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泣いたって始まらないのに

 二十才年上の彰之との出会いは、
友人と見つけた隠れ家的なカクテルバーだっだ。
何度か一緒になるうちに、彰之から声をかけてきた。
 由美は、彰之の洗練された身のこなしとは反対に、気取らない性格に魅せられ、気が付けば上擦るような恋心を抱いていた。
ふたりの関係が深くなるには、そう時間はかからなかった。


 それから四カ月が過ぎたある夜「俺、今朝会議だからもう出るから。
由美は仕事までまだ時間あるだろ?
少し寝たほうがいい。鍵だけフロントにお願いね。」
と言いながら軽く口づけを額に残して平然と彰之は部屋を出て行った。
まるで何事も無かったかのように。
 由美は固まったままその背中を黙って見送りながら、昨夜の事を思い返していた。
気が付くと涙が止めどなく流れている。
なぜ? あんな事が言えるの? 由美は、とうとう声をあげて泣き出した。






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