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【オーディオドラマ台本】ぽぽたんといっしょ!

こちらはOnline Writers' Club様へ提出したラジオドラマです。
埼玉県朝霞市を舞台にしたお話となっております。

【登場人物】
ひなた 女 二十代前半
明るく素直。可愛いものが好き。フリーター。期間限定ではあるが、ぽぽたんの着ぐるみアルバイトが決まって張り切っている。

綿木(わたぎ)女 十代
高校生ちょっと気が強め。悪いヤツではない。
『ぽぽたんのふわふわマシュマロ』という新商品をゲットしてクラスでの自分の地位を上げようと企んでいる。

山田(やまだ)男 十代 高校生
綿木のクラスメイト。小学生の妹に『ぽぽたんのふわふわマシュマロ』を買って来いと命じられ、嫌々長蛇の列に並んでいたところ綿木にからまれる。

小学生 男女どちらでも 低学年
素直で可愛がられるタイプ。
「ポポちゃん」という飼い犬が散歩の途中で逃げたため、必死に探していた。

係員 男 三十代くらい
ひなたの上司的存在。気がよく明るい。

犬 ポメラニアン 名前はポポちゃん
2か所「わんわん」と鳴くシーンがあります。
SEでも、女性の声でも、男性の落ち着いた渋い声で鳴いてくださってもかまいません。

おばさん 五十代くらい
1か所セリフがあります。ずけずけ言ってくるタイプのおばさん。

おじさん 五十代くらい
1か所セリフがあります。失礼なタイプのおじさん


■複合施設 特設会場
SE ガヤなど(混みあっている)

係員
並んでくださーい!
本日発売の「ぽぽたんのふわふわマシュマロ」の最後尾はこちらでーす!
……よし、結構並んでるな。
さぁて、ここからが仕事だ。
着ぐるみの中は暑いと思うが、頑張ってくれよ。

ひなた
はい! 頑張ります!

ひなたナレ
私はひなた。可愛いもの好きのアルバイター。
今日は埼玉県朝霞市のマスコット「ぽぽたん」の着ぐるみを着て、マシュマロ販売のお仕事です。
大きな複合施設でのお仕事なので、ちょっぴり気合が入ってます!

係員
マシュマロを買ってくれた人に、手渡しで品物を渡すのが君の仕事だ。
くれぐれも、着ぐるみ――「ぽぽたん」らしからぬ行動はとらないでくれよ。

ひなた
まかせてください!
私、着ぐるみバイトは結構経験あるんです。
ちゃんと「ぽぽたん」を演じてみせます!

ひなたナレ
「ぽぽたん」は元々大好きなマスコットだから、バイトが決まったときは本当に嬉しかった。
ぽぽたんらしく動けるようにイメトレもしてたし、まったく問題なし!
――の、はず、だった。

おばちゃん
あら、ちょっとそこのあなた!
その黄色い着ぐるみさんよ。トイレまで案内してちょうだい。

おじさん
おい、ティッシュくれ。
……ああ、なんだ。そういうのじゃないのか。紛らわしいな。

小学生
すいません。犬、見ませんでしたか?
迷子になっちゃって……。

ひなたナレ
何故かアクシデントが多発して、ぽぽたん――というか、私は大忙しです。
私は仕事を全うしなくてはいけないので、持ち場を離れるわけにはいきません。
別のスタッフさんにジェスチャーで伝えて、お客さまの対応を代わってもらったりしてなんとか凌いでいたのですが……。

綿木
ゲッ!
なんであんたがいるのよ。山田。
それ最後のひと箱でしょ。私のだから。

山田
は?
……誰かと思ったら、同じクラスの綿木サンじゃんか。
マシュマロが欲しいなら諦めろ。これはもう俺の確定なんだ。
列見りゃわかるだろ。俺が最後のひと箱で、お前の分はないの。

ひなたナレ
目の前で高校生らしきお客様が喧嘩を始めてしまって、頭を抱えたくなりました。隣にはレジ専門のアルバイトの子がいるけど、忙しそう。
その他のスタッフさんは別の作業に行ってしまって、こちらを気にする余裕はないみたい。
なので、私がなんとかしなきゃいけません……。

綿木
ていうか、マシュマロがほしいなら他のところで買えばいいじゃない。
コンビニとかスーパーとか、いろんなところで売ってるでしょ。

山田
このマスコットのマシュマロじゃなきゃダメなんだ。
箱にも中身のマシュマロにも、ぽぽたんの絵が描かれてるだろ。
これじゃなきゃ嫌だって、病弱な妹にお願いされたんだ。

綿木
嘘つけ。
あんたの妹、昨日小学校のグラウンド全速力で駆け回ってるの見たわよ。
見た限りあと2世紀生きるわね、あれは。
嘘つきに「ぽぽたん」は渡しません。妹ちゃんには申し訳ないけど、私が買う。

山田
なんでだよ。
マシュマロなんざ腹に入ったらどれも同じだろ。諦めろ。

綿木
絶対に嫌。
今クラスの女子の間で、ぽぽたん流行ってるの知らないの?
新発売のもの持って行ったら、クラス内での私の地位が上がるの間違いなし。あんたこそ諦めなさい。

ひなたナレ
どうやらこの二人はクラスメイトで、それぞれの事情があってマシュマロが欲しいみたいです。
最後のひとつということで、周囲は諦めて帰っていきました。
ですが、この二人は諦める気はないようです。

山田
俺が先に並んでたんだ。買う権利は俺にある!

綿木
先にここ到着してたのは私だしー。
列の最後尾探すのにモタつかなかったら、私のほうが早かった!

山田
じゃあお前が遅かったってことだろ。

綿木
私のほうが早かったって言ってるんだけど!?

ひなたナレ
話は平行線の状態が続き、解決しそうにありません。
なので私は、ぽぽたんの愛くるしさを全面的に押し出したジェスチャーをしました。

綿木
どうしたのぽぽたん(猫なで声)
……うん? じゃんけん? じゃんけんで決めようって?

山田
もうそれでいい……。
こいつとこんなところで喧嘩してるなんてクラスのやつらに知れたら最悪だ。

綿木
ほお……? もういっぺん言ってみな?
私だってあんたなんかと――

ひなたナレ
じゃんけん! じゃんけんをしましょう!
……というジェスチャーを再度してみせます。
ぽぽたんは超絶可愛いので、高校生さんはちゃんとジェスチャーを見てくれます。
さすがぽぽたん! 愛されてます!

山田
ったく……。はぁ~~……(ため息)
おい、じゃんけんだ。
3回勝負。まったナシ。終わってから強奪もなし。ゴネるのもなし。

綿木
わかった。やってやろうじゃない。
いくわよ。じゃんけん――

山田・綿木(同時発声)
ぽん!
ぽん!!
ぽん!!!

ひなたナレ
れ、連続10回のあいこです……。
珍しいです。私は勝負を見届けます。

山田・綿木(同時発声)
ぽん!
ぽん!!
ぽん!!!

ひなたナレ
連続100回のあいこだなんて……。
こんなことって、あるのでしょうか……?
いえ、あるのでしょう。事実は小説よりも奇なり、といいますし。
なんだかとんでもない奇跡を見ているような気がしますが、私も、高校生さんたちも、全然嬉しくありません……!
200回目のあいこが出ると、二人とも肩で息をして、辛そうな顔をしていました。限界のようです。

綿木
じ、じゃんけんじゃなくて……別の方法にしない……?

山田
あ、あぁ……。
あっち向いてホイにするか?

綿木
じゃんけんで決着がつかないのにあっち向いてホイが成立すると思ってるの?
バカなの???

山田
うるせぇな。じゃあお前が考えろよ。

綿木
うーんと……、うーん……? そうだなぁ……。
……あ。


わんわん。

綿木
毛玉だ。

 山田
犬と呼べ。
……ていうかこの犬、迷子じゃねぇか?
迷子犬の貼り紙、さっきどっかで見たような……?

綿木
うん~……?
そう言われれば、見たような、見てないような……。

山田
あ、あそこだ。向こうの柱のとこ。
小型犬の画像が載ってる、手作りっぽい貼り紙。

綿木
あ、あれかぁ。確かに迷子犬って書いてある。じゃあ、この子は迷子なんだ。

山田
みたいだな。……あのさ。
よい行いをした人間が、マシュマロを手に入れる、っていうの、どうだ。

綿木
なるほどね。あの迷子犬を保護して、飼い主に届けたほうが勝ちってことね。
いいわよ。ぽぽたんも文句なさそうだし。

ひなたナレ
いえ、私は最初から文句を言っていません。多少困ってはいましたが……。
なにはともあれ、解決に向かいそうでよかったです。
私は勝敗を見届けるため、ワンちゃんを追いかける二人の後を追うことにします。

山田
いくぞ……!

綿木
よぉい、スタート!

SE 足音など

綿木
くっ……! この毛玉、すばしっこい。
あんた足速いでしょ。なんとかして!

 山田
お前のほうが小回りきくだろ! なんとかしろ!

ひなたナレ
道行く人々は、私たちを見てくすくす笑っています。
そうですよね。
高校生二人と「ぽぽたん」がワンちゃんを追いかけてあたふたしているのですから。
とっても平和であたたかな「追いかけっこ」に見えているのかもしれません。
でも、実際は――

綿木
はぁ、はぁ……。待て、まてぇ~……!

山田
ああ~、死ぬ……。

ひなた
私も高校生さんたちも汗だくです。
全速力で走っていたこともあり、体が悲鳴を上げはじめていました。
私はこのままだと転んでしまう。
疲労から「ぽぽたん」らしくない行動をとってしまう恐れがありました。
それはいけない、と、私が走るのをやめようとした、そのとき――

小学生
ポポちゃん!

ひなた
えっ?

小学生
ポポちゃん! 探したんだよ! 一緒におうちに帰ろうね!


わんわん。

ひなたナレ
小学生と思しき子が、ワンちゃんを抱きあげました。
どうやら、ワンちゃんの名前は「ポポちゃん」というようです。
ふわふわの毛並みは、「ポポちゃん」という名前にぴったりでした。

小学生
お兄さんとお姉さんが見つけてくれたんですか?

綿木
え、あ。……そう、ね。

小学生
わぁ、ありがとうございます!
うちのポポちゃん、散歩の途中で逃げちゃって……。
見つからなかったらどうしようって思ってたんです。
お兄さんとお姉さんのおかげです!

山田
いや、俺たちは別に……。

ひなたナレ
ワンちゃんのためでも、飼い主さんのためでもなく、自分たちの勝負のために保護しようとしていたなんて、口が裂けても言えないのでしょう。
二人はもモゴモゴしています。
そのとき、ぐぎゅるるる~という、大きなおなかの音が鳴りました。

小学生
あっ……。
えへへ、お腹空いちゃったみたい。
ずっとポポちゃん探してたからかなぁ……?

綿木
……山田。

山田
ああ……。

ひなたナレ
高校生さんたちは、お互いをちらりと見たあと、同じタイミングでお財布を出しました。

山田
俺たち二人でマシュマロ買います。最後のひと箱、ください。

綿木
はぁ、残念……。
でも、今マシュマロ――というか、食べものを必要としてるのはこの子だしね。

小学生
えっ、そんな。いいですよ。

綿木
遠慮しない。私たちが買ってあげたいってだけだから。
ちゃんと味わって食べるのよ。

ひなたナレ
二人は私に目くばせをしました。
きっと「ぽぽたん」から渡した方がいいと思ったのでしょう。
私は最高に可愛い「ぽぽたん」を演じて、小学生さんに品物を渡しました。
これでいいのですよね?
お礼を言って去っていく小学生さんを見送ってから振り向くと、高校生さんたちはなんだか誇らしげな顔をしていました。

綿木
あ~あ!
善行したのにマシュマロ手に入んなかった~。
人気者になれないじゃん~!

山田
手に入んなかったのは俺もだ。
嗚呼……帰ったら妹に文句言われる未来が見える……。

綿木
悪い気がしないっていうのが、善行の罪なところね……。
ま、いいか。帰る。じゃねー。

山田
おー。

ひなたナレ
高校生さんたちは帰っていきました。
二人の後ろ姿がとても頼もしく見えます。
全てが丸く収まったうえ、高校生さんたちの善行を目の当たりにした私は幸せな気持ちになりました。
ああ、今日はなんていい日なのでしょう。
これだから着ぐるみバイトはやめられないのです。

係員
おーい!
こんなところで何やってるんだ?
今日の分全部はけたって聞いたぞ。

ひなた
あ、はい!

係員
お疲れさん。また明日も頼むよ。

ひなた
もちろんです!

ひなたナレ
でもたぶん、高校生さんたちは知らない。
「ぽぽたんのふわふわマシュマロ」は限定品ではないということに。
今日から朝霞市全域のコンビニや、スーパー、その他いろいろなお店で買えるということに。
複合施設の特設会場で長蛇の列に並び、「ぽぽたん」から手渡しで受け取らなくても、簡単に手に入ってしまうということに。
早めに気付きますように、と、暗くなりかけた空を見上げ、一番星にお祈りをしたのでした。

(おわり)

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