『放課後、ミドルノート』オーディション課題台本


 
舞台はとある女の子の部屋。散らかっている。付けっぱなしのテレビを見ながら、女の子はだるそうにベッドに横になっている。テレビでは、今はやりのアイドルが歌って踊っている。
 
女の子「好きなアイドルの、鼻の形が変わってしまいました。」
 
女の子、テレビから目を逸らす。
 
女の子「私はそのアイドルの、マイナス4点が好きでした。人の顔に点数付けるのって悪趣味ですよね。でもよく考えてください。算数国語理科社会、それ以外に音楽とか、家庭科とか、あとは体育とか!どうでもいいことにも点数をつけるでしょ。点数、って、物心ついた時から当たり前に存在していたから。だから、小学校の頃クラスの男子が、女子の顔に点数をつけていた時も、私別に何も変だと思わなかった。ただ、新しい教科が加わっただけ。新しい必修科目が。」
 
アイドル「今日はヘアメンテに行きました。いつも可愛くしてくれてありがとうございます。」(ト、写真をインスタにアップ)

アイドル「今日はまつエクに行きました。いつも可愛くしてくれてありがとうございます。」(ト、写真をインスタにアップ)

アイドル「今日はネイルに行きました。いつも可愛くしてくれてありがとうございます。」(ト、写真をインスタにアップ)

アイドル「整形?…していないですよ。」
 
女の子、ソーダ味のラムネを食べる。
 
女の子「ナントカ、味。みたいな、作られた甘さが私は案外嫌いじゃない。ソーダ味、とか。イチゴ味、とか。グレープ味、とか。結局全部同じ味なんじゃないのって思うけど、でも、この“ナントカ”って部分がきっと大事。そういうのに騙される瞬間、私はちょっとだけ優しい人間になれる。ような気がする。」
 
女の子、もう一粒ラムネを食べる。
 
女の子「……甘い。」
 
女の子、もう一度テレビに目を移す。
 
女の子「私はあの子の、マイナス4点が好きだった。でもあの子は、自分のマイナス4点が嫌いみたい。…あの子がどんどん、100点満点に近づいていく。平均点の私を置いて。」
 
 
女の子、自分の顔の形を確かめるように触る。
 
女の子「わたしはかわいい。わたしはかわいい。わたしはかわいい。わたしは、かわいい。」
 
女の子、自分の“マイナス”を見つける。
 
女の子「……あ。」
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?