清潔に焼けた犬の骨

こんな夢を見た。

白い犬の夢だ。もちろん私は犬の名前を知っている。ずっと飼っている犬だ。親バカを抜きにしても綺麗な顔立ちをしていて、ただお行儀だけが果てしなく悪かった。私は完全に彼から馬鹿にされていて、小さい頃はよく齧りつかれた。

夢の中ではその犬が、もうすぐ死ぬらしいとのことだった。目覚めてからは定かでないけど、確か、誰かが私にそう教えてくれた。有難いことだった。いつもは乱雑に目を交わす程度のその犬を、私は惜しむように何度も撫でた。悲しみはまだ薄く、ただ焦りばかりがあった。必死にその白くて手触りの良い頭を撫でた。犬は2度吠えた。1度目は掠れていて、2度目はほとんど音にならなかった。幸せそうに目を細めて、舌を覗かせていた。

ふと目を離した隙に、犬が姿を消していた。横たえさせていた毛布がやけに広がっていて、必死にかき混ぜても見当たらない。

どこかで死んでいたらどうしよう。

どこかで今にも息を引き取ろうとしていたら。

私は犬の真似をして吠えた。そうしたら、返事をしてもらえるかも知れない、また会えるかも知れないと思った。

目覚める間際、最後に自分の上げた鳴き声を聞いて、ああ私はまだ、彼の声を覚えていたんだと思った、

彼が亡くなって2年経った今でも。

目が覚めて1番に思い出したのは、一昨年の夏、飼っていた犬が当時私のいたところから遠い実家で亡くなったという事実だ。

悲しくなるほど、どこまでも幸せな夢だったな、と思った。

頭を撫でて幸せそうな、あんな顔を私は終ぞ見たことがなかったし、そもそも彼が苦しんでいる時私はそばにいなかった。ただ具合が悪いということだけ知っていて、その次の日には死んだと電話がかかってきた。

全てが有り得なかった。

私が見たかったもの、したかったことを、夢の中で彼は叶えてくれた。

私は何もしてやれなかったのに、それでも逢いに来てくれたんだろうか、と、少しだけそんな都合のいいことを思って、布団のなかでうれしい気持ちがした。

何だか忘れたくないなと思ったので、ここに残しておく。

名作のパロディではなくて、一応実話だ。

私の中では。







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