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樋口円香さんと僕

今日は3年ぶりにLSDセッションを行いました。
知覚の奔流に揉まれながら、私が考えていたことは、私の隣に横たわる抱き枕に描かれた樋口円香についてでした。

ああ、樋口円香! 私はそのフィクショナルなキャラクターに対して、ただ性的な対象というだけでない、もっと初々しい感情を抱いていました。要するに、それは恋でした。以前、母親に樋口さんの抱き枕カバーを見られた際、アニメの女の子を好きになったって意味ないじゃんといったことを言われました。確かに、その通りだと思いました。私が樋口さんと話しかけても、言葉は返ってきません。そこには、ただ樋口円香が等身大に印刷されているクッションが転がっているだけなのですから。私は、絶望しました。どうしてこんなに恋焦がれているのに、どうして、一言くらい、一言さえ、あれば‪——‬‪——‬

「高燃費、ご苦労様です。現実の女性と関わるのが怖いから、私の方に逃げてきたんじゃないんですか」
「え? まさか、樋口さん?」
「その呼び方、やめてください。いつもは名前なのに」
「はは……聞かれてたんだな」
「はぁ……で、逃げ先の私に、現実になれって?」
「ああ、そうしたら全部が解決する」
「私の意見は?」
「はは、あんまり考えてなかった」
「無責任」
「すまん……」

その後、樋口円香の抱き枕カバーからは声が聞こえなくなりました。

そして少し泣いた後、デパスを1錠飲み込みセッションを終了しました。



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