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私のうさぎさん

彼が私の家族となったのは
一人暮らしを始めて間もない2012年7月のこと。

仕事先のショッピングセンターのペットコーナーでひとめぼれし、下の段のケージに入れられていた彼をしゃがんでじっと見つめ続け
仕事終わりに意を決して連れて帰ったように記憶している。



その日から彼は、私の大切な相棒になった。



直感で名前をつけるタイプの私は彼に「ジェームズ」という名前をつけ、ワンルームで1人と1匹の暮らしが始まった。


実家にいた頃、猛烈にうさぎが飼いたくて勉強した事があった。
残念ながら当時はその希望が叶うことはなかったが、今その知識が存分に発揮されるのだ。
もちろん改めて勉強もして、衝動飼いではあるが彼に不自由のない生活をしてもらえるよう努めた。

本当に小さくて、手のひらに収まるほどだった。
ブロークンブルーのロップイヤー。
ふわっふわで、高級なぬいぐるみのような柔らかい毛で、あったかくて、お日様のような優しい匂いがして、私は彼に夢中だった。

簡素な一人暮らしの生活に、生き物の気配がする。
うさぎは犬猫のように鳴いて感情を表現することはないけども、本当は感情豊かでそこに「いてくれる事」が嬉しかった。

彼のいたペットショップは、今にして思えばあまりうさぎに精通していた訳ではないと思う。
故に彼の誕生日も分からず、お迎え日から逆算して5月生まれなんだな、といった具合だ。

お水も給水器から飲む事が出来ない。
小さい頃からずっと器でしか飲んでいないから、教えてもなかなか飲むことが出来ず、気に入らないようだ。

でも、そんな些細な事はどうでもいい。
彼は私と共に過ごしてくれるんだから。
私がせっせと水をくみ、手間をかければいいだけの話なのだ。


そんな彼が家に来て少しした頃、私の不注意で病院に駆け付けることとなった。
彼も自由に過ごすベッドの上にクッキーを置いたまま、目を離してしまったのだ。
その隙にかじってしまい、後にお腹をこわしてしまったのだ。

まだ子供で育ち盛りな彼が少し痩せ、下痢が止まらず、あの時は本当に反省した。
なにかあったらどうしようと、ずっとごめんと言い続けながら泣いたのを覚えている。
(診察・点滴・お薬・通院で病院代に泣いたのも覚えている)

それ以降はほとんど病院にお世話になる事もなく、大きな病気をすることも無く、健康そのものだった。


男の子だが、去勢はしなかった。
あの小さな体にメスを入れるのが怖かった。
何よりうさぎは犬猫よりも麻酔リスクが高い。
精神的ショックにも弱く、麻酔から目覚めない子も少なくないという。
だからあえて去勢をしない道を選んだ。

去勢をしていないが故に、私の脚やぬいぐるみに多少のマウント行為もあったが、特別ひどいという事もなくとてもいい子だった。
2人だけの縄張りなのでスプレー行為もほとんどなく、本当に平和に過ごした。


彼はとても感情豊かで、色々な気持ちを態度で示してくれた。

基本的にはケージの2階で寝ていたが、私が起きると、帰ってくると、すぐに1階に降りて扉を開けろ!なでろ!一緒に過ごそう!とアピールしてきた。

私がキッチンにいると必ず後ろでゆっくりと過ごし、お風呂に行くとバスマットを占領し、ベッドにいると隣や足元が定位置になる。
本当に、ずっと一緒にいた。

追いかけっこも大好きだった。
うさぎは懐かない、などと言われるがそんな事はない。
名前を呼んだら駆け寄って来るし、常に後ろをついて歩いてくる。
就寝は別々でも、お昼寝くらいなら一緒にベッドで過ごした。足元やお腹にもたれかかって寝ている姿は何よりも愛おしかった。


けんかも沢山した。
爪切りが嫌いだった彼のために回数は減らしていたものの、それでもどうしてもやらなければいけない戦いだった。
伸び伸びの爪を、出来るだけ短くカット。
何度腕にうさキックをくらい、何度みみず腫れが出来たことか。
でも彼が怪我をするくらいなら、私の怪我なんてなんてことはない。何よりも彼が大切だから。


彼はたくさん私の話を聞いてくれた。
嬉しいこと、悲しいこと、悩み事から愚痴まで全て。
いつもじっと付き合ってくれ、手が止まると撫でろと催促してくる。
答えをくれる事はないが、最後まで付き合ってくれる。そうすると、自然と頭が整理されて答えが出てくる。結局のところ、彼が答えをくれていたのだと思う。


彼のために、家庭菜園もはじめた。
生野菜が大好きな彼に、採れたて新鮮な無農薬な葉っぱをあげたくなったのだ。
ベランダで夏になると大葉やバジルを育てるようになって、もう何年になるんだろうか。
最初は小さなプランターから始まり、今や立派な水耕栽培で虫もつかずとても大きく育てれるようになった。

彼に壊されたものもたくさんある。
ベッドや棚の端、お気に入りのお洋服、大切な紙資料……中でも壁紙の1部をボロボロにした時はさすがに顔面蒼白だったが、長く住んだおかげで修繕費は掛からず胸をなでおろしたのは記憶に新しい。笑


そんな彼も、もう8歳半。
十分寿命と言われる歳になった。

最近は眠っている時間が長くなった。
お気に入りの寝床だった2階も、体に不安を覚えたので1年前に撤去した。
その頃軽度の斜頸がみつかったが、すぐに病院で診てもらいお薬を飲み、数週間で回復した。
その際のお薬の強制給餌は大戦争だった。

その後少し耳も遠くなり、ここ1ヶ月では突然急速な衰えを感じている。

8年前に去勢しなかった精巣の右側が肥大している。これは妙年のオスうさぎの大半が患ってしまう疾患である。
その影響でおしっこの失敗が増え、左後ろ脚の動きが悪くなってきたのも重なり存分に脚を濡らしてしまうためオムツ生活に切り替えた。
あの時は私が去勢できなかったから……ごめんね。

うさぎにとって脚が濡れることは一大事である。
ふわっふわな被毛に覆われているが故に乾きにくく、皮膚炎を起こしてしまうのだ。
内側だったため気付くのが少し遅く、皮膚が赤くなってしまっていた。

そして目の視力も衰えている。
いつも通りたまに出る目ヤニを綺麗にしようとしたら、白内障の症状が出ていた。
寝ている時間が増え、頭を撫でている時は気持ちよさそうに目をつぶるため、これも少し気付くのが遅くなってしまった気がする。

全部の事が、たった1~2週間で。
寄る年波には勝てないといったところなのだろうか。

正直、お迎えはそこまで来ていると思う。
一緒にいれる時間は、あと1日かもしれないし、1週間かも、1ヶ月かもしれない。

無理に延命しようという気持ちはなく、最期まで彼のタイミングに任せたい。
ただただ、痛かったり、苦しい、つらい、そんな思いをしないように出来る限りのお手伝いがしたい。

ベランダにはまだまだ今年の大葉があるからしっかり食べてね。
帰ったらオムツ取り替えて、一緒にごはん食べて、お昼寝しようね。

出来るだけ、一緒に過ごそうね。
私の大切なうさぎさん。


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