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【オーディオドラマ台本】出世払いでどうですか?

こちらはソフィアタイム様へ提出、放送となったラジオドラマです。
埼玉県朝霞市を舞台にしたお話となっております。

【登場人物】
椿 芽依(つばき めい)女 23歳 コンサル会社勤務
真面目で素直な女性。最近は会社の業務成績が落ちて悩んでいる。準太とは高校時代の同級生で、仲が良かった。

椿 葵(つばき あおい)女 20歳 大学生
芽依の妹。姉が大好きで、幸せになってほしいと思っている。明るく社交的。口調も軽やか。

準太(じゅんた)男 23歳 朝霞駅前商店会の定食屋の跡継ぎ(予定)
優しいが口調が少々そっけない。
高校時代は芽依に片思いをしていたが、告白せずにそのまま卒業。芽依のことは今も好き。


■商店会・外(夜)
SE 雨の音

芽依
また……。また、上手くいかなかった……。

芽依ナレ
春。希望の春。
新しい生活に胸を躍らせる、春。
朝霞市にも、朝霞駅前商店会にも素敵な春がやって来ていたというのに。
私は、絶望していた。

芽依
ダメだなぁ……。
私、こんなんじゃ……。

SE 店のドアが開く音(引き戸)

準太
……椿芽依。だよな?

芽依
えっ……?

準太
入れよ。……よかったら、だけど。

■定食屋・室内(夜)

芽依
ん~! この定食、最高……!
なんて美味しいの。
あぁ……、料理の温かさが、私の心にしみていく……!

準太
んな大げさな。……いや、大げさなのは前からか。
お褒め預かり光栄ですよ。俺が作ったわけじゃないけど。
今日はもう店閉める時間だし、他の客もいねぇからゆっくり食えよ。

芽依
ありがたやありがたや……!
いやぁ、まさか準太と再会するとはね~。
高校卒業して以来ぱったりと会わなくなったと思ったら、実家のお店継いでたんだね。
知らなかったよ。

準太
まぁ、そうだろうな。誰にも言ってねぇし。
かなりボロい外見の定食屋だから、誰も入って来なくて気づかれもしねぇし。

芽依
こらこら、お店の悪口はよくないよ。跡継ぎでしょ?
味があって素敵なお店じゃん。

準太
そう思うやつがいないから客が来ねぇんだって。
あと、継いでねぇよ。まだ。

芽依
そうなんだ。
ていうか、言うの遅れちゃったけど。
ずぶ濡れの私を保護してくれてさ、料理まで出してくれてありがとね。

準太
おう。恩は出世払いで返せよ。
あ、あと。お前の家のほうに連絡――

SE 店のドアが開く音(強め)


お姉ちゃん!

準太
――は、しておいた。

芽依
え、葵?


すみませんすみません! うちの姉がこんな時間にご迷惑をおかけして……!
しかも……、はぁ~……(溜息)
タオル諸々借りたうえ、料理まで……。

準太
あ、いや。俺が自主的にやったことだし、気にしなくていい。
(芽依に向かって)
……なんか思い詰めてそうだったから実家のほうに連絡したんだけど、
余計なお世話だったら悪かったよ。

芽依
ううん。……私、やっぱおかしかったよね。

準太
いや……。

芽依
わかってる。
そりゃ、雨の中、傘もささずに歩いてたらびっくりするよね。
そんな状態でちゃんと家に帰れるだなんて、普通思わないって。
……最近ね、ちょっと思い詰めててさ。
妹――葵には相談してたから、大体の事情は知ってるんだ。
連絡してくれてありがとう。


お姉ちゃん、コンサルの仕事してるんですけど、自分の仕事に自信なくなっちゃったんですって。
ここ数か月、ずーっと落ち込んでるんですよ。

準太
なんかあったのか?

芽依
営業成績、下がっちゃった。結構ショックでね。
自分に欠けてるものがあるんじゃないか、とか、気付いてないものがあるんじゃないか、とか。そういうの、ぐるぐるぐるぐる考えちゃうようになってさ。

準太
それで、雨の中ずぶ濡れで彷徨ってたのか。


不審者じゃん。

芽依
だって。傘さす気力、なかったんだもん。


ていうか、食べ終わったんなら帰ろうよ。長居してるとお店が困っちゃう。

準太
ああ、それは大丈夫だ。後片付けもあらかた終わってるし。


えっ、片づけるもの少なすぎじゃないですか?
普通もっとバタつきません?

芽依
こら、葵。

準太
いいよ。だから言ったろ。人気ないって。
……おととしくらいまではそれなりに客も入ってて、売り上げもあったんだけどさ。
ばあちゃんが死んで、じいちゃんが1人で店やるようになってから、全てにおいて右肩下がり。
うち、両親は俺がガキの頃に死んでるから、店を上手く回せるヤツがいなくて。
頑張ってはみたけど、この状況なんだ。

芽依
そう、だったんだ……。

準太
じいちゃん、接客スキルゼロでさ。
職人気質で無口なうえ、顔も怖い。
だから店はばあちゃんの接客スキルとコミュニケーション力で持ってたんだよ。

芽依
だから……。そっか。
準太にもないもんね。接客スキルとコミュニケーション力……。

準太
……お前さ。
くそ、事実なところが余計腹立つな……。
つーことで、そろそろ店畳もうかって話にもなってるんだよ。

芽依
こんなに美味しいご飯提供してるのに?

準太
料理だけじゃダメだったんだ。


えー。なんかもったいないな……。
のっぴきならない事情とかでお店が出来なくなったってわけじゃないのに。
……あ。ねぇ、お姉ちゃん。助けてあげたら?

芽依
え?


お姉ちゃんの出番じゃん!
お姉ちゃんが料理売る仕組み考えて、売り出せばいい!

芽依
え、ええ……?

準太
悪いけど、うちの店、金ねぇよ。廃業寸前だし。


いやいや、そんな~。
お金なんて取る気ないですよぉ。
業務成績の悪い落ち目の姉がやるんで、もちろんタダです。
ね? お姉ちゃん?

芽依
落ち目て……。いや落ち目だけども……!
人様のお店を私なんかが……いや……?
……むしろ、金銭が発生しない分、プレッシャーを感じずにできる……?

準太
……まぁ、このまま順調にいくとバッドエンド間違いないから、
失敗してもお前の責任にはならない感はある。
けど、そんなんに付き合わすの――

芽依
――ううん。やる。
迷惑なのは承知ですが、お願いします。私に、やらせてください。

準太
……マジ?

芽依
まじ。


おお、お姉ちゃん。目が本気だね。
準太先輩! 姉はやる気です!
どうか! 姉を助けると思って! 姉の後生ですから!

芽依
私の後生を勝手に使うな!

準太
……わかった。
とりあえず、じいちゃんには俺から言っとく。

芽依
いいの?

準太
一応この店の跡継ぎは俺だから、まぁ任せてくれるだろ。


あ、私も手伝いますからね。
姉がサボってるようでしたらガンガンお説教しますのでご安心を~!

準太
ふっ(少し笑う)
ああ。よろしく、ふたりとも。

芽依ナレ
こうして私と妹は、商店会にある、定食屋さんのお手伝いをすることになりました。

■定食屋・室内(昼)

芽依ナレ
数日後、私と妹の葵、準太の3人で、作戦会議をすることになりました。


う~ん。盛り付けは昔ながらって感じで素敵だと思う。
けど、もう少し若い子向けに寄せてほしいなぁ~。
食べものの画像にも価値がつく時代ですからねぇ。

準太
なるほどな。

芽依
あとね、実は内装も重要なんだよ。
雰囲気がよかったら口コミにも書かれやすいし。
大掛かりなことはしないけど、ちょっとした世界観を作る感じでやってみよう。

SE 紙の音


これがお姉ちゃんと考えた内装です。
テーブルと椅子の位置を変えるだけで、結構変わるみたいです。

SE 紙の音

準太
……ふぅん。この画像を参考にすればいいのか。
模様替えくらいなら俺にでも出来そうだ。


あと、準太先輩にはも~っと覇気のある声、出してもらいたいです!
店員さんが辛気臭かったら、ちょっとテンション下がっちゃいます。

芽依
うん、そうだね。

準太
無理。社畜の俺は既に、これ以上頑張れないほど頑張ってんだ。

芽依
社畜なの? 跡取りなのに?

準太
俺、じいちゃんに恩があってさ。
昔、バカ高い自転車をじいちゃんに買ってもらったんだ。
高校と、大学のときにな。
その金を返すまでは、ここで早朝から夜中までタダ働きって約束なんだ。
客は来ねぇのに仕込みはちゃんとやるって聞かねぇから付き合ってるけど、俺の体力が持たねぇ。


おおう……、既にいっぱいいっぱいでしたか。

芽依
うーん? じゃあ、その自転車で出前ができるってことだね!

準太
は?


おーっ!
お姉ちゃんナイスアイデア!

芽依
今後はテイクアウトと出前に力を入れる方向でいきたいの。
お店の雰囲気を改善しつつも、料理だけ欲しいってニーズにも応えていきたくて。

準太
マジで……?
店に来た客、どうすんだよ? 俺がいないと――


あ、ホール、私がやりますよ。私、接客得意だし!

芽依
準太。自転車、今も好きなんでしょ?
お店の横に、ピカピカのロードバイクが止まってるの、見たよ。

準太
そりゃあ好き、だけど……。

芽依
じゃあ、適役。
頑張って売り上げがたつようになったら、その分タダ働きの期間が減って、ちゃんとお給料がもらえるようになるかもしれないでしょ?
お給料がもらえたら、ちょっとしたご褒美とか買えて気分転換になるし!
お店の利益が出たぶん、人を雇って負担を減らすことも出来る。

準太
……ハァ。わかったよ……。


あはは~。お姉ちゃん、結構人使い荒いですよね~?

芽依
準太は高校の同級生だったから、その感覚が抜けないのかも。

準太
……お前のなかで、俺はいつまで経っても高校時代のままなのかよ。
まぁ、すげぇ久しぶりに会ったし。しょうがねぇのかもしんねぇけど。
でもさ……。

芽依
ごめんごめん。張り切りすぎちゃったね。
私ね、また準太とこうやって、一緒の作業というか、学祭みたいなこと出来て、嬉しいの。「あれしなきゃ、こっちはどうする?」みたいな。
イレギュラーなことがありつつも、力を合わせて乗り越えてく、みたいな……。

準太
……ふうん。

芽依
もちろん、お店の命運がかかってるわけだから、ちゃんと責任は感じてるし、いい加減なことはしないよ。
一緒に、お店をよくしていこうね!

準太
……あぁ。お前がいてくれるの、助かる……。

葵M
(おやおや……? この2人って……?)

■定食屋・室内(昼)

芽依ナレ
こうして、私たちはどんどん計画を進めていきました。
平日は仕事を終えてから、お店で作戦会議。
休みの日は朝から作業をしました。
そんなこんなで数か月が経ち――

準太
……黒字なんだよ。信じられないことに。

芽依ナレ
とても嬉しい結果が出たのでした。

芽依&葵
(同時発声)やったー!!

準太
じいちゃんと俺だけだったら、黒にならなかった。
絶対に無理だと思ってた客層にあえて手を伸ばそうって発想がなかったというか……。
……結構な層を取り逃してたんだな。

芽依
意外な層に刺さってバズったりもするからね。


うんうん。私の接客もよかったよねー!

芽依
あとは在宅ワークが増えたからか、出前も人気だったね。
準太。出前、全部こなしてくれてありがとう。

準太
別に。自転車で走るの好きだし、結構楽しかった。

芽依
ふぅー……(ホッとしたため息)
お店は黒字になって、目的は達成したね。
と、いうことは……?


お店、今後はどうなるんですか?

準太
続けるってさ。2人のおかげだ。


おお~!

芽依
よかった……!

準太
マジで礼を言うよ。ありがとう。

芽依
ううん。というか、私こそだよ。私が一番助けられたんだよ。
仕事が上手くいかなかった私を助けてくれてありがとう。
あの日、声を掛けてくれたの、嬉しかった。
そして、大事なお店のことを任せてくれて……。元気出たし、自信もついた。


お姉ちゃん、お店のこと考えてる時、すっごく目がキラキラしてたんですよ。

芽依
あはは……。恥ずかしいな。うん……でも、本当に頑張ったし、有意義な時間だった。
ちゃんと結果が出て、嬉しくて、もう……。


あーあ。泣いちゃったぁ。
ほらほら、準太先輩、声かけてあげてくださいな。

準太
俺?


はい、俺です。
(以降、準太に耳打ち)
だって、お姉ちゃんを慰めるのは、先輩がやりたかったことでしょ?

準太
いや、俺は……。


雨の日に傘さしてない女を助けますか? 普通はスルーしますよ。怖いし。
でも、助けたのはどうして?
料理を出したのは何故なんですか?

準太
……それは。


しかもメニューで一番高い定食でしたね?
作戦会議のときに改めてメニュー表見て、びっくりしちゃいましたよ。

準太
……。


先輩?
口数少ないと、叶うものも叶えられないんですからね。
(ここから通常の声)
んじゃ、私はこれから彼氏とデートなので~。さよなら~。
あ、ホールスタッフ欲しかったらいつでも言ってくださいね!
労働者の権利なんで時給は負けませんけど、姉からのお願いだったら私、いつでもスケジュールあけますから。では~。

SE 定食屋のドアの音

準太
……口数が少ないと、叶うものも叶えられない、か。
確かに。そりゃそうだ。
じいちゃんのこと間近で見てたのに、馬鹿か俺は。
……なぁ、芽依。

芽依
ん?

準太
あー、ええと。
……この先。店のこと、とか。一緒に考えていけたらいいと思ってる。
お前と。

芽依
うん? 私でよければいつでも力になるよ。

準太
この先、ずっとでも? ……たとえば、一生でも?
一生、俺と一緒に考えてくれる?

芽依
一生って。あの、それって……。

準太
え、ええと、だから……。
あー、そういえば、お前がずぶ濡れで来たあの日。
……恩は出世払いで、とは言ったけど、別に払わなくてもいい。
もとはと言えば俺が勝手にしたことだしな。
でも、どうしても払うって選択をもし、するなら、するとしたら。
……今言ったこと、ちょっと真剣に考えておいて。

芽依
ふふっ。
準太と一緒にタダ働きするのも、楽しそうだね?

準太
ああ。それよりももっと。
ふたりなら、いい店も未来も作れそうだ。

芽依ナレ
春。希望の春。
新しい生活に胸を躍らせる、春。
朝霞市にも、朝霞駅前商店会にも素敵な春がやって来ています。
……そしておそらく、私たちにも。
今日は雲ひとつない青空で、心まで温かくなるような風が吹き……そして、素敵な未来の予感がしたような。
そんな気がしたのでした。

(おわり)

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