黒を出す為の予算計画

まず、小劇場はお金に関しての認識甘すぎる、と私は常日頃思っています。
別にそれが赤字上等ってスタンスであればそれはそれでいいと思うのですが、
無計画な予算を組むだけ組んで赤字を嘆き
あげくそれをチケットが売れない役者のせいにするのはいくらなんでも横暴です。

計画性がないと、ぶっちゃけ1000人動員できても赤字にはなります。
うん、そう、赤字かどうかと公演規模は関係やいんだよね…。

そんなわけで、黒字を出すことを信条にしている私の予算決めの方法を紹介します。
もし参考になるところがあれば幸いです。


まずroute.©︎の仕組みから。

チケット代: 前売り 2700円/ 当日 3200円
物販:ブロマイド3枚セット 500円/脚本 1000円/パンフレット 2000円/
キャスト数:14名
チケットノルマ:1人15枚

集客数:前売り 230名程度/当日 60名程度
物販売上:10万程度

※ちなみに、route.©︎はチケットノルマを達成しなかった役者から不足分の請求はしていません。目安として、1人このくらい売っていただけると赤字じゃないです!って提示しているだけで、赤字の時のリスクは全て劇団が持っています。それはもはやノルマか?※

そんなこんなで、route.©︎では毎公演90万円くらいのお金が動いております。
その中で、舞台を創り、キャストやスタッフに1〜3万の謝礼を渡し、劇団利益を15〜20万ほどいつも出している感じです。

上記を踏まえ、私の予算案の決め方を説明していきます。


○動員見込みを予想する

ここを見誤ると全ての計算が狂います。あまり夢を見ず、冷静に厳しく予想することが大切です。
旗揚げ公演後の場合は、過去公演の動員のデータと口コミ数から予想するといいでしょう。
前回公演とキャスト数やステージ数が変わらず、企画としての新しい試みもなく、口コミ数も多くなければ動員は同じくらいか少し下くらいで見込んでいた方が無難です。
旗揚げ公演で、演出と役者が無名で売れる為の具体的な戦略も無いのであれば、来るのは身内になるのでキャスト数×10〜15枚程度、まぁ大体100〜150名で予想しとくといいと思います。

間違っても、今回は自信作だから前回より2倍動員する!!できる!!!って計算はしないこと。

ちなみに、キャスト数×○枚売れるって計算方法は結構難しくて。
どうしてもみんな自分が売れる枚数で計算しがちというか。
例えば東京が地元でずっと演劇やってきて両親も親戚も友達も学校の先生も職場の人も共演者もファンもみーーーんなが観に来れる範囲にいる人が30人集客するのと、地方から出てきて2,3年位しか経ってなくて親戚も近くにいなくて声かけられるのは上京してからの友達と共演者しかいない人が30人集客するのは、全然違う。
これがわからない地元東京の演劇人、多い気がする。
試しに自分が高校時代までに出会った人を両親含めてチケットから全部引いてみるといい。

チケットを役者にいっぱい売ってもらうのは大切だけど、そこにおんぶに抱っこなのは違うんじゃないかな?って思います。

ちなみにroute.©︎では、
旗揚げ107名を踏まえて、
第二回公演 250名(客演、ノルマ制の導入とキャスト数2倍からの予想)
第三回公演 250名(第二回と規模が変わらないのを踏まえての予想)

○動員見込み×チケット代

かけ算しまーーーーーす!!!!!

間違えないようにしっかり電卓を使いましょうね。
ちなみに安易にチケット代安くしたからって長い目で見て集客に関係ない(大事)ので、保証できるクオリティの分だけ値段設定しましょう。

○原価率を決める

舞台は商品だ、って思ってます。
少なくとも黒字を出したいのであれば。

その商品を企画、製造している張本人がその商品の原価も知らないのは、私は無責任だと思います。

黒を出したいのであれば、舞台予算は原価から計算しましょう。原価の設定なので、ひとまずキャストとスタッフのギャラは引きます。
route.©︎の場合は、原価率は売上見込みの60パーセントで計算しています。
実際は見込みより売れているので、50パーセントくらい。

原価率は出したい利益やどのくらいリスクを回避したいか、から逆算すると良いかもしれません。とりあえず私は60%を目安にしてます。原価率の設定は劇団の方針によりけりだと思いますが、私個人としては80%以下にすべきだと考えます。それより上がると最低限の人件費削ることになるので。

route.©︎第二回公演の場合

2700×250×0.6=405000円

これが、決定した原価率から決定する"舞台の総予算"(原価)になります。

○どこで予算を削るのか

route.©︎の舞台の原価を話すと、大体の人に「めっちゃ安い!!どこ削ってんの?!」って驚かれます。
まぁぶっちゃけめっちゃ削ってます。ごりごり削りまくってます。
そりゃあほんとは美術も照明も音響も衣装も全部もっとお金かけたいですよ。
でも、設定した原価率、赤字を出さないギリギリで設定した原価こそが、今の私たちの劇団に見合った舞台の規模だと思ってます。そこの考え方はとてもシビアです。

例えば、小劇場で3000円でめっちゃ豪華絢爛な舞台見れたら、当たり前に嬉しいですよ。

小劇場のひと席の原価が5000円だって話もよく見るけど、それが3000円で安売りされてたら当たり前に嬉しい。誰だって3000円で5000円のコース食べれたら嬉しいもん。

でも、ひと席の原価が1500円でも、3000円で満足させるのが商品の基本だと私は思います。その作り方でしょぼいって思われるのであれば、もっと別の、作品自体のクオリティが低いだけ。
原価割れな設定でお客様が絶賛したとして、果たして正当な評価っていえるんだろうか…。
それって、作品や劇団に付加価値をつける努力を怠っているだけじゃないの…?
と、私個人的には思っています。


で、具体的にどうやって予算削るのか。
まず削れないものから書き出します。

①劇場費
絶対かかるもの。
できれば安く済ませたいもの。
なので、劇場で何を重視するかは予め決めておきましょう。
・舞台の広さ
・キャパ
・天井高
・バトン
・アクセス
…色々あると思うので、ここなら妥協できるけどここは譲れない!みたいなのを明確にしておくと良いです。
route.©︎の場合予算の都合でほぼ素舞台になるので、
・舞台の色と箱馬と平台が黒いこと(それだけでかっこいいから)
・バトンが変じゃないこと(吊りものよくするから)
あたりを必須条件にしています。

②人件費
舞台の原価には入ってないですが、だからこそ、原価から大きくずれると削られてしまいがちなところ。
人件費は払うべきものなので、そのためにも原価はやっぱり抑えましょう。

route.©︎は役者の固定ギャラを8000円程度(これに加えて各種バック金/次回公演から値上げ)、オペなどの常駐スタッフや技術スタッフを15000〜20000円程度、当日制作は1ステ2000円程度の計算してます。
劇団員のスタッフ代は相場より安くなりがちですが、それでも1役職に就き10000円くらいは払います。(ここも次回公演から値上げ)
唯一払ってない人件費があるとしたら、脚本演出舞台監督(私)です。こちらも次回公演からもらいます。笑

route.©︎はみんながスタッフできる劇団なのでスタッフの人件費は多分かなり抑えられています。

③安全に関わるもの
例えば、舞台監督を置かないとか、それはNGです。route.©︎では私が舞台監督ですが、一応中高生時代に5年程舞台監督経験があります。経験がある方や舞台の知識が豊富な方に入ってもらいましょう。
それ以外にも舞台裏のライトとか、役者が乗る舞台装置とか、そういうものは安全が最優先です。


さて、次に削れるところはどこか。これはまぁもうぶっちゃけ上記以外全部です。
大切なことは、演出のやりたいこととどう折り合いをつけるか。ここに尽きます。演出のやりたいことにお金かかることはあっても、"お金をかけること"自体を重視してる演出家はそういないと思うので、よく話し合うことが大切かなと思います。

ただ、単純に妥協してもらうのではなく、演出がやりたいことを細かく分解していくことが重要です。

たとえばroute.©︎の場合

私「衣装かわいくしたい!!!お人形の衣装は現実離れしててほしい!!!」(デザイン案ドーーン)

衣装「こないだの衣装で使ったこれをこうアレンジしたらどっすか」「この花形のフリル、いっそ取り外しできる紙花でやっちゃいましょ」

私「ほえ〜〜〜〜すっごい!!!」

私「なんか歯車とかお人形とかぶら下げたい!!!あと暗転時に星空がほしい!!!」

舞台美術「じゃあ吊りものはダンボールで。空調で少し揺れるかも知んないけどそれは大丈夫?あと釣りものに蓄光テープ仕込むことで星空作ろうと思うけど、地明かりはそこに当たらないからラスト後の暗転は暗めになるよ。」

私「全然だいじょうぶ〜〜〜!!!!」

みたいな会話がよくされています。
演出のやりたいこと、と予算内でできること、のすり合わせです。
花形フリルだって材質にこだわらなければ紙でできるし、電飾がなくても蓄光テープで星空が作れます。

パネルがほしい、だって、何故パネルがほしいのか細かく話していけばそれはベニヤ素材でもいいかもしれないし素舞台でも代用可能かもしれない。映像うつしたいとかならカーテンでもいいかもしれない。(実際route.©︎はカーテンとかシーツを吊るして映像うつしてたりする)
衣装だって古着や前回公演のリメイク、持ち寄りでもいけるかもしれないし…。

稽古場だって、文化センターとかなら1000円くらいで借りられる。青少年支援センターとかだともっと安いとこもある。稽古スケジュールを早めに出して、安い稽古場を早く押さえるのも大事なことです。
また、舞台装置が特殊であれば固定稽古場で美術組んで練習する必要がありますが、その必要性が無いのであれば固定稽古場を取らないのも一つの手です。

また、もちろん妥協してもらわないといけない部分も出てくると思います。
その中で、なるべく元々の総予算はあげない方向で、演出さんは絶対妥協したくないのはどこかを知る。

スタッフさんには予め予算を提示して、そこからこれがしたい、あれがしたい、の話をしていくことがとても大切ですね。

やむを得ない場合は、多少予算を上げてもいいと思います。
ただ、予算を上げる、原価を上げるリスクに値するアイデアとこだわりであることが絶対条件です。

○具体例
第三回公演「愛は世界を救えないけど」

総予算
2700(チケット)×250(動員見込み)×0.6(原価率)=405000

振分
劇場費 250000
プロジェクター 5000×5
舞台美術/小道具 15000
衣裳 35000
宣伝美術 35000
制作 30000
音響/照明 0(劇場費に含む)

合計 390000(原価率57%)


第二回公演「ぼくらの箱庭」

総予算
2700×250×0.6=405000

振分
劇場費 300000
舞台美術/小道具 10000
衣裳 25000
宣伝美術/二次使用料 45000
制作 20000
音響/照明 0(劇場費に含む)

合計 400000(原価率59%)


ほんとはギャラ設定やグッズ予算決定など、最終的な利益と役者スタッフへの還元率を上げる為にもっと色んなことをやっています。
が、とりあえず大まかな流れはこんな感じです。


○今後の展望

いろいろ書き連ねましたが、私たちもキャスト・スタッフの技術や拘束時間に見合ったお金を払えていません。(多分それを払うとなると1人10〜15万ほど…)
つまり、まだまだです。少しずつあげていってはいるけれど、やっぱり難しいなと思います。
とりあえずは、この作品のために削ったであろうバイトのお給料、くらいは最低払えるようになりたい…切実に…。
もうしばらく、私たちも試行錯誤が続きそうです。良い方法を発見したら共有するかもしれません。

同じ小劇場の方でもっと高い還元率のところあればぜひご教授ください。学びたい!!

演劇やればやるほど貧乏になるのは、どう考えてもおかしい。私の周りから、裕福になれずともまずは貧乏にはならないようにしていけたらなと思っています。がんばろう。

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