火曜日に月曜日の彼と/サブスク彼氏
あらすじ
サブスク彼氏に登録している理恵は、曜日によって彼氏を割り当てていた。ある日、ハッピーマンデーのせいで火曜日なのに月曜日の彼氏とデートの約束をしてしまった理恵は焦る。なぜなら、曜日ごとに違う自分を見せていたからだ。火曜日の彼氏にはバリキャリな自分を、月曜日の彼氏には超絶おたくで腐女子な自分を見せていた。髪の色から目の色まで違うので、やってきた月曜日の彼氏はびっくりする。しかもそこへ火曜日の彼氏までやってきて大混乱!
■登場人物
理恵(20歳)大学生
菊池彗(29歳)月曜日の彼氏。サラリーマン。
堺俊(21歳)火曜日の彼氏。ヒップホップをやってる大学生
斉木徹(22歳)木曜日の彼氏。美容師。
田所雅(26歳)金曜日の彼氏。スタイリスト。
竹中コウ(18歳)水曜日の彼氏。専門学校生。
〇カフェ
理恵はカフェに座っている。ピンク色のかつらをかぶり、青いカラコン、真っ白なセーラー服っぽいファッション。理恵を見ながらひそひそ話す隣の席の女ふたり。
女1「ねえ、ねえ、ピンク髪の子って、今流行の魔法少女ドリミーガールのコスプレだよね」
女2「やっぱりー。知らないとわからないけど、そうだよね」
女1「そう言えば、聞いてよ。この間、サブスク彼氏に登録したんだけどさあ」
女2「ああ、あの彼氏を自由にとっかえひっかえできるシステムね。面白いよね」
理恵(そうよ。面白いからおすすめ。私なんて、月曜から金曜まで曜日で彼氏を変えてるくらいだからね。ついでに自分のキャラも曜日ごとに変えてるけど)
理恵(火曜のサブスク彼氏、遅いな。あ、来た! えっ! どうして月曜日の彼氏が来てるの!? 今日は火曜だから、この格好なのに……)
理恵「うわあっ! ハッピーマンデー!」
急に声をあげたので、周りの客が振り向き、慌てて口を閉じる理恵。
理恵(呼ぶときに間違えてたんだ!)
カフェに入ってきた背広姿の菊池彗(29)は、きょろきょろとあたりを見回す。一瞬、理恵と目が合うが、理恵は目をそらして下を向く。彗も他に視線を移して、誰かを探すそぶり。
理恵(まずい。火曜日の彼用の腐女子設定で来てしまった。いつもは月曜の彼氏にはバリキャリ設定のスーツ姿にクール眼鏡なのにっ!)
必死に下を向いていたが、彗が目の前の椅子に座る。
彗「驚いた。今日の理恵さん、全然雰囲気違うんだね。それウィッグ?」
恐る恐る顔をあげる理恵は苦笑い。
理恵「ごめんね。今日は理恵、都合が悪くなったんだよね。だから、双子の妹の紗枝っちの方が来てるんだよ」
彗「……双子の妹? でも、……まあ、そう」
彗は不可思議そうにするが言葉を飲み込む。
理恵「それじゃあ、私はこれで」
彗「どうして? せっかく代わりに来てくれたんだから、デートしていこうよ」
理恵「でも、私、理恵じゃないし」
彗「それ何か関係ある? だって、僕だってサブスク彼氏だよ。理恵さんが他にも彼氏と会ってるのは了解済み。じゃあ、僕も別に君と会っててもよくない? ほら、サブスク彼氏の場合は浮気という概念はないから」
理恵(あれ? 今、胸のあたりが、ずきってなった)
理恵「そっか……。じゃあ、お茶の一杯くらいなら」
彗「決まり。り、じゃなくて紗枝ちゃん。ケーキ食べる?」
理恵「うん。アップルパイね」
彗「好みも理恵さんと一緒なんだね。すみません。こちらのテーブルにアップルパイセットとコーヒーを」
そのとき、彗に電話がかかってくる。
彗「あ~、仕事先からだ。ちょっとごめん。外で対応してくるね。先に食べてていいよ」
理恵「わかりまし、じゃなくて、わかったよ」
彗が出ていった後、ヒップホップな恰好の男・堺俊(21)が入ってくる。理恵を見るなり、堺は大きなリアクションをしながら近づいてくる。
俊「お~~理恵じゃ~ん。なんで火曜日なのに、呼んでくれなかったんだよ~」
理恵(まずい! 火曜日の彼氏が来ちゃった!?)
理恵「別に。気分じゃないときがあるの。あっち行って」
理恵(早くいなくならないと、彗が帰ってくるよ!)
彗「紗枝ちゃん、お待たせ」
理恵(戻ってきた――!)
俊「紗枝……? こいつ、理恵じゃん」
彗「彼女は理恵さんの双子の妹の紗枝ちゃんだよ」
理恵「紗枝でーす」
俊「ちょ、お前、今まで理恵だったじゃん」
理恵「さあ……?」
俊「いいから、理恵、来いよ。火曜日はいつも俺とアキバ行ってたろ?」
俊が理恵の腕を掴んで引っ張る。それを止める彗。
彗「嫌がってるだろ? やめなさい」
俊「はあ? つーか、お前、誰?」
理恵「もういいから、俊はあっち行ってよ!」
彗「僕は理恵さんの彼氏だ。サブスクの……」
俊「彼? 背広、理恵……さん……? あー、お前、月曜日の彼氏だろ! 確か菊池彗!!」
理恵「シ――っ!」
理恵は俊の腕を掴んで、隅へと引っ張っていく。
俊「なんだよ?」
理恵「私は今、紗枝なの。いい、余計なこと言わずに出ていって。はい。出口はあそこ!」
俊「ちぇっ。せっかく偶然出会えたのになあ。まあ、いいや。あれが月曜日の彼氏なら、お前が一番」
理恵「シャラップ。口チャックして、出ていく」
俊「へーへー。ついでにオレ様は火曜日の彼氏は辞めてやるよ。お前、いい加減、素直になった方がいいぞ」
俊は理恵の額に人差し指をつきつけた後、ケッといいながらカフェから出ていく。理恵は何事もなかったように席につくと、ちょうどアップルパイセットとコーヒーが運ばれてきた。
彗「さっきの理恵さんの火曜日の彼氏なんだ」
理恵「……さっきまではね」
彗「り、じゃなくて紗枝ちゃん。理恵さんから何か聞いてない? 僕のこととか? 何曜日の彼氏が一番好きとか」
理恵「え、あ、いえ、なんも聞いてない」
理恵はアップルパイの網の部分を解体しながら答える。そこへ隣の席に手をつないだ男同士がやってきて、座る。そのふたりを見て、理恵は驚く。
理恵「木曜日と金曜日、いつの間に! え、ふたりって付き合ってたの!?」
木曜日の彼氏である斉木徹(22歳)と金曜日の彼氏である田所雅(26歳)は驚く理恵に驚いた顔をし、手を取り合って立ち上がる。
徹「理恵っち! 何、その恰好?」
雅「リズ! いつもと目の色と髪の色がちがーう!」
徹「雅、ちょうどいい機会だから、断ろうよ」
雅「そうだね。もう打ち明けようとしてたんだ。オレたち、君のサブスク彼氏という共通項で出会って」
徹「恋に落ちた」
徹と雅は見つめ合う。
雅「そういうことだから、サブスク彼氏は解約するよ」
徹「木曜と金曜は別のサブスクにしてくれ」
それだけ言うと、ふたりはお店を出ていく。
理恵「うそ……一度に3人も解約……」
彗「……君、やっぱり理恵さん?」
理恵「えっ!」
彗「最初から、本当はわかってたんだ。僕が理恵さんを見間違うはずない。でも隠したがってたみたいだから」
理恵「驚かないの? 髪、こんなだよ」
彗「でも、まなざしは一緒だよ。僕は今日、ひどく浮かれてきたってわからなかった? いつも月曜日にしか呼ばれないのに、初めて火曜日に呼んでくれた。だから、僕は君の特別になれたと思ったんだよ」
理恵「彗……私……私……も」
彗「私も?」
カフェにナイフを持った男・竹中コウ(18歳)が走り込んでくる。
理恵「水曜日の彼氏!!」
コウ「オレは水曜日なんて名前じゃない――!! 俺だけのりえりんになれ――!!」
コウがナイフで理恵を刺そうとするが、それを彗がかばって刺される。倒れる彗。ナイフを取り落とし震えるコウ。叫ぶ理恵。
理恵「彗――――っ!!!」
〇病室
目が覚める彗。傍に理恵がおり、彗の手を握っている。理恵はウィックも取り、カラコンも外し、普通の恰好。
彗「理恵……さん」
理恵「良かった。目が覚めたんだ」
彗「ええっと、今日は何曜日? どれくらい寝てた?」
理恵「ハッピマンデーだよ。それから彗は今日からハッピーマンデーの恋人だからね」
彗「えっ」
理恵「これから、私、毎日ハッピーマンデーなの。サブスク彼氏は卒業する」
彗「そうなんだね。ありがとう。ああ……素のままの君もかわいい」
彗は真っ黒な理恵の髪を撫でて、引き寄せる。彗と理恵、キスする。
END
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