『復帰の村田毅「カッコいい“とうちゃん”でいたい』
何のために勝つのか。誰のためにラグビーをするのか。つまり大義である。日野レッドドルフィンズの33歳、村田毅は後半途中、交代でピッチを出る際、スタンドを見やり、柔らかい笑顔で左手を少し振った。
その視線の先には愛する家族がいた。妻と2歳の長男、昨年12月に生まれた長女。村田は言葉に実感をこめる。少し照れながら。
「家族が僕の原動力になっています。僕は家族の支えなくして、全然、グラウンドに立てていないのです。なんか、父親になってから、自分の中で戦うモチベーションが増えたなと思うんです」
かつて日野の主将を務めていたタフガイはこの2年間、怪我に苦しんだ。右ひざの手術、あごの骨折、脳しんとう…。リハビリに打ち込みながらも、チームがノン・メンバーや多くのスタッフに支えられていることを知った。家族のサポートのありがたさも。また、改めてラグビーができる幸せも実感した。
今季、三重ホンダ戦(3月6日)に途中交代で2年ぶりの公式戦出場を果たすと、前節の釜石シーウェイブス戦(3月12日)、そしてこの日、フランカーで先発出場した。全身を貫く活力がただよう。義理と人情を忘れぬ正義感。シンプルに前に出る。見ていて、プレーに「魂」を感じるのだった。
試合は負けた。昇格をかける入れ替え戦進出(上位3チーム)はほぼ絶望的となった。村田は「悔しいです」と言った。
「めちゃくちゃ、悔しいです。前半、自分たちのミスでエリアを抜け出せずに…。やっていて、相手と戦っている感じがしないというか、自分たちのラグビーをまったく出せないままスコアが動いていく感じで…。もどかしさがずっとありました」
もちろん、試合は楽しい。フィジカルの激突がある。相手との駆け引きがある。「試合ってすごいマインドゲームだと思うんです」とも言葉を足す。
「相手にストレスをかけるのもマインドだし、自分たちのラグビーを出せないフラストレーションがかかってくるのもマインド。そういうリアルな感情って試合でしか経験できないでしょ。今日は自分たちが受けに回ってしまう展開だったんでしょうか」
傍目には、みな、からだを張っているけれど、プレーから感情の爆発は見えてこなかった。システムや戦術論の理屈には収まりきらない熱情が。
そう言うと、村田はうなずいた。
「人間味ですよね。いい意味でも、悪い意味でも、もっと感情的になって、戦わないと、何も残らないのかもしれません。だって、僕ら機械じゃないので」
スタジアムからの駐車場への道すがら、筆者はたまたま村田と一緒になった。ともにマスク姿。一緒に歩きながら、少し言葉を交わした。駐車場周りの桜は三分咲き。これから、咲き誇るのだろう。では、チームはどうだ。次の強豪・近鉄戦は。
「こういう時こそ、僕らの真価が問われるのだと思います。勝たないと、応援してくださる方々に申し訳ないです」
再び、家族の話題になった。「サポートしてくれた妻への恩返しはやっぱり、グラウンドで」。そして、こう漏らした。
「子どもが、“パパのようになりたい”“ラグビーをしたい”って言うんですよ。ははは。やっぱり、カッコいい“とうちゃん”でいたいなって思うんです」
チームの強さは人間力。人格がプレーを伸ばしていく。いい人間が集まると、いいチームになっていく。
TEXT BY 松瀬学
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