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祖母の話

 眠くて眠くてたまらないのに眠れない。

 目をつむると、数日後に来るであろう祖母の死を考えずにはいられないからだ。

 私が恐れているのはなんなのだろうか。もう二度と祖母と喋れなくなること? もう二度とあの温かい手に触れられなくなること? 遊びに行ったら祖父母が出迎えてくれるという、20年間当たり前だった光景が見られなくなること? 祖母に頼ってばかりでなんだかまだ娘感漂う母が変わってしまうこと?

 全部怖い。

 コロナが流行り出してからというもの、私はそこまでコロナに憎悪を抱かなかったが、今回ばかりはコロナを恨んだ。あいつのせいで、お見舞いに行けない。子供はオッケーで孫はダメらしい。つまり私は、祖母が再度退院して家に戻ってきてくれない限り、二度と祖母に会えないということである。あの手の温もりは今日限り味わうことができないものなのかもしれない。母には喪服の準備をしておくように言われた。

 祖母が元気だったら、と想像した。

 来年の1月、晴れやかな振袖を着た私は、前撮りをしたあと、晴れやかな顔で祖父母の家に行く。そこには、80過ぎても背骨がまっすぐの祖父と、鼻チューブしてない自分で歩ける祖母が笑顔で出迎えてくれて、「成人おめでとう」と言ってくれる。

 現実では、私は今日前撮りをした。入院する祖母に、もう二度と会えないかもしれない祖母に、晴れ姿を見せるためである。祖母に振袖を見せてから介護タクシーが来るまで一瞬だった。私はその後、涙でドロドロに崩れた顔で前撮りした。母は「成人式の写真をお見合いに使おう」と画策していたらしいけど、あんなもん見せられるか。

 ただ、私は祖母が認めるべっぴんさんらしい。「美人に産んでもらえてよかったねぇ」と言ってくれた。化粧がでろでろになってもべっぴんには変わらない。

 私がこの顔に産まれて、今まで幸せに生活できたのは、祖母が家系を繋いでくれたからである。

 おばあちゃんありがとう。大好きだよ。

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