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SexyZoneを信じていいのか悩む乙女たちに捧げる「Trust Me, Trust You.」①その美しさは罪かもしれない

その学園の東の端にひっそりと存在する
「極東の庭」。

蔓薔薇(つるばら)が絡む門の向こうには
レンガ造りの館がたたずみ、
その扉の上にはなぜか
ネオン管を曲げて作られた看板がかかげられている。

2階の窓辺で空を眺めていた若い女性が
ふと窓の外を見下ろして、
部屋の中にいるもう1人の女性に声をかけた。

「あら、迷える小熊ちゃんが来たみたいよ。」

🌹

女子学生は、胸にしっかりと雑誌を抱きしめて
校舎の方向から、「極東の庭」に向かって
走ってきた。

時々、校舎のほうを振り返りながら
一生懸命走ってくる。


抱える雑誌の表紙側が女子学生の胸に押し当てられているので、
彼女が何を隠しながらやって来たのかは
わからない。


やがて「極東の庭」の門までたどり着いた女子学生は
赤い蔓薔薇のアーチをくぐって
レンガ造りの館の扉の前に立った。

扉の上にはネオン看板。
まだ陽が高いので点いてないけれど
書いてある文字は読める。

【トラトラとわかいせよ】

いまどきの女子学生である彼女は
「ネコと和解せよ」は知っている。
しかし、「トラと和解」とは?
いや「トラトラ」だ。「トラトラ」とはまた?

うわさどおり「極東の庭」の「セクシーローズの館」は
怪しい美しさの謎に満ちている。

でも、「セクシーローズの館」には
「美しさの罪」から女性たちを救ってくれる
お姉様たちがいらっしゃるという。


だから彼女は、その雑誌を持って
一心不乱に走って来たのだ。

「美しさの罪」に落ちてしまったかもしれない自分を
助けてもらうために。

🌹

扉に貼られたブルーグレーのプレートは
ちょっと80年代の懐かしさを思わせる。


思いきって扉を開けるとガレージ。
すみにピンボールの台が置いてあり、
向かいの壁にはバスケットのゴールがある。

誰もいないけど、80年代の空気感だけが
漂っている。

床に転がるバスケットボールを
片手でそっと壁ぎわに転がして、
その奥から上に続く木の階段を
女子学生はおそるおそる登ってみた。

上がりきったところ、廊下の右奥の部屋から
チルなオルゴール曲が流れている。


あの部屋に、お姉様たちがいらっしゃるのかしら?

彼女はそっとチルな部屋に近づいて
開いたままのドアから中をそっと覗きこんだ。

🌹

部屋の真ん中に、横に長いテーブル。
黒いテーブルクロスが静かに風にゆれている。

壁一面の大きな窓にかかる赤いカーテンは半分開けられて
晴天の空が見えた。


窓辺で青いカバーのスマートフォンを操作していた女性が
目を上げて、
入り口に立つ女子学生にほほえむ。

「どうぞこちらへいらっしゃい、
小熊ちゃん。
一緒にクレスタな空を見ましょうよ。」

クレスタな空とは?
女子学生がとまどっていると、
テーブルの横で観葉植物に水をあげていた
もう1人の女性が
ニッコリ笑って、
どうぞ、とイスをすすめた。

水やり終わったから飲み物いれるね、と
立ち上がった女性の、
ルームウェアのズボンには
テディベアのイラストが散りばめられている。

🌹

「さっき、駅前の本屋さんに行ったんです。」
ココアを飲んでひと息ついた女子学生は
おずおずと話し始める。

「実は、先日も学園のお友だちと一緒に
“すごい雑誌”を見に行って。」

「すごい雑誌?」
クレスタのお姉様が聞き返す。

さっき、テディベアズボンの女性がココアを作ってくれている間に
女子学生は、窓辺の女性に思いきって
「クレスタってなんですか?」と聞いてみた。

するとクレスタさんはスマートフォンで流していた
チルなオルゴール曲を一度止めて、
「Johnny‘s web」というブログサイトを開き、
『Celeste』という曲のミュージックビデオを観せてくれた。


「Celeste(クレスタ)はスペイン語で『青空』のことよ。」

「あ、この人分かります。セクシーサンキューの人。」

MVの中でお洒落な街を優雅に歩きながら歌うセクシーサンキューを
女子学生が指差した。

「この中島健人のソロ曲はね、
ジャニーズの会員限定ブログJohnny‘s web
ケンティーのブログ『KenTeaTime』でしか観られないの。」

内緒で見せてあげたわよ、と
クレスタさんはウインクした。


🌹

「で、その“すごい雑誌”がほんとにすごくって。

お友だちはキャーキャー言ってたんですけど
私はつい走って本屋から出ちゃったんです。」
女子学生は目をふせて話を続ける。

「あら、どうして?」
テディベアズボンの女性が聞くと、

「だって……、
とってもエロくて、美しくて、
それなのにすごい筋肉で、
なんだか見てはいけないものを見てしまったようで
こわくなったんです。」

女子学生の告白を聞いて、
クレスタさんともう1人の女性が顔を見合わせる。

「そりゃ、アリサちゃんくらいの年頃の女の子があれを見たら、
こわくなっちゃうかも。
ねぇ、チャイちゃん。」

クレスタさんがテディベアズボンの女性に言う。

女子学生の名前は、クレスタさんがさっき聞いてきて、
チャイさんと一緒に
『赤ナス』のヒロインと同じ名前ね!
すてきだわ」とはしゃいでいた。

『赤ナス』って?なにかのナスビ?
アリサは新たな疑問をそっとしまった。


「アリサちゃんが今日また本屋さんに行ったのは、
もしかして“すごい雑誌”が忘れられなくて?」
チャイさんが話を続ける。

「はい……。
バックナンバーが置いてないかな、と思って。

そしたら、その雑誌の最新号が出てたんです。」

アリサは口ごもったあと、思いきって言う。

「表紙の男のかたが
あまりにも美しくて、
気がついたら、思わずその『anan』
買ってしまったんです……。」


アリサは胸に抱いていた『anan』を
そっとテーブルの上に置く。

花に埋もれる顔面人間国宝が
クールかつキュートな美しさで
アリサたちを見上げている。

「この前の『すごいエロい筋肉美』とか
今日の『小犬系の可愛さなのにこの世のものとは思えない美しさ』とか、
私、なにか怪しい美しさに
取り憑かれてるみたいなんです。

私……どうしたらいいのかわからなくて。

『セクシーローズの館』のお姉様がたは
「美しさの罪」から救ってくれると聞いて、
すぐに本屋さんから、ここに走って来たんです。」

🌹

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