藤原妃奈子

とてもじゃないけど 思い出せないような事

藤原妃奈子

とてもじゃないけど 思い出せないような事

最近の記事

瞬間

葉先にしがみついて 光るしずくが 世界をまあるく 映し出していて その瞬間は 自然の摂理、けして抗うことはできない 巨大な流れの中にあって 奇跡のように 存在していると感じられ 彼らが 必死で身を繋ぎ止めようとする光たちが 木を輝かせているのだと気づいたとき わたしは幸せでした

    • 風化

      花びらが 風をのぼってゆく 回転しながら 揺れながら どこへ降り立とうとも それは終わりではない 信念を乗せて のぼっていった

      • 未完成

        肉も緩み切った真昼 道の向こうにいたその子は 縄跳びの最中だった 空と同じ色の縄がふうわり舞って 青く溶け込んだと思へば 地面に落ちて一区切り 行ったり来たりの縄 一々首かしげては また跳び上がる 踏み越えられない境目に見つめられても 自由だった 地面に着地するたび 靴の踵から自由が零れて アスファルトを伝いこちらまで 流れてくるようで眩しく 自由だった わたしの指には 長葱の飛び出た買物袋が食い込んで わずかにも浮べないまま 雲の流れる音を聞く

        • 二月

          コインパーキングの片隅 羽になりきれない埃が くるりくるりと 思わせぶりに舞って  見上げれば 輝きの足りない星たちが 闇に吸い込まれかけていた わたしの黒い髪の毛も 一抹の春をくるんだ 夜風に揺られて 気がつけば 白い色鉛筆の使い道ばかり 考えている

          将来

          銀の枝にて触れた空気が キン、と鳴く澄んだ朝 茂みからふと呼び止める声を われ冬に夢中と遠ざけた 本当は違ったのに ずっと遠くから 甘く匂い立つ鮮烈に心奪われて 欲にされるがまま 静かに耳を傾けていたかったのに あの花が問うたのは 来月降る雪のことで 無邪気に笑って

          バードウォッチング

          こんな時間にどこ行くん そんな群れてどこ行くん 夜一滴かき混ぜたような 真四角のちいさき空 斜めに飛び立つ大群に どこ行くん、どこ行くんよと訊ねる 何遍聞いても我が問いは 口角泡となり破れるのみ そんなんやったら知らんからな 全部あんたらのせいにしたる ほんまは言わなあかんこと 言わんと黙ってたことも 一から十まで覚えてるのに ニと三は忘れたふりしたんも 慢心ぬかるみ足とられて 吐く息ぜんぶが昏くなる

          バードウォッチング

          宝探し

          心臓がどくんどくん 雨がざあざあ お鍋ことこと 裸足できゅっきゅっ 犬がわんわん 心臓がどきどき 雨がぴちゃぴちゃ お鍋ごとごと 裸足ですっすっ 犬がくうん と云ふときもあります ですが見当たらないのです 頭から潜ったプールの中の 雲が空を流れゆく時の ひとり瞬きをした隙の そのために用意された言葉には 何処を探しても行きつかない わたくしの無知の可能性 それとも表現に値しないと 相手にされなかったのだろうか あなたたちに出逢い ああ残念、この口では どう言い表すこと

          フラワー・トーク

          三列目のカーネーションは言った ねえ最前列の子 あと数日のことだって 理解してるのかしら 胸を広げて自信満々 あたしよりもっと 季節に縛られているのに スイートピーはそれに答えた 嫉妬はよくないわ 彼女たちは 赤いから華がある 店先で目立つからいいんじゃない? それだけのこと、 たったそれだけのことよ ポインセチアには聞こえていなかった そもそも距離が離れていたし 別のことに心を奪われていたからだ 同じクリスマスソングが流れる回数を数え 祈り続けていた せめて誰かに買われ

          フラワー・トーク

          駅の時計

          俺の役割 人間たちに伝える 現在、時刻は何時何分 息つく暇もない 役割を貰った時、胸が高鳴った 誰かひとりのためでなく ここを行き交う 何千、何万、何億人に時を刻む 彼等は俺を見上げ 先を急いだり歩をゆるめたりする その信頼が 俺の誇りだった ある時、強い日差しに眩暈がして 1秒 針を動かすタイミングを誤った その瞬間 俺はたしかに 不確かな存在になった なんてことをしてしまったのか 1秒のために 俺は俺の価値を見失い 誇りもなくなった 俺の不確かさが いつか見抜かれる

          親愛なる

          君のこと 海だと思ってたよ どこまでも広く寛大で いつだって 優しかったから 君の上でたゆたう時 君が海か 君が海らしいね なんて なんて 素晴らしいんだと思った どんな絵も物語も歌も 海は素晴らしいと言う 悪口は言わない 君が海であることが 誇らしかったし 君だけが 海だと信じて 少しも疑わなかった 君は海で 海は君 みんなが君を呼ぶ名は 借り物だとさえ思っていた それが突然  何歳の頃だったか 今じゃもう思い出せない はるか遠く 西の方へ連れて行かれ あれは海じゃ

          12月12日 午前7時

          青い服に野球帽の少年 リュックが濡れて色濃く ぎゅんと重く 寝巻きのおじさん ビール箱 潰したのを頭に つっかけで急ぎ足 おっきな交差点の前で 鞄ひっくり返して あれ探すお姉さん 眼鏡が濡れて そんな慌てて どうして 久しぶりの雨 あたりたい理由 あたりたくない理由 どっちつかずに揺れるのに 本日の空の色は最適 境目を探したら 最後

          12月12日 午前7時

          銀杏、きれえなあ

          堂々と茂って きれえなあ  ずっと見てたいなあとゆわれて 誉めそやされて 盛りを迎えとる他人を あんたはどんな気持ちで 見上げとるんか あんたはもうそこにおらんやん 落ちてしもて 乾いてしもて 取り返しつかへんことに なってもうてる あんたが輝くはずやった きれえなあと言われるのは ほんまはあんたやった せやのに 落ちたやん あんたらを見下ろして いつ刺してくるかもわからん 雨や風や鳥と仲良うして ほっぺ触れ合わせて ご機嫌に靡いとるもんのこと どう見とるんか あんた

          銀杏、きれえなあ

          まんぷく

          お腹を空かせないで 好きなものを心ゆくまで  胃に詰め込んで あっちいスープで舌がジンジンするのも 血管が捌ききれない塩分で顔がまん丸くなるのも 一生とれないシミを白い服に飛び散らせるのも たまにはいいもんよ 我慢なんかしないで その味を謳歌して 一滴も一粒も取り残さずに 舐め回して それは誰にも譲る必要がないもの あなたになるべき養分 何一つ手放さなくて済む人生を生きて どうかそこにいて  あなたが 胸焼けするくらい 幸せなら わたしは満腹

          やさしいふり 

          長芋 ヨーグルト ほうれん草 キャノラー油 じゃないの キャノーラ油かな なんか違和感 そんなことよりも わたしは心配 あんたは役目を果たしたんか これ書いた人にちゃんと 長芋 ヨーグルト ほうれん草 キャノラー油 買わなあかんよとゆうためだけに 生まれてきたあんたが 何かの間違いでここ 道半ばで倒れてたとしたら ご主人に届けてあげなあかん 恥ずかしがって裏返ることもできるのに 胸を張って堂々と 伝えていたのは 叫ぶみたいに横たわっていたんは まだ思い残したことが あ

          やさしいふり