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新世代騎手の攻防~戦法マトリックスで馬券を制す~

今年はリーディングのトップ10に20代のジョッキーが5人もランクインしており若手騎手の成長が目立っています。続々と台頭してきた若手騎手の多くは積極的な騎乗を持ち味としています。

それを馬券での展開予想などに役立てるために、戦法マトリックス図というものを考案しました。戦法マトリックスとは、私ヒノが独断と偏見でジョッキーの性格や戦法傾向を判断し、「積極的or消極的」か「内突くor外出す」かに分類したものです。

縦軸

①「超積極的」「積極的」……競馬は絶対的に先行有利なので、好スタートを決めて積極的に前に付けようとするタイプ。多少馬のリズムを犠牲にしてもポジションを主張する。こういうタイプが追い込み馬に騎乗すると最後方まで下げるなど、極端な騎乗が多い。

②「超消極的」「消極的」……馬のリズムを重視してポジションはあまり主張しないタイプ。逃げ馬に騎乗しても他に主張する馬がいたら競り合いは避ける傾向がある。

③「どちらでもない」……ハッキリした傾向がなく、基本的には馬の脚質やレースの流れに合わせて押し引きをするタイプ。

横軸

④「超イン突き」「内突く」……当然ながら競馬は最短距離を走ったほうが有利なので内を回ることは有効だが、前が壁になるし、馬群の中で揉まれて馬が戦意喪失したりするなどのリスクもある。それでもリスクよりもメリットが大きいと考えて、積極的にインを突こうとするのが、このタイプ。

⑤「超外出す」「外出す」……直線外に持ち出して馬を決め手をフルに活かそうとするタイプ。距離ロスは生じるが揉まれる心配がなくリズムよく競馬できるので、もまれ弱い馬とは手が合う。

⑥「どちらでもない」……枠順やレースの流れや成り行きで、内を突くか外に出すか決めるタイプ。

という感じに分けたもの。似たようなものがたくさんあるし、誰かのパクリと指摘されるかもしれないので先に白状しておきます。競馬最強の法則2003年2月号で、「騎手キャラ」という企画をやっていて、ジョッキーの特徴を積極的か消極的か内と突くか外に出すかによって分類し活用する馬券術を再利用したのです。言ってみればセルフカバーのようなものです。

競馬最強の法則2003年2月号

使い古された理論かもしれませんが、古い馬券術が、若手騎手の躍進と融合し、新たな効果を発揮くれるような気がしたので、再利用しようと思ったのです。

各騎手の評価はこの記事の最後にまとめてありますは、まずは、どういう感じで戦法マトリックスが展開に影響を与えているのか見ていきたい。

戦法マトリックス的にみたオールカマー

今年のオールカマーで筆者が本命にしたのはルメール騎手が騎乗したローシャムパークでした。理由は応援しているタナパク厩舎の管理馬で、やっと軌道に乗ってきた印象があったのと、「消極的」「外出す」と判定しているルメール騎手の戦法にマッチする流れになる可能性が高かったからです。

1番人気はタイトルホルダー。天皇賞(春)は完走することが出来なかったのですが、ここは立て直し復活を期しての一戦。幸い逃げ先行馬が手薄な組み合わせで、単騎逃げ濃厚。展開も味方しそうでした。
 
横山和騎手の戦法評価は「消極的」ですが、さすがにタイトルホルダーに乗って消極的な騎乗はしないはず。どのジョッキーも常に自分のスタイルを貫くわけではありません。それよりも騎乗馬の持ち味を最大限に引く出すことを考えるので、馬の脚質やタイプのほうが重要です。タイトルホルダーの能力を一番よく知っている騎手だけに中途半端な競馬はしないはずです。ということは戦法評価はあまり意味がないと思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。ここは少し我慢して付き合ってください。
 
レースは大方の予想通りタイトルホルダーが先手を奪いすんなりと隊列が決まりました。前半は大きな動きはなく千メートル通過は61秒1という通過タイムでした。タイトルホルダーにとってみればマイペースよりも遅い楽なペースといっていいでしょう。
 
このままの流れだとタイトルホルダーがバテることは考えにくい。そうなると、後方からの競馬を余儀なくされた馬たちは全く出番無くレースを終えることになるでしょう。そんななか、「積極的」な浜中騎手が騎乗したハヤヤッコが向こう正面でマクって、一気にタイトルホルダーに並びかけていきました。この流れを後方でジッとしていても何も起こらない。座して死を待つくらいなら一か八かで勝負に出たほうがいいと思ったのではないでしょうか。
 
タイトルホルダーは早めのペースアップを余儀なくされたのですが、現役トップクラスの実力馬なので、この程度の揺さぶりで崩れるようなことはありません。ハヤヤッコは早仕掛けがたたり残り600mあたりで手ごたえが怪しくなってしまったのですが、ハヤヤッコを振り切ったタイトルホルダーに次に襲い掛かったのは「超積極的」な西村淳騎手が騎乗したガイアフォースでした。いくらタイトルホルダーとはいえ早めのスパートを余儀なくされて余力は残っていないはずと考えたのではないでしょうか。直線に向いて後退していくハヤヤッコと入れ替わるようタイトルホルダーに並びかけたのです。
 
タイトルホルダーはさすがの粘り腰でガイアフォースも振り切ったのですが、その攻防を好位で虎視眈々を見ていたルメール騎手のローシャムパークが直線で勢いよく伸びて来たときには、もうタイトルホルダーに余力は残っていなかった。どうにか2着を死守するのが精一杯になってしまいました。
 
こんな感じで、「積極的」なジョッキーのアグレッシヴな仕掛けが勝負の行方を左右したのではないでしょうか。馬の脚質や馬場や風といったレース展開を決定するファクターのひとつに騎手の戦法マトリックスも加えるとよりきめ細やかな展開推理が出来ると思うのです。

ハイペース必死だった紫苑S

ジョッキーの戦法マトリックスだけで展開を完全に読み切ることは難しいのですが、ハイペースになることがわかりやすかった例として今年の紫苑Sを挙げてみたい。
 
まずは出走馬を確認してみます。
 
1 ミタマ 松若風 「積極的」
2 モリアーナ 横山典 「消極的」
3 ヒップホップソウル 横山武 「超積極的」
4 ワイズゴールド 笹川翼 (地方騎手)前走4角2番手
5 キミノナハマリア ルメー 「消極的」前走4角2番手
6 フィールザオーラ 三浦皇 「消極的」前走4角1番手
7 ミシシッピテソーロ 石川裕 「積極的」
8 ニシノコウフク 永野猛 「積極的」前走4角2番手
9 フルール 石橋脩 「積極的」
10 ソレイユヴィータ 西村淳 「超積極的」前走4角2番手
11 マーゴットミニモ 吉田豊 「消極的」前走4角2番手
12 アマイ 佐々木 「超積極的」前走4角1番手
13 シランケド 国分恭 「どちらでもない」
14 グランベルナデット 松山弘 「超積極的」前走4角2番手
15 エミュー M.デ 「積極的」
16 アップトゥミー 田辺裕 「超消極的」
17 ダルエスサラーム 坂井瑠 「超積極的」
 
前走4角1、2番手で競馬している馬が8頭もいてそれだけでハイペースになりそうですが、「超積極的」と評価している騎手が全員揃っているだけでなく、西村淳、佐々木、松山の3人は前走前で競馬していた馬に騎乗している。この時点でハイペースになる臭いがプンプンします。
 
もっといえばこの日は秋の中山開幕週で馬場状態も絶好。ジョッキーの意識的にも先行有利とインプットされているはず。さらにいうなら、この日の中山は直線追い風なので、スタートから1コーナーまでの先行争いが激しくなると風に押されてペースアップしやすい。そういう条件からも流れが遅くなる要素は見当たりません。逃げ先行馬が多い組み合わせのレースになるとジョッキーが自分で展開予想をして相手の出方を意識し思ったよりも流れが落ち着くということもよくあるのですが、ここはさすがにそういう可能性も低いと見ました。
 
というわけで、ここでの筆者の本命はモリアーナです。2歳時から期待していてNHKマイルCでも本命にしたほど能力を評価している馬。ここは差し脚をいかんなく発揮できるだろうし、鞍上の横山典騎手は「消極的」で周りのジョッキーの動きに惑わされる心配はないと思っていたからです。
 
レースは三浦騎手のフィールザオーラの逃げ。「消極的」な三浦騎手の先手というのは意外に思われるのかもしれませんが、逃げ率だけで見ると坂井瑠星騎手とならんで現役屈指の高さを誇っているので、そこまで予想外のことではありません。
 
2番手には西村淳騎手、3番手の佐々木騎手、4番手に横山武騎手、5番手に松山騎手と「超積極的」なジョッキーたちが先団を固めます。ペースや展開を作るのは逃げ馬よりも番手につけた馬をよく言われます。というのも逃げ馬がハナに立って誰も競ってこなければペースを落として逃げることも可能だからです。だから、番手につけた馬のプレッシャーによってペースが決まるといってもいい。ここは「超積極的」な騎手に包囲された状態なので、ペースを落とすことは不可能に近い。
 
なので、2ハロン目から11秒台のラップは並び、千通過は58秒1の予想通りのハイペースになりました。向こう正面は向かい風なので本来はラップが落ちるはずなのですが、全くペースは緩まなかった。
 
一方、本命にしたモリアーナは後方2番手からの競馬。ただ、このレースに関してはそれで正解。直線に向くときには先団を形成した5頭は手ごたえが怪しく、一旦抜け出した横山武騎手のヒップホップソウルを直線縫って差して来たモリアーナが並ぶ間もなく差し切ったのです。
 
出馬表を見ると、先行脚質でもなく積極的なジョッキーが乗っておらずでハイペースに付き合う可能性が低いのは、モリアーナ、シランケド、アップトゥミーの3頭だけ。前走小倉で鋭い追い込みを見せて3着に好走していたシランケドを穴候補と見て、3連複の2万馬券を的中させることが出来ました。

 8月5日札幌12R(芝1500m)

ここは直感的に前残りになると感じて、前走同条件で逃げてコンマ1秒差の4着に粘ったオックスリップと、前走はシンガリ負けもハナ争いで「超積極的」な松山騎手にガリガリ競りかけられたもので「距離短縮+▲(3キロ減)騎手起用」で巻き返しに期待できるディヴァ―ジオンに期待しました。あとは「超イン突き」評価の丹内騎手のキョウエイブリッサを3番手にしました。
 
なぜ前残りになるかと感じたかを説明すると。1番人気のヴァンガーズハートに騎乗する横山武騎手と2番人気のマイネルフォルツァに騎乗する佐々木騎手はともに「超積極的」なのですが、どちらも騎乗馬が差し追い込みタイプなので、積極性を活かす場面がないのではないかと感じたからです。流れが遅いからと言って途中から動くのは外々回らされて自殺行為になるかもしれない。ローカルの札幌でインからスルスルポジションを上げることも難しいし、そもそも外枠で内に潜り込むのも難しそう。そう考えると、それ以外に積極的に前に行きそうな馬も騎手も見当たらなかったからです。
 
レースは読み通りディヴァ―ジオンが逃げて番手にオックスリップという展開。直線ディヴァ―ジオンが減量活かして粘る。オックスリップは止まってしまったのですが、その代わりにインから差して来たのが丹内騎手のキョウエイブリッサ。人気馬の不安を見抜いて3連複の7万馬券を的中させることができました。

 
このように、騎手の戦法マトリックスを馬券ファクターに加えることで予想の解像度がアップすると思います。

現役ジョッキー100人の戦法マトリックス評価


 

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