青年 なんですかそれ!ませてたということなのかな?

おじい まあな。でもプラトニックなお付き合いだったよ。もちろん!

青年 そこ別に深くは聞かないですよ。

おじい 君は恋人などはいるのかね?

青年 いないですけど。

おじい おっほっほっほ。そうかそうか。では、わしが一撃で蛍子さんを虜にした告白の仕方を教えてやろうか?

青年 遠慮しときます。

おじい そうかそうか。聞きたいか。

青年 いや、遠慮しときます。

おじい 仕方あるまい、まずは告白の場所だな。

青年 遠慮しときます。

おじい やはり体育館裏というのが定番だな、女子はな、定番に弱いもの…遠慮しときます!!??

青年 届いた。

おじい いやいや、遠慮する!?

青年 長くなるかなと思って。

おじい 結構長い話聞いとっただろ。老人の戯言だと思って聞いてくれないか?

青年 …遠慮しときます。

おじい もう話す!お前の意見聞かない!話す!

青年 その強引さ、待ってましたよ。

おじい 腹立つ!

青年 で、どんな告白の仕方だったんですか?

おじい まあ、体育館裏に蛍子を呼び出してな、こう、ここに蛍子がおってな。

あのさあ、あのさあ、あのさあ。

青年 そんな喋り方だったんですか?

おじい まあまあ、思春期の男子が告白する時は、みんな、あのさあを3発入れるんだ。

青年 そういうものですか?

おじい 黙って見とけい。

青年 はい。

おじい 蛍子〜、実はさあ〜、会ったばかりだけどさ〜、好きっていうかさあ〜、なんていうかさあ〜。わかるだろう〜?わかるだろうがよ〜。

青年 あの、すいません、アイスコーヒー。(小声で)

おじい 今頼む?!おじいが喫茶店という公衆の面前で告白しとるという不可思議な状況で、今頼む!?

青年 あとお冷三つください。

おじい 喉砂漠なんか!どんだけ飲むんだ!

青年 すいません。喉カラで。

おじい 喉カラカラを喉カラっていうな!もうええわ!わしはもう行く!

青年 すいませんって!そんな怒らないでください!

おじい 別に怒っとらんよ。もう行くからな。

青年 僕も行きます!

おじい 今、注文しただろ?

青年 すいません、今のキャンセルで!

おじい 迷惑ばかりかけおって!

青年 次はどこに行くんですか?

おじい はあ、マイペースだな、お前は。わしらが初めてデートをしたところだよ。

青年 それってどこですか?

おじい 町外れにあるだろ?あの、小高い丘だ。

青年 ああ!あそこデートスポットで有名ですもんね。なんか南京錠をはめるところ。

おじい そうか。昔はデートスポットでもなんでもなかったよ。ただの小高い丘だった。



④ 昔  小高い丘にて



かつやが小高い丘に一人佇んでいる。

かつや やっぱりここはいい眺めだ。うん。…ああ、それにしても遅いなあ。蛍子さん。

そこに蛍子がやってくる。

蛍子は、すこぶる大きい麦わら帽子をかぶり、アタッシュケース持っている。

蛍子 ごめんなさい!待った??

かつや でかっ!!

蛍子 やっぱり大きいかな。この服。

かつや 麦わらだよ!何そのでかい麦わら!

蛍子 日焼けとかしたくないから、店員さんに無理言って麦の部分を増してもらったの。

かつや 増してもらったの?増せるものなの?

蛍子 麦増し増しで。

かつや 何のオプションなんだよ。すごいね。それは。オシャレなんだろうね。

蛍子 オシャレなのよ〜。オシャレすぎて、見る者を不安にさせるデザインなの。

かつや オシャレなの?それは。不安にさせないでよ。

蛍子 わあ。いい眺め〜。

かつや でしょ?ここは僕の秘密の場所なんだ。あと、あそこに川見えるでしょ?

蛍子 うん。

かつや あの川では蛍が見られるんだ。いいでしょ?

蛍子 蛍?

かつや うん。珍しい蛍で、背中の模様が人が笑ってるように見えるから、笑顔蛍っていうんだ。

蛍子 笑顔蛍!?きもきもー。

かつや そんなこと言うなよ!とても綺麗なんだから。

蛍子 ふ〜ん。でも虫とか多そうね。

かつや うん。その蛍の川は新種の虫がたくさん発見されるんだよ。例えば変な鳴き声の虫とかさ。

蛍子 何よ。変な声の虫って。

風が吹くビュービュー。

蛍子 (麦わらに風受ける)

かつや え?ああ、やっぱり一番見て欲しいのは笑顔蛍だな。蛍子の蛍。

蛍子 うん。ありがと。私の名前そのまま由来よ。私が生まれた時、ちょうど蛍がたくさん飛んでたらしいの。

かつや 今は時期じゃないから笑顔蛍はいないんだ。蛍見られるようになったら一緒に行こう!

蛍子 望むところ!望むところ!望むところ!

かつや う、うん。

風が吹くビュービュー。

蛍子 (頭ガクガクしながら)素敵な場所なのね。笑顔蛍見られるの楽しみ!

かつや ちょっと風受けすぎてるよ。帽子とったら?

風が吹くビュービュー。

蛍子 (頭ガクガクしながら)大丈夫よ!私は気にしてないから。

かつや 僕が気になるよ!

強風が吹くバビューバビュー。

蛍子 きゃあ!

蛍子はゲッツーを取りに行く野球選手のように自ら帽子を投げる。

蛍子 風に飛ばされちゃった!

かつや 投げたよね!確実に!なんかゲッツー取りに行くみたいな軽やかさだったけど。

蛍子 あ〜もうあんなところに!

かつや キレイに風に乗って飛んでる!

蛍子 あ〜ん。お気に入りだったのに〜。

かつや 新しい帽子買ってあげるから。

蛍子 麦わら?

かつや 麦わら。

蛍子 増し増し?

かつや 増し増しのやつ買ってあげるから。

蛍子 レジェンド〜。君はレジェンド〜。

かつや 褒められてるのか?これは。

蛍子 帽子がないから日焼けがあ〜。日差しすごいわ。

蛍子は機敏に日差しをかわす動き。

かつや 日差しは避けられないよ!

蛍子 あっついわあ。

かつや 動くからだよ!まあ今日ぐらいいいじゃないか。

蛍子 そうね。焼けまくって真っ黒になったら闇に溶け込めるもんね。

かつや 怖いな!なんか!

蛍子 あのさ、今日は初デートでしょ?

かつや うん。

蛍子 その初デートを記念してプレゼントがあるの?

かつや プレゼント!?

蛍子 これなの〜。

かつや 気になってたけど!アタッシュケース!

蛍子 中に入ってるわ。なんだと思う?

かつや いや、もう。アタッシュケースに入ってるといえばブツかキャッシュのイメージしかない。

蛍子 どっちでしょう!?

かつや どっちかなの!?どっちもダメだよ!

蛍子 冗談よ!冗談なのよ!

かつや 天真爛漫だなあ〜。好きだな〜。

蛍子 それでは鍵を開けます!

かつや しっかり錠してあるね!

蛍子 さあ、アタッシュケースの中身はなんだろな。アタッシュケースの中身はなんだろな〜。

かつや 最初がぎゅうぎゅうだね〜。箱の中身は何だろな〜のリズムだから。

蛍子 あれ〜?(鍵を探す)

かつや 鍵ないの?

蛍子 ちょっと待ってね。あったあった。(大きなリングに鍵束)

かつや 看守が持ってるやつみたいな!

蛍子はたくさんある鍵で一つずつ試していく。これでもないあれでもないと言いつつ。

かつや 大丈夫?

蛍子 そうだ!私ってトンチキね!

かつや トンチキ?

蛍子 この南京錠は!

蛍子はフンッと荒々しく、指の力のみで南京錠を開ける。

かつや ええ!?開いた!?

蛍子 力で開けるタイプのやつだった!

かつや そんなタイプある?

蛍子 開いたわよ〜。ドキドキね。

かつや うん。なんだろう?まあでも何もらっても嬉しいな。

蛍子 はい!こちらです。一万円です!!

かつや キャッシュじゃないか!

蛍子 何プレゼントしたらいいかわからなかったから一万円!

かつや もらえないよ!現金!

蛍子 え〜。もらってくれないの?

かつや いや、さすがに現ナマは。

蛍子 一度抜いた刀を鞘に収めることはできません!

かつや そんな侍みたいな。

蛍子 もろうてくれへんのんか?

かつや 何だよ、急に関西弁。

蛍子 もろうてや〜。

かつや わかった!じゃあこうしよう!その1万円は取っておいて、将来二人のために使うことにしよう!

蛍子 はっ!積み立てておくのね!

かつや そうだよ!積立貯金だね。

蛍子 やったー!積み立てー!積み立てだー!うわ〜初めて積み立てる!

かつや そんなテンション上がるものなのか?好きだな〜。

蛍子 私たち結婚とかしちゃうのかなあ〜。へへ!ちょっと早いか!

かつや それは!…するでしょ。

蛍子 ちょっとやあだ!

蛍子によるするどい突き。

かつや 危ない!危ないな〜。肩ポンぐらいが相場でしょ!

蛍子 ごめんなさい!恥ずかしくって!

かつや 実は僕からもプレゼントがあるんだ。

蛍子 え!?嘘!何万?

かつや 現金じゃないよ!気にいるかわからないんだけど。今度の週末、友達が演劇の公演をやるらしいんだ。そのチケット。

蛍子 え〜!どうしよう!セリフ覚えられるかな!

かつや 観る側!観る側!

蛍子 え!?あ!やあだ〜!恥ずかしい〜。ふう!

蛍子による渾身の正拳突き。

かつや 危ないって!しっかりと正拳突きするんじゃないよ!

蛍子 ごめんなさい!でも楽しみ!

かつや 形あるものもいいけど、たくさん思い出作りたいと思って。

蛍子 思い出だなんて。よっ、この思い出作りプレジデント!

かつや 褒められてるのか?これは。

蛍子 褒めてるわよ〜。で、なんていう劇団なの?

かつや 劇団ペンチペーメっていうんだけど。

蛍子 劇団ペンチペーメ!?やばそうね。

かつや きっと面白いから蛍子さんも気に入るよ。

蛍子 ちょっと。蛍子でいいよ。さん付けなしで。

かつや あ、そっか。じゃあ…蛍子。

蛍子 うん。うふふ。じゃあ私も。夕焼けかつやーレンソーラン。

かつや 何だよ、それ。やめてよ!かつやで頼むよ!

蛍子 わかったわ。かつや。

かつや 照れくさいな。

蛍子 そうだ!私すごい事思いついちゃったよ!かつやんやんつけ棒。

かつや あるけど!やんやんつけ棒っていう細長いビスケットにチョコつけて食べるお菓子。あるけど!僕は誰に説明してるんだ。

蛍子 この南京錠に二人の思いを込めて、ここの柵にぶら下げるの。

かつや え?

蛍子 永遠に続く愛の象徴として南京錠に思いを込めるのよ!

かつや でもさ、力づくで開くんだよね?

蛍子 しのごのむのしちの言いなさんな!

かつや むのしちのって何だよ。まあでも、なんかロマンチックだね。

蛍子 ゆくゆくはここがデートスポットになって恋人たちがこぞって南京錠を持ってくるわよ!

かつや そうかな〜。そうなるといいね。

蛍子 そうだ!丘の下で南京錠屋さんを開こうよ!

かつや 南京錠屋さんってなんだよ!

蛍子 がっぽがっぽのがぽり人生よ!

かつや がぽり人生ってなんだよ。がめつい感じやめてよ〜。

蛍子 南京錠屋さんのために積み立てる感じで!

かつや うわ〜。旅行とか、結婚資金とかに使いたいなあ。

蛍子 ほら、私たちの永遠の愛を南京錠に込めて!

かつや うん。わかった!

蛍子 一緒に錠をするわよ!

かつや うん!準備はいい?

蛍子 望むところ!望むところ!望むとこ…ろ。

かつや う、うん。…せえの!

錠がかかる音。



⑤ 劇団ペンチペーメ



前説の雰囲気で。

平 どうも〜。

浦 どうも〜!

平 俺たち!

浦 劇団ペンチペーメ!

平 発音いいねえ。

浦 そうなんです!発音いいんです!ペンチペーメを発音良く言ったらパンチパーマに聞こえませんか?ペンチペーメ!

平 聞こえる!ペンチペーメはパンチパーマだ!すげえ!目から鱗ボロボロボロボロボロボロボロ〜。

浦 おいおい。目から鱗落ちすぎて、目に申し訳ねえぜ!

平 ごめん目!

浦 ということで、僕がペンチペーメ1号です!

平 そして僕がペンチペーメ2号です!

パンチパーマをうりうりと合わせる。

1号 ペンチペーメとペンチペーメを合わせて。

2号 幸せ!

男達 いえ〜い。

1号 何もかかってなーい!普通お手手のシワとシワを合わせて幸せなのに〜。

2号 ペンチペーメはかけてるけどね!

1号 うまーい!

男達 いえ〜い。

1号 はい!え〜只今より劇団ペンチペーメの第五回公演『パンチはチャンス!チャンスはパンチ』始めていきたいと思います!

2号 始めていくぜ〜。ペンチペンチ!

1号 まずは遠くから来たよ〜!遠くから来たよ〜!遠くから来たよ〜!

2号 おい!1号!遠くから来たよ〜だけじゃ。遠くから来たアピールしてるパンチパーマじゃないか!

1号 いっけね!

2号 そしてそんな遠くから来たアンケートとっても、遠いな〜って言うしかないからやめようぜ〜!

1号 わかったぜ!ペンチ!じゃあどうしたら盛り上げられるものなのか!

2号 おいらに任せてつかあさい!

1号 任せるぜ!

2号 パンチパーマをかけまして、そのパンチパーマを解く

1号 お!その心は?

2号 つらぽん。

1号 うめえ〜!パンチパーマをかけたのにパンチパーマを解いて普通の髪型になっちまったら、そりゃあつらぽんだぜ〜。

2号 つらぽん。

1号 2発目〜つらぽん2発目〜!

2号 つらぽん。

1号 3発目〜!3発も出た!お?まだ出るか?出るか?

2号 つらぽん。

1号 出た〜!ありがとう〜!4発目ありがとう〜。

2号 エンジンかかって来たね〜。すでにパンチパーマはかかってるけどね〜。

1号 言葉が出ない〜!うますぎて言葉が出ない〜!

2号 いえ〜い。ペンチペンチ!

1号 え〜、開演に先立ちまして、2、3諸注意があります!

2号 急に諸注意だぜ〜ぺンチぺンチ!

1号 一つ目!会場内は飲食、喫煙はご遠慮ください!もしそういう方を見つけた場合は、

ペンチペーメにしてもらいます。

2号 俺からしたら羨ましいぜ!ペンチ!

1号 二つ目!公演中の写真撮影などはご遠慮ください!もしそういう方を見つけた場合、ペンチペーメにしてもらいます。

2号 もしもペンチペーメの上にペンチペーメをかけたら何ンチぺーメになるんだあ?おい!ペンチペンチ!

1号 三つ目!携帯電話などの音の出る電子機器をお持ちの方は電源をお切りなる、必要はない!!!

2号 え!?おい!ペンチペーメ1号何を言ってるんだ!

1号 いいか?昨今の世の中は携帯電話がないと生きていけないのであ〜る。

2号 確かにであ〜る。

1号 ということで、今回の公演は携帯電話の電源は入れておいていただきたい!

2号 わお!朗報朗報!

1号 さあ皆さん!電源をつけて!

客席の電気つく。

2号 さあさあ!

1号 ただしマナーモードにはしていてね!

2号 マナーモードは必須!さあさあ。

1号 何と公演中、携帯電話いじるタイムを設けます!

2号 朗報朗報!

1号 それは、この2号がアクションをします。その時が、いじるタイムの始まりです!

※このポーズがある時、お客さんは携帯を触ってよろしいのです。

2号 このアクション!うえ〜い!うえ〜い!ほら、1号!お客さんの動きを誘って!

1号 オウマイペンチ!(ガラパゴス携帯を取り出して、お客さんが取るべきポーズの見本を見せる)

1号 このアクションがあれば携帯電話を思いっきりつけて、思いっきりいじっちゃってください!

2号 このアクション!

1号 揺らしてもいいんじゃないの〜?

2号 いいんじゃないの〜?

1号 携帯電話をしまうタイミングは僕のこのポーズ!(チューを待つ体勢)

2号 セクシー!セクシーキモキモ体勢!セクシーキモキモ!

1号 このセクシーキモキモポーズで携帯電話をしまっちゃってください!

2号 このセクシーキモキモポーズでよろしくしちゃって!

客席の電気暗くなる。

1号 そしてそして今回の公演はね、ご覧の通り野外ということなんですけどもね、はい、ものすごい野原ですよね〜!

2号 寒くないかいペンチ〜?

1号 ですのでトイレがありません!それに伴いトイレ休憩はありません!すいません!

2号 すいませんペンチ〜。

1号 なお!今回の公演時間はだいたい13時間を予定しております!途中で席を立たないようにしてください!

2号 席を立つなよペンチ〜!

1号 長々と失礼いたしました!それでは劇団ペンチペーメ第五回公演『ペンチはチャンス、チ

ャンスの前にはペンチペーメ、ペンチペンチのペーメペンチ、チャンスペンチのまたペン

チ…』

2号 おいおい、この人、公演のタイトル忘れちまってるよ〜。ギャフンペンチペーメ!

1号 開演です!


暗転とミュージックをはさみ、そのまま劇団ペンチペーメの公演が始まる。


男Aと男Bとの会話。

A 結局ね、人ってのは不可解なものとか説明できないものがダメなんですよ!脳みその仕組みとしてそうなってるんですよね。

B へえ。

A 人間は全ての事象に理由をつけたい生き物なんですよ!

B 理由をつけたい生き物ね。

A あの、妖怪が生まれた理由もそうらしいんですよ。

B 妖怪って…天狗とか?

A ああ、そうですそうです。

B 天狗って鼻がこうなってる感じの。

A まあ相場はこうですけど。

B その天狗に理由があるの?

A あるんですよ!天狗っていうのは昔、日本に隠れて住んでいた外国人が元になってるらしいですよ。昔の日本人は外国人を見たことがなかったから、あれは妖怪だっということで処理してたんですよ。

B おもしろいね。

A 結局人ってのは謎を謎のままにしておきたくないんです。妖怪とか、そういう理由を作って安心してるんですね。

B ふ〜ん。

A あ、何かすいません!今日初めてあったばかりなのに、変な話して。

B いいよいいよ。お客さんも全然来ないわけですし。

A そうですよね。大丈夫なんですか、このお化け屋敷。

B まあ、古いお化け屋敷だからね。誰かが支援して運営してるのかもね。このアルバイト何で知ったの?

A あの、あれです。電信柱に張り紙貼ってて。電話してって感じで。

B よくそれに電話したね!

A まあ、勇気いりましたけど。暇だって書いてあったんで。

B 確かに暇だね。

A はい。あの、これってちゃんとバイト代出ますよね?

B 出るよ。この運営費ってほぼ電気代か人件費ぐらいだから。

A 僕らと受付のおばちゃんしかいませんもんね。

B え?受付のおばちゃん?

A はい。チケットをもぎるおばちゃん。

B チケットもぎるおばちゃんって誰?

A え?いや、いましたよ。ほらあそこ。…え?

怖い雰囲気充満。

B (怖い顔)

A え?え?え?

B おじちゃんだよ。

怖い雰囲気消え去る。

A ああ!おじちゃん!

B そうだよ〜。

A ちょっと怖い感じ出さないでくださいよ〜。

B そう?ごめんごめん。

A もう〜。あれですか?ここ、結構長いことやってるんですか?

B そうだね。もう五年以上かな。

A ベテランさんじゃないですか。

B ベテランに足が生えているようなもんだね。

A あ、そ、そうなんですか。なんか初対面な感じしないですね。お互いパンチパーマですし。

B ああ、これ。パンチパーマなのかな。

A パンチパーマですよ!歴としたパンチパーマ。僕のより渋いっすよ。

B 一緒だと思うけど。

A やはりパンチパーマもベテランですね!

B パンチパーマもベテラン?

怖い雰囲気充満。

B (怖い顔)

A え?え?え?

B ベテランだね〜。

怖い雰囲気消え去る。

A ああ!よかった!

B ん?

A なんかすごい怖い顔してたんで、機嫌損ねたかと思いましたよ!

B そんなことで機嫌損ねないよ。

A そうですよね。なんかすいません。

B いいんだよ。あ、ちょっと練習しとく?

A 練習?

B お客さん来た時の。

A ああ。確かにちょっと不安ですね。練習していいですか?

B もちろん。

男Aは後ろの壁から首だけだす。

A 生首だぞ〜。

B …。

A 生首だぞ〜。

B …。

A 生首エレベーター。

B …。

A 生半分首〜。

B …。

A 生頭頂部〜。生前髪〜。

B …。

A なんか言ってくださいよ!

B え?

A 良し悪しを言ってくださいって!

B 良し悪し?

A 今のパフォーマンスの良し悪しですよ!

B パフォーマンスの良し悪しだって〜?

怖い雰囲気充満。

B (怖い顔)

A え?え?

B 良し!

怖い雰囲気消え去る。

A スッと言って!その溜めるのやめてくださいよ!すごい不安になるんですよ!

B ごめんごめん。でもいい感じだよ。

A じゃあ、ちょっとベテランの技、見せてもらっていいですか?

B いいよ。

男Bは後ろの壁から体半分だす。

A あ、体出しちゃうんですか!半身出しちゃうんですか?

B うええ〜。

A 怖いですか?それ!

B 怖くないかな?

A いや、体半分出てるし。

B そうかな、ベテランはこうなっちゃうけどね。

A ベテラン関係あります?

B ベテラン関係ないよね〜。

A …出て来てもらっていいですか?ずっとそうしてないで。

B そうだね。でも本当に暇だね〜。眠たくなっちゃうよね〜(伸びをする)

一瞬、壁の反対側から手が出る。

A え?え?え?え?え?

B どうした?

A え?え?いや、手が!

B 手?

A いや、すいません。見間違いかな。

B 暇だよね〜。

男Bは壁の後ろに隠れる。男Bが隠れた側から手が出る。

A ちょっと!出て来てくださいよ。生手とか言うんじゃないでしょうね?

男Bは、手が出てる反対側から出る。

A え?え?え?え?え?

B どうしたの?

A 今手が!

B 手?

A こっちから手が出て。こっちから出て来ましたよ!

B お化けじゃない?

A ちょっと怖いこと言わないでくださいよ!

B あ、もしかしたらお化けも人間の理由づけなのかな?

A え?

B さっき君言ってたじゃない?妖怪の話。お化けも同じなのかなって。

A ああ、確かに。なんか後ろに気配がするとか、家の中でパキッて音するとか、お化けのせいにしますもんね。

B それで安心をしているというわけだ。

A まあ、妖怪もそうですけど、お化けなんていないですからね。

B なるほどね。お化けいないか。

A いないですよ。

B ちょっとこのお化け屋敷の話してもいい?

A え?なんですか?

B このお化け屋敷ね、3年前に火事になったんだ。

A え?火事?

B ここのお化け屋敷って結構入り組んでるでしょ?

A はい。

B だから火事の時にアルバイトの子が一人逃げ遅れて死んじゃったんだ。

A へえ。それは不幸な事故でしたね。

B それ以来、このお化け屋敷は閉鎖されたんだ。

A え?閉鎖?あ、それから年月を経て、もう一度開業したっていう。

B ううん。人一人死んじゃってるから、二度とお化け屋敷はできないよ。

A …いや、だって。ほら。やってるじゃないですか?

B やってるのかな?

A やってるでしょ!だってほら、お客さんだって…。

B 来てないね。

A いやいやいや、そんなわけないじゃないですか。だって僕だってここにいるわけですし。

B その火事の時、逃げ遅れたアルバイトの子っていうのが…。

怖い雰囲気充満。

B (怖い顔)

A え?え?え?

B (怖い顔)

A ちょっと。冗談でしょ?

B …僕。

A あ!怖いまま!怖いままだ!

B 火事の時に、この頭になった。

A それでパンチパーマ!?そんな綺麗にいく?

B 強めのヘアアイロンだね〜。

A ヘアアイロンどころじゃないでしょ!炎でしょ!ガチンコの炎でしょ!

B へへへ。

A はあ!怖い。怖い。

B なーんちゃっ……。

A え?え?え?

B なーんちゃっ……。

A なーんちゃ?

B なーんちゃっ……。

A て来い!て来い!て来て!お願い!

B …て!

怖い雰囲気消え去る。

A 来たー!て来た!よかった!

B ごめんね。驚かせたみたいで。

A 本当にお願いしますよ〜。もう〜。悪い人だな〜。

B ごめんごめん。

A もう〜。

B そんな火事でパンチパーマにはならないよ。

A そこ!?そこなんですか!

B そう、そこだけね。

A …え?

B そう、そこだけ、なんちゃって。

A え?いやいや。もう。ね。ちょっと。あ、僕もう、バイト上がる時間かな。はい。そろそろ帰らないと。すいません帰ります!あれ?受付のおじちゃんは?

B 受付のおじちゃん?いたかな〜。

A あれ?真っ暗なんですけど。

B 真っ暗?

A え?出口ってこっちですよね?

B 出口?ないよ。

A え?

B 出口も入り口もないよ。だってこのお化け屋敷、もう取り壊されてるんだから。

A ちょっと…。じゃあここ何なんですか。ちょっと!

男Bはじわーっと男Aに近寄る。

A ちょっと勘弁してくださいよ!嘘ですよね?なんちゃってですよね!

男Bはじわーっと。

A あ、あ、助けてー!

強風が吹くバビューバビュー。

すると、どこからともなく、すこぶる大きい麦わら帽子が飛んでくる。

A え?え?

B え?え?

A え?

(コソコソ話の感じで)

B おい、何それ?

A 知らないよ。なんか飛んで来た。

B おい、どうする。

A いや、どうするって。

B どうにかして。

A え?どうにかしてって。えっと。

B 早く!

その場をごまかすようにして、すこぶる大きい麦わら帽子を、盾のように持つ。

A キャプテンアメリカだ!

B ええ!?

A キャプテンアメリカだ!

B 嘘だろ?

A 仕方ないだろ!これしか思いつかなかったんだよ!

B もう知らんぞ。

A キャプテンアメリカはお化けに強いんだ!

B 何その設定!

A 知らんよ!行くぞ!おりゃあおりゃあ!

B うが〜。

A 肉弾戦おりゃあおりゃあ!

B やられたー!

A はあ、はあ、はあ。倒した。もはや僕はキャプテンアメリカなどではない!キャプテーン世界だ!

B 何それ。

A おい!あと12時間あるんだから、次行くぞ!

B めちゃくちゃだ〜。



⑥ 今 小高い丘にて



青年とおじいさんがいる。おじいさんは前へ向いている。

おじい そうしてキャプテンアメリカが暴れまわるという内容が後12時間続いたんだ。

青年 え!?キャプテンアメリカのままいったんですか?

おじい まあ、引くことができなかったんだろう。

青年 公演全部見たんですか?

おじい ああ。拷問だった。4列シートの夜行バスぐらいしんどかった。

青年 そんな長い時間よく見れましたね。

おじい まあな。結局携帯電話をいじるタイムもなかったし。

青年 なかったんですか?

おじい 携帯電話のやつやってみたかったけどね。(携帯電話を掲げる動きを見せる)

青年 ああ。

おじい 途中で蛍子の麦わらも登場してな。

青年 かわいそうに。それで変な方向に行ってしまったんですね。

おじい ただな、蛍子は、とても楽しそうだったんだよ。とても笑ってたんだ。とても幸せそうだった。

青年 それは良かったですね。…あ!ていうか!このデートスポットの始まり!おじいさん達からだったんですか!?

おじい まあ、そうなるかなあ。

青年 すごいですね!わからないですけど、握手してください!

おじい いらんだろ!握手は!

青年は握手をグーでしようとする。

おじい 握りこむな!パーでするんだよ!

青年 すいません!つい癖で…。

おじい どんな癖だ!ったく。

青年 (伸びをして)ふう〜、ここからの景色、素晴らしいです。

おじい そうだな。ここからの景色は変わっとらんよ。

青年 そうだ!蛍!

おじい ん?

青年 おじいさんの言ってた蛍の川ですよ。この近くにあるんですよね?僕知りませんでしたよ!

おじい そうだが。

青年 ちょうど今の時期なら蛍見られるんじゃないですか?

おじい 昔ならな。

青年 え?

おじい あそこから下ったところにな、綺麗な川が流れておった。もう枯れてしまったよ。だから蛍はもう見られない。

青年 そうですか。残念です。きっと綺麗だったんでしょうね?

おじい ああ、美しかった。とても美しかったよ。

青年 見てみたかったな。自然がなくなっていくのは辛いですよ。これはね、僕は声を大にして言いたい!自然無くなるの嫌なんですよ!!

おじい どうしたどうした?急に。

青年 すいません。だって蛍が減ってるとか、自然が壊されてるとかのニュースが途切れることないじゃないですか。

おじい まあ、仕方ないことだ。これも進歩なんだよ。

青年 悪い進歩だと思うな〜。こんなの。

おじい 人間はな、後ろには下がれないんだよ。目が前についちまってる。前に進むしかないんだな。行先がどんな場所だろうと、行く途中で何を捨ててもな。

青年 でも蛍みたいな綺麗なものがなくなるのって悲しいです。

おじい 確かにな〜。まあ、お前はまっすぐ前向いて歩いていけ!

青年 はい、ありがとうございます。あれ?

おじい なんだ?

青年 おじいさん今何しているんでしたっけ?

おじい え?いやだからばあさんとの思い出の場所を巡ってるんだよ。

青年 結構、後ろ向きに進んでますね。

おじい ん?

青年 人間っていうのは目が前についちまってる〜って。

おじい いや、それは人間全体のベクトルのことを言ってるわけで。

青年 前に進むしかないんだな。行先が、あって〜、行く途中にパーキングエリアあるか?みたいな。

おじい そんなこと言っとらんわ。

青年 だって目が前についちまってるせいで〜、パーキングエリアが見つからなくて〜って。

おじい パーキングエリアのことは言っとらんぞ、一回も!

青年 だって目が前についちまってて〜。

おじい もうええわ。ええか!わしはこっちが後ろだから。

青年 え?

おじい 特殊な体だから。こっちが背中だから。

青年 え?こっちが背中なんですか?

おじい まあまあ、な。

青年 あの、一旦この話は…。

おじい そっち置いといて。

青年 はい。わかりました。こっち置いときます。

おじい なんか疲れてしまったよ。

青年 僕もですよ。

二人は座る

おじい 久しぶりにこんなにしゃべったよ。

青年 僕も久しぶりにこんなに話を聞きましたよ。

おじい しゃべり疲れた。意外に疲れるもんだな。話をするというのは。

青年 そうですね。

おじいさんと青年前を向いてる。

青年 蛍子さんとはその後どうなりました?

おじい 鞭打つのう!

青年 はい?

おじい すごい喋り疲れたアピールしとったのに。

青年 すいません!全然話したくなかったら話さなくていいので!そこは自由なんで!

前向いている。

おじい わしと蛍子のその後なんだが。

青年 おじいさん?

おじい いやちょっと、喋らんのは喋らんで気持ち悪いというか、なんか、おしゃべりハイというか。

青年 ああ〜、ウーロンハイみたいな。

おじい いやいや、ランナーズハイみたいなやつだ。

青年 ああ、僕もランナーズハイだと思って言いました。

おじい ん?ウーロンハイって。

青年 ああ、ランナーズハイって言おうとしてたんです、わかってたんですけど、なんか口からはウーロンハイって出てしまって、普通そういう間違いとかないと思うんで。ランナーズハイだとわかってました。

おじい ん〜、一旦この話は…。

青年 そっち置いといてください。すいません。

おじい わかったわかった。お互い様だな。

青年 はい。それより蛍子さんとかつやさんの話を聞かせてください。

おじい ああ。わしと蛍子はな、その後もずっと付き合ってたんだ。

青年 へえ。ずっと?

おじい ああ、二人とも27歳の大人になって、いよいよわしも覚悟を決めたんだよ。

青年 覚悟?

おじい わしは蛍子さんに綺麗な川に浮かぶ蛍を見せたかった。そこでプロポーズをしようと思ったんだ。

青年 うわ〜。ロマンチッキー!ロマンチッキーですね?

おじい ああ、ロマンチッキーじゃなあ。ロマンチッキー?

青年 そんなロマンチッキなところでプロポーズしたら絶対OKもらえますね!

おじい そうなるはずだったが、人生っちゅうもんはなかなかうまくいかんようにできとるんだな。

青年 え?

おじい 思い出すなあ。この歳になっても鮮明に覚えておる。そう。あの日わし達はここの道を通り、あの向こうに流れている蛍の川へ、蛍子と手をつないで歩いて行ったんだったなあ。

おじいさんは思い出の世界へと。

青年 あの!

おじい え!?え?え?え?

青年 あの思い出してるところすいません!

おじい ん?

青年 一応、お互い、ここに置きっぱなしにしてる話ありましたよね?

おじい ああ。あったな。

青年 どうします?

おじい …処分しよう。

おじいさんと青年は同時に置きっぱなし話を蹴り上げる。



⑦ 昔 蛍の川



少し薄暗い中、虫の声が聞こえる。

その中、かつやが蛍子の手を取り、誘導している。蛍子は目を閉じている。

かつや もうすぐだからね。

蛍子 ちょっとなになに?怖いんですけど。

かつや もうちょっと。あ、ここ木の根っこあるからまたいで。

蛍子 え〜木の根っこがあるの?くらあ!(根っこを蹴り抜く)

かつや 避けてよ!根っこを蹴り抜かないで!

蛍子 何?ちょっとどこ連れて行くのさ〜。このままサプライズバンジージャンプだけは

勘弁よ。

かつや そんな危ないことしないよ。

蛍子 あれは本当に死を覚悟するんだから。

かつや やられたことあるの?

蛍子 6度ほど。(むど)

かつや 6度!?6度ってこと?聞いたことないよ。

蛍子 え〜。まさか!このままサプライズ猛獣バトルに突入しないわよね。

かつや なんだよ。サプライズ猛獣バトルって。

蛍子 ジャガーとは戦わせないでね。

かつや ジャガー?!

蛍子 森の中でジャガーと戦うことは即死を意味するから。

かつや そんなことしないから!目的がわからない。

蛍子 え〜、じゃあ目を開けたら綺麗な川に浮かぶ無数の蛍とかやめてよね!

かつや え?

蛍子 かつや?

かつや え?

蛍子 え?

かつや え?

蛍子 もしかして正解しちゃった?

かつや え?あ、うん。

蛍子 あ、当たったんだ。なんかごめん。

かつや いいよ。そんなピンポイントでくると思わなかったけど。

蛍子 鋭くてごめん!

かつや こちらこそごめん!でも!実際見たら驚くよ!じゃあ目を開けて!これが蛍の川の

蛍乱舞だよ!!

蛍子 あ。

かつや あ。

蛍子 ん?

かつや あれ?蛍いない。

蛍子 いないね。乱舞どころか一舞もしてないわね。

かつや あ、あれ?おかしいな。昨日、下見した時はいたのに。

蛍子 まあまあまあまあ。そういうこともね。あるんじゃない?

かつや あれ?え?あれ?

蛍子 まあまあまあ。あれじゃない?下見専用蛍じゃない?

かつや いないよ!下見専用だなんて。おかしいな。

蛍子 まあまあまあ。

かつや おかしいよ!いたのに!昨日は本当にいたんだよ!本当だよ!

蛍子 信じる信じる。信じるから。

かつや おかしいよ。おい!蛍!笑顔蛍だろ!出てきてくれよ!おい!

蛍子 まあ、ね。そういう時もあるわよ。ね。

かつや いやだいやだいやだ〜。

蛍子 ああ。ああ。ああ。もう。

かつやはゴロゴロと駄々をこね始める。

蛍子 ああ。ああ。もう。もう。地面を転がって。川沿いだから地面すごい湿ってるから。もう。ああ。ああ。

かつやはゴロゴロと駄々をこねる。バリエーション豊かな駄々のこね方。

蛍子 ああ、もうもう。すごいすごい。ローリングがすごい。ピンってなったりしてる。息継ぎなしクロールとかしちゃってる。いつもちゃんとしてるのに新たな一面!

かつや 蛍子〜。蛍がいないよ〜。

蛍子 まあまあ、仕方なしでしょ。

かつや はあーあ。ねえ。蛍子。

蛍子 落ち着いた?

かつや 地面の冷たさでクールダウンできた。

蛍子 長いこと地面に接してたけどね。

かつや ああ〜どうしよう。

蛍子 どうしようって。また来ればいいじゃない?

かつや 今日じゃなきゃダメなんだよ。

蛍子 なんで?

かつや 今日はさ、付き合って10年記念日なんだよ。

蛍子 そうね。もう10年になるんだね。

かつや わかった。覚悟を決めた!

蛍子 覚悟?

かつや あのさ。本当は綺麗な蛍を見せてから言うつもりだったんだけど。

蛍子 うん。

かつや これ。

かつやは指輪を取り出す。そして見せる。

蛍子 指輪…。

かつや あ、あの、僕と結婚してくれないか?

2人にライトが当たる。ミュージックがかかる。

その中、蛍子は何かを喋っている。

かつやは聞き取れない。

かつや え?何て?

蛍子は何かを喋っている。

かつや ごめん。何を言ってるの?

かつやの頭がキーンとする。

かつや うっ。(頭を抑える)ちょっとどうしたんだよ!蛍子!返事を聞かせて

くれないか。

蛍子を照らしていたライトが消え、蛍子がいなくなる。

かつやは蛍子を追いかけようとするが足がもつれ、倒れてしまう。

かつや あれ?これは、これは、何だ。わしは何をしてるんだ。いや、僕はどうしたんだ?頭が痛い。頭が痛いのう。僕は、わしは、あれ?ん?ああ、ん?蛍子か?蛍子?蛍子?どこ行った?あ、あれは、蛍?



⑧ おじいさん



病院の待合室。椅子に座っている青年。

青年 …。

急に立ち上がって周りをウロウロしたり。落ち着かない様子。そわそわを体現している。そわそわの権化と言うと過言である。

そこにようやくお医者さんが来る。しかしお医者さんの息づかいは荒い。

青年 あ、あの!おじいさんは?

医者 ご家族の方?

青年 えっと、家族ではないのですが、友達です!

医者 友達?

青年 そうです!そんなことより、手術は?おじいさんの手術はどうだったんですか?

医者 手術…成功したよ。

青年 (安堵)よかったあ。本当によかったあ。

お医者さんは待合椅子に座る。お医者さんは相変わらず息づかいが荒い。

医者 うん。なかなか厳しい手術だったよ。うん。強敵だったよ。

青年 そ、そうですか。ありがとうございます。

医者 でもね、まだまだ油断はできないよね。これから、経過を見ていきたいと思うよね。うん。

青年 そうですか。ありがとうございます。

医者 長丁場だったよね。

青年 お疲れ様でした。

医者 うん。メス、汗、メス、汗ってさ、リズムカルに手術できたよ。

青年 そうですか。はい。

医者 やはり俺ってさ、汗っかきだろ?

青年 知らないです。

医者 だからさ、汗っていう割合が多めだったよ。これはね、反省点だよね。次の試合に活かしていきたいと思うよね。

青年 試合?

医者 まあファンのみんなの応援ありきだからさ。

青年 ファンのみんな!?

医者 研修医達ね。うん。

青年 研修医がファンなんですか?

医者 そうだよ、だいたい俺に憧れてる奴らばかりだからさ。

青年 そう、なんですね。はい。

医者 次の試合はね、一撃で仕留めてやるよ!このやろう!

青年 レスラー感が溢れてますね。

医者 難しい手術が成功した後はね、やっぱり気分がね、高揚してしまうんだよね。落ち着かないんだよ!

青年 そうですか。

医者 次の対戦相手連れてこいよ!このやろう!

青年 レスラーすぎないですか?それは。

医者 次はお前か?

青年 僕じゃないですよ!

医者 麻酔を口に含んでプシャーってするぞこのやろう!

青年 やめて!毒霧ですか?

医者 麻酔霧だこのやろう!オペさせろこのやろう!

お医者さんは青年の胸ぐらをつかむ。

医者 オペってやんぞこのやろう!

青年 ちょっとやめてください!

医者 おい!セコンド!手術室に有刺鉄線のリング作っとけこのやろう!

青年 意味わからないですよ!それは!ああ、ちょっと!

お医者さんの動き止まる。

青年 あれ?先生?

医者 え〜、このタイミングではありますが。

青年 え?

医者 今、落ち着いてきました。

青年 ああよかった!落ち着いたんですね?

医者 すいません。いや、本当に申し訳ありません。

青年 まあまあ、大変な職業でしょうし、癖の一つや二つありますよね。

医者 いやはや、お恥ずかしい。

青年 いや、いいんですよ。ちゃんとした先生だとわかってよかったですよ。

医者 手術となると、こう自分を鼓舞しないといけなくて。

青年 いやいや、おじいさんの手術が成功しただけで安心しましたよ。ありがとうございます。

医者 はい、確かに成功はしたんです。

青年 …はい?

医者 まず後遺症の話をしなくてはいけません。

青年 え?後遺症?

医者 ここに運び込まれた時には、脳の一部の血管が破れていたんです。そのために大きな血栓ができてしまいました。

青年 血栓?それは大丈夫なんですか?

医者 はい。それは手術で取り除くことができました。

青年 はい。

医者 命に別条はありません。…ただ。

青年 ただ?

医者 記憶に障害が残るかもしれません。

青年 記憶に障害…。どういうことですか?

医者 一時的に血栓ができたことによって、記憶を司る海馬への血液供給が一時遮断されました。

青年 はあ。

医者 それによって記憶を思い起こす活動が困難になるかもしれません。

青年 え?それって、もしかして大切な記憶まで無くなるかもしれないんですか?

医者 無くなりはしません。思い起こす活動が困難になるのではないかと。

青年 そんなの無くなるのと同じでしょ!先生!おじいさんはさっきまでおばあさんとの大切な思い出を巡っていたんです!あんまりじゃないですか!

医者 あとは安静にしてもらって経過を見るしかないんです。

青年 …あの、おじいさんには会えますか?

医者 今はあちらで眠っています。顔を見るぐらいなら大丈夫ですよ。

青年 お願いします。

医者と青年はおじいさんのいる方へ歩いていく。(こんな途中からではありますが、お医者さんを

敬称略させてもらい、医者とさせてください)

医者は扉を開ける。

医者 え?

青年 おじいさんどこですか?

医者 あれ?さっきまでここに。

青年 ちょっと!いないじゃないですか?

医者 ん?点滴も外されている。

青年 おじいさん、どこ行ったんですか?

医者 え!?あ!どこ?え?どこ?パニックだ!パニック!パニック!パニックだこのやろう!かかってこいこのやろう!

青年 レスラーでた!

医者 どこ行きやがった!逃げも隠れもしねえぞ!出てきて戦えこのやろう!

青年 戦わないですよ!

医者 おい!どこかじいさんの行きそうなところに心当たりはないのか!このやろう!

青年 え?行きそうなところ?

医者 思い出せこのやろう!このやろう!

青年 うるさいです!えっと。思い出の場所巡ってて、えっと。あ…蛍。

医者 蛍?

青年 そうだ!蛍だ!

青年急いで走り去る。

医者 おい!蛍ってなんだ!おい!どこ行くか言え!!ちくしょう!待て!このやろう!

かかってこいこのやろう!あいつ足速えなこのやろう!

医者は地団駄を踏んでいる。



⑨ 今 蛍の川



虫の音が響いている。

患者服を着たおじいさんが地面に座り、前をのぼーっと見ている。

青年が走り込んでくる。

青年 はあ。はあ。(息切れ)おじいさん。やっぱり蛍の川に。

おじい ん?

青年 ん?じゃないですよ!無邪気に!

おじい ん?

青年 本当に心配したんですからね!もう〜。勝手に病院抜け出して!

おじい ん?

青年 もういいわ!ん?は!

おじい (笑顔)

青年 おじいさん、安静にしてないといけないんですって。ほら、病院に戻りましょう。

おじい ……どちら様でしょうか?

青年 …。

おじい 最近物忘れがひどくてねえ。もう歳ですねえ。

青年 おじいさん?

おじい 気づいたらね、ここにいたんですよう。うん。

青年 …。

おじい ここはどこですかね〜。何もありませんねえ。

青年 おじいさん。

おじい なんか懐かしいね〜。

青年 …。

おじい 知らない場所なのに懐かしいっておかしいですかね〜。

青年 …あの、横座ってもいいですか?

おじい ああ。いいよう。話し相手になってくれるのかい?

青年 はい。僕でよければ。

おじい 最近の若者は捨てたものじゃないねえ。

青年 …はい。捨てたものじゃないんです。

おじい はっはっは。

青年 …。

おじい ここは本当に何にもないね。

青年 …おじいさん知ってました?ここで蛍見られるんですよ。

おじい へえ。こんなところで。

青年 珍しい蛍なんです。笑顔蛍って言って、なんか背中の模様が笑ってるように見えるんですって。

おじい ほお〜、それは見たことないね〜。笑顔蛍。

青年 笑顔蛍です。

おじい 君は若いのに物知りだねえ。

青年 友達に教えてもらったんですよ。

おじい そうか。物知りな友達だね。そんな珍しい蛍なら見てみたいねえ。

青年 もう見られないそうです。

おじい はあ。

青年 昔はここに綺麗な川が流れてて、たくさんの笑顔蛍が乱舞してたんですって。

おじい 乱舞?…きもきも〜。

青年 あ、きもいんですね?きもいんだ。

おじい でも…それは、この世のものと思えないほど美しかったろうねえ。

青年 そりゃ美しいですよ!!まあ、僕も見たことないんですけど。

おじい ふふ。

虫の声。

おじい 綺麗な声で虫が鳴いてるねえ。

青年 そうですね。

虫の声。もうキリギリスウーって言ってる。

青年 絶対キリギリスだ。

おじい そう言ってるもんねえ。

虫の声。キリギリスですう〜って言ってる。

青年 もうですって言ってる!

おじい 自己紹介してるな。

青年 あの、もう夜も遅いですし。帰りましょう。

おじい 帰るのかい?もう少しここにいたいけどねえ。

青年 気持ちはわかりますけど、冷えますし。

おじい そうかい?

青年 ほら、おじいさんの帰りを待ってる人もいるでしょうし。

おじい 待ってる人?あれ?待ってる人?ん〜、あれ?おかしいな。

おじいさんはブツブツといいながら、うつむく。様子が変だ。

青年 おじいさん?どうしたんですか?大丈夫ですか?おじいさん?

おじい ああ。…蛍子かい?よく来てくれたね。

青年 おじいさん?

おじい 僕は君にこの笑顔蛍を見てもらいたかったんだよ。どうだ?

青年 …。

おじい あれ?蛍いないのう。おかしいのう。蛍がいない。蛍がいないと。

おじいさんは駄々をこねる。まるで子供のように。

青年 ちょっと!ああ、もう!大丈夫ですか?

おじい 蛍子や。あの、あの、本当は綺麗な蛍を見せてから言うつもりだったんだが。

青年 おじいさん?

おじい かつやだよ。なんだ、おじいさんというのは。

青年 あ。ごめん、なさい。

おじい まあ、蛍子は天真爛漫だから予測がつかん。本当にすまんな。蛍見せてやれんみたいだ。

青年 う、うん。大丈夫。

おじい あの、この指輪。

青年 指輪?

おじい ああ。僕と結婚してくれんか?

青年 …はい。はい!

おじい ああ、そうか。よかった。…よかった。

青年 うん。よかった。

おじい でも蛍子に笑顔蛍を見せられないのはとても残念だ。

青年 残念だけど仕方ないよ。

おじい 蛍子。ほら、耳をすませてごらん。綺麗な虫の声じゃ。(目をつむる)

虫の声。

青年 綺麗な虫の声。

おじい そうだろ?

青年 でも結構虫多いね。

虫の声。

青年  うん。結構虫多いな。すごい虫がこっちに!!

青年は虫を追い払っているうちに、劇団ペンチペーメの2号がしていたポーズをしている。

※お客さんが携帯を触ってよいという合図ポーズ。

おじい どこかで見たことあるようなポーズ。

お客さんににスマホを取り出してもらう。

おじい おい!

青年 あ!

おじい これは…。

客席の笑顔蛍に気づく。

おじい …笑顔蛍…。

青年 すごい。綺麗です。

おじい こんなに。僕は、蛍子にこれが見せたかったんだよ。蛍子に見て欲しかったんだ。

青年 …うん。

おじい 蛍子。

青年 はい。

おじいさんは青年に近づいていく。

青年 え?え?ちょっと?

おじいさんはチュー態勢に入る。

青年 ちょっと!あの!ちょっと!なんですかその態勢!その態勢は何ですか!その独特な

態勢は!そのセクシーキモキモ態勢は!ちょっと!

劇団ペンチペーメ1号がしていたセクシーキモキモポーズです。

※お客さんがスマホをしまうタイミングポーズです。

青年は受け入れ態勢に入る。

おじいさんは徐々に青年に近づいていく。

ギリギリのライン、ギリラインで我にかえる。

おじい ん?あれ?おい!青年!

青年 ええ!?

おじい 何をしとんじゃ。

青年 何って。チューの受け入れ態勢をとってて。

おじい はあ?チューの受け入れ態勢じゃと?気持ちの悪いこと言いおって!

青年 いや、だってかつやが。

おじい ジジイを下の名前で呼ぶな!

青年 ああ、ごめんなさい!

おじい は!お前!最初にわしに親切にしたのは我が唇を奪うためか!

青年 違います!断じて!

おじい まあ、そういう同性愛に文句はないが、同性のジジイ相手とは、なかなか高次元の話じゃないか!

青年 違いますから!誤解です!…え?もしかして記憶戻ったんですか!?

おじい はあ?記憶?何を訳のわからんこと言っとるんだ。わしはずっとここに。ここに?ん?なんじゃこの格好。

青年 僕めちゃくちゃ頑張ったんですからね!

おじい だから何を訳のわからんことを!

青年 見てください!

先ほどのたくさんの笑顔蛍の写真を投射。

おじい え?…これは。笑顔蛍。蛍の川か。これは夢じゃないのか。

青年 夢じゃないんです。

おじい …ああ。

青年 本当にいましたね。とても綺麗です。

おじい 蛍子に見せたかったな。

青年 きっと見てますよ。

おじい そうだな。

青年 でもどうして川もないのに蛍が現れたんだろう。

おじい ん〜わからないが、蛍がものすごい優しさで来てくれたんじゃないか?

青年 そうですね。ものすごい優しさがないと現れないですよね。

おじい …笑顔蛍か。

青年 はい。笑顔蛍です。

おじい スマイルホタル。

青年 いやなんで英語にしたんですか?スマイルホタルって!

おじい 略して、スマホタルじゃ。

青年 スマホタル!?

おじい はっはっは。スマホタルにありがとうです。

青年 はい。スマホタルありがとう。



⑩ 今 その後の話です



青年はおじいさんを病院に送り届ける。

青年 病院つきました。

おじい すまんな。気が付いたら一日中世話になった。

青年 いいんですよ。僕から手伝うって言ったんですから。

おじい 全くおせっかいなやつじゃ。でもありがとうな。

青年 いえ。しっかり治してくださいね。

おじい ああ。まあでも、あんな綺麗な笑顔蛍見られたんじゃ。もう思い残すことはない。

青年 何言ってるんですか!長生きしてください。きっと天国にいる蛍子さんもおじいさんに生きて欲しいって思ってるはずです!

おじい え?

青年 え?

おじい え?

青年 え?

おじい え?

青年 え?じゃなくてえ?

おじい 蛍子?天国?

青年 え?はい、蛍子さん、天国。

おじい え?

青年 え?

おじい 何を言っとるんじゃ?蛍子は死んどらんよ。

青年 ええ!?蛍子さん生きてるんですか!?

おじい 当たり前だろ。死んでるなんて一言も言うとらん。

青年 そうでしたっけ。え?じゃあ、今もおじいさんのお家にいるということなんですね?

おじい え?

青年 え?

おじい え?

青年 え?じゃなくてえ?

おじい え?

青年 ちょっと!不安になるえ?やめてくださいよ。

おじい …え?

青年 だから!そのえ!僕、何かおかしいこと言いました?

おじい わし、蛍子とは結婚しとらんよ。

青年 ええ!?

おじい 蛍の川でプロポーズした時に断られた。

青年 ええ!?断られたんですか!?

おじい うん。何か川沿いの濡れてる地面でゴロゴロだだコネてるのを見て、冷めたんだって。

青年 ええ!?冷めたんですか!?え〜。そんなことって、ちょっとひどくないですか?

おじい ひどいことあるもんか。そういうもんじゃ、人と人との関係なんてな。そういう些細なものなんじゃ。力づくで空いてしまう南京錠のように、ちょっとしたことで終わることもある。

青年 そうですか。

おじい 蛍子と別れてから、わしは今の女房と出会い、結婚したんだな。

青年 えっ?でも最初ばあさんて呼んでたじゃないですか?

おじい まあ、わしと同い年だから絶対ばあさんじゃろ?

青年 そうですけど!身内感のあるばあさんだと思うでしょ。

おじい まあそう気にするな。

青年 ということは初恋の方の思い出を巡ってたんですか?

おじい まあ、一番インパクトあった思い出には違いないからな。どんなのだったかなと思ってな。蛍子とは別れてからは一度も会っとらんよ。今はどこで何をしてるんだか。

青年 そうだったんですねえ。まあ、なんかよかったです。

おじい そうか。こんな時間まで悪かったな。

青年 いえ。

おじい そういえば予定あるんじゃなかったのか?

青年 はい。今日うちのばあちゃんの家に行く予定だったんです。でもちゃんと病院に行ってから家向かうって電話したんで大丈夫です。

おじい ほお。ばあちゃん孝行しろよ。

青年 はい!ばあちゃんも変わり者というか、すごく天真爛漫な人なんですよ。

おじい …そうか。天真爛漫なのか。…君のばあちゃんはずっとこの街に住んでるのか?

青年 はい。あ、でも学生の頃、転校してきたんじゃなかったかな。

おじい 転校?…ちなみに聞くが、君のばあちゃんの名前はなんというんだ?

青年 …そとこ。

おじい そとこ!?そとこ!?そとこ!?そとこ!?

青年 どうかしました?

おじい ま、まあ、そうよな?そらそうだ。いや、気にせんでくれ。さ、早くばあちゃんのところに行ってやれ。

青年 はい。なんか勝手について回ってすいませんでした。

おじい まあ、わしも退屈しのぎにはなったわ。

青年 またお見舞いとか行きますね。

おじい ええ。ええ。さあ行け。ったく。

車が停車する音。

そしてヘッドライトの光が差している。

その光が青年のおばあちゃんの影を映し出す。

青年 あ!ばあちゃん!今から行くって言ったでしょ。ん?ばあちゃん?

どうしたの?え?

おじい …。

青年 おじいさん?

おじいさんの目は青年のおばあちゃんを見ているようだ。そしておばあちゃんに声を投げかける。

おじい …ふふ。おい!孫に偽名使ってどうするんじゃ。

青年はえ?え?え?え?え?と動揺。

おわり


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