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タンパク質の形をしたグミを作ったら 論文になった話(分野は神経科学←?!)

#今年読んだ一番好きな論文2021
論文:Visualizing 3D imagery by mouth using candy-like models
K. Baumer et al. Science Advances (2021)

皆さん「グミ」は好きですか?

私は超がつくほど大好きです。お金の使い道ランキングで本、お酒についで3番目がグミです。それぐらい好きなんです。
そんなグミ好きの私にとって最高の論文が今年発表されました!

端的に言うと、タンパク質の立体構造を模したグミを作ったよ!という論文です。初めてこの論文のタイトルを見たとき、フザけたことしてるな~(誉め言葉)くらいの印象しかありませんでした。しかしよく見ると、掲載されているのはscience姉妹紙ではありませんか!しかも分野は神経科学。何が何だかわかりません。

よく見ると分野がNEUROSCIENCE(science adovancesより)

しかし、読み進めていくとその理由がよくわかりました。この論文の(個人的に)凄いと思うところは以下の3点です。

  1. タンパク質の形をしたグミを作るという面白い発想

  2. 構造を把握するのに口の中が手で触るのと同等に適していることを発見

  3. 視覚障害がある人への学習ツールとしても有用

まず、タンパク質の立体構造をグミで再現するという考えがとてもイケています。これまでに3Dプリンタでタンパク質の模型を作ることは多々見かけていました。しかしそれを一歩進めて、グミにするというのはこの論文が初めてではないでしょうか。彼らは、3Dプリンタでタンパク質の模型を作った後、型を取り、そこにゼラチンなどを流し込んでグミを作っています。

K. Baumer et al. Science Advances (2021) Fig.2 から引用

実際に出来たグミは2~20 mm程度の大きさのようです。米粒大の非常に小さい模型です。彼らはグミだけでなく、外科用樹脂を用いた非食用のモデルも作成しています。これなら、食べることなく使いまわすことが出来ます。さらに、誤飲防止のヒモもつけています。彼らはアポ型、ホロ型合わせて9種類の模型を作っています。

K. Baumer et al. Science Advances (2021) Fig.1 から引用
Apo-カルモジュリンが美味しそうです

そしてこの論文の本当に面白いところはここからです。彼らは、大学生や小学生を対象に感覚テストを行っています。テストでは、まず最初にタンパク質模型を1つだけ渡します。次に8種類の模型を渡し、最初の模型と同じものはどれか、を当てるというものです。それぞれ視覚だけ、手で触るだけ、口に含むだけの状態でテストを行い、その成績を比べました。
その結果、正確性は視覚で87.50±13.58%、手の触覚で84.83±15.14%、そして口腔内では85.59±14.65%という結果でした。つまり、口腔内での構造識別能力は、視覚や触覚と同等にあるということが分かったのです。被験者によっては、口腔内の方が正確に形を捉えることが出来る場合もありました。ここまで読んで、分野が神経科学なことも納得がいきました。

K. Baumer et al. Science Advances (2021) Fig.4 から引用

一方、構造的に類似性の高いタンパク質同士の識別はやはり難しいようです。今回の研究では、マルトース結合タンパク質のアポ型とホロ型が構造類似度が最も高く、テストでも25%近くの被験者が誤答でした。

そしてこれらの結果を踏まえ、口に含むタイプのタンパク質模型は、科学教育に有用だ、という結論に至っています。特に、視覚障害を持つ人が、立体構造を把握するためのツールになりうると述べています。製作コストも0.1ドル/個と安価です(実際は型作りなどでもっとお金がかかるでしょうが)。さらに、食べられる模型にすることで、味を付けることが出来ます。表面電化に応じて、ベリー味とチェリー味を分ける、なんてことも彼らは行っています。つまり、味覚によってさらに多くの情報を得ることが出来ます。

K. Baumer et al. Science Advances (2021) Fig.7 から引用

この研究は口腔内触覚の正確性、新たな科学教育ツールとしての可能性を見出した、素晴らしいものです。特に、ユニークで笑ってしまうアイデアから有用で興味深い結論に導く姿勢はぜひ見習いたいところです。
最後に、ディスカッションで彼らはこう述べています。

Making science accessible to persons with blindness is a grand challenge. As we work to overcome this daunting challenge, we must remember that resolving blindness is what science does best.

K. Baumer et al. Science Advances (2021) より引用

科学者は、目に見えないものを見ようとして、顕微鏡を発明しました。さらに小さいものを見ようとして、NMRや電子顕微鏡を発明してきました。見えないものを見ようとすることが得意分野である我々科学者なら(私はまだ見習いですが)、視覚障害の壁を超えることもできるかもしれません。


P.S 自分も3Dプリンタでタンパク質の模型を作ってみた

この論文に感化されて、自分でもタンパク質の模型を作ってみようと思い立ちました。幸い私のいる大学には、3Dプリンタなどが自由につかえる、ものつくりセンターなる施設があります。せっかくなので、タンパク質模型を作って食べてみようと思いました。
出来たタンパク質がこちら!!

口の中のタンパク質で一番最初に思いついたもの。そう、アミラーゼです(PDB ID:1PPI)。

どうですか?!結構よくできていませんか?基質ポケットも観察出来て、結構満足しています。しかし、私は2つの大きなミスをしていました。
ひとつは、サイズ感。作ってみたら思っていたよりもサイズが大きく、論文のものより遥かに大きくなってしまいました。目測では体積でハリボー10個分くらいでしょうか。グミにしては大きすぎですね。

丁度ハリボーを切らしていたのでペンで代用

もう1つのミスは、グミを作るための鋳型を用意できなかったことです。これではグミはできず、口腔内の触覚を試すこともできません。

、、、仕方ないので、このまま口に入れてみることにしました。きっと口に含むくらいなら健康被害は無いはず(?)。
暫く口の中でモゴモゴしてみたところ、アミラーゼの基質ポケットを把握することが出来ました!確かに、口腔内は物体の凹凸を敏感に感じられていそうです。修士学生とは思えないほどの準備不足のため、この実験は殆ど科学的な考察が出来ずに終わりました。しかし、論文で述べていたことの片鱗は感じることができたように思います。

という訳で、私の論文紹介は以上になります。ご覧いただきありがとうございました!

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