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漫画紹介「みつどもえ」

みつどもえは2006年から2017年まで週刊少年チャンピオンをはじめとする秋田書店系列の雑誌で連載していたギャグ漫画で、作者は「僕の心のヤバいやつ」の桜井のりお先生です。

「僕ヤバ」とは全く異なるテイストのギャグは、長期連載も納得の面白さです。

・あらすじ

日本一似てない三つ子、丸井みつば、ふたば、ひとはの三姉妹を擁するクラスの担任になってしまった信任教師、矢部智。三姉妹以外にも、性犯罪者スレスレの変態や痴女がひしめく百鬼夜行のクラスに流され振り回され、日常が過ぎていく。

縦軸の存在しない全力下ネタギャグ漫画。

・魅力その1、キャラ魅力を前面に押し出した漫画

この物語に、明確な話の縦軸は何一つありません。誰をどうする事が目的だとか、何をどうすれば物語がまとまるのか、そもそもそういう指針が存在しません。なのでネタさえあればいつまでだって続くお話ですし、最終回についての制限も堅苦しい伏線も無縁です。

現実、この漫画の最終回は非常に唐突で、しかもその後も何事も無かったかのように続けられる終わり方でした。

物語は完全にサザエさん方式のループ方法を取っており、毎年クリスマスやバレンタインがあり、作中キャラ達も昨年の出来事を記憶していながら、それでいて永遠に年齢が加算されず、進級やクラス替えはありません。

ギャグ漫画においてこの方式は長期的なストーリーを作りづらいという弊害がありますが、元々縦軸が無いこの漫画には関係がありません。

ただただ日常系のギャグとして、恒久性から来る多幸感を味わえる漫画となっています。

縦軸が存在しない分、ギャグは非常に強烈です。

下ネタ漫画として、代表的なものの一つに数えられてもいいくらいかもしれません。

パンツが描かれるくらいは毎度毎度の日常茶飯事。パンツを被る、全裸になる、野外排尿など、作中で行われる数々の変態行為を書き連ねると、枚挙にいとまがありません。

面白いのはそれらの展開のほとんどが、アンジャッシュ的な勘違いが元に偶発的に引き起こされた「やむを得ないセクハラ」である事。勘違いネタが多用されるスタイルはギャグとしてやや変則的ながら非常に面白く、そして変態痴女行為ばかりが行われるこの漫画に置いて、基本的にほとんどの人物が変態ではなく、常識的な思考の持ち主である事が分かります。

例外もいますが。

変態が変態行為をするだけではドン引きです。が、常識人が変態行為をするという事が面白いわけです。

・魅力その2、主要人物が小学生

はじめに断っておきますが、ロリコン的な意味ではありません。

主要人物が小学生という事は、精神的に成熟している部分と未熟な部分が混同しているという事。これはアンジャッシュネタ的にも相関関係的にも、非常においしい状況です。

たとえばクリスマス。

作中において、サンタを信じている主要人物が二人います。

これはかなりぎりぎりですが、まあ納得できる範囲でしょう。小学生も高学年になれば大抵サンタの存在を信じていないわけですが、家庭環境や生活が特殊な場合は信じていてもさほど不思議ではないでしょう。

これが中学生なら無理のあるお話と言えますが、小学生なら納得がいきます。少数とはいえ、サンタ信じる派は存在してもいいのです。

そして「信じる派」と「信じない派」が同時に存在しているからこそ、勘違いのネタが生まれるわけです。

このような手法で続々と展開されていくギャグは、非常に面白いです。

それともう一つ。小学生である事によって、人間関係の動きに制限が少なくなっています。

たとえば恋愛。小学生くらいの恋愛なら、簡単に関係が確定しない片思いの状況が自然に起こります。片方が恋愛に関して無自覚でも、なんら小学生なら不自然はありませんからね。作中だと主にクラス一のイケメン佐藤信也くんに恋愛的なお話が集中しますが、彼への恋心に無知な三姉妹の一人であるふたばとの絡みは、なんというか非常にプラトニックかつ小学生的で、とても良いです。周りが生々しいのも含めて良いです。

小学生だからこその展開に富んでいて、似たようなテイストの「ロロッロ!」とはまた違う趣がある漫画です。

・魅力その3、根は善良な人物達

作中人物はあらゆる意味でアクが強いキャラばかりです。

ですがどの人物もきちんと他人を慮る道徳心を持ち合わせており、展開次第ではキャラを捨ててでも人助けに走る事がしばしばあります。

たとえば作中における、長女ことみつばとそのライバル杉崎との関係。

二人は対抗意識を燃やすライバル同士で、お互いがお互いを陥れる事に全力を尽くします。

ですがあくまで狙いはお互いのみで、その戦いに周りを巻き込む事はしません。杉崎はお金持ちでみつばはやや貧乏ですが、その貧富の差を指摘する事はあれど、財力で嫌がらせをしたりはしません。みつばとしても、杉崎の弟や家族に対してはある程度友好的に接しており、そこには明確な一線が引かれてします。

そしてお互いがどうしようもないピンチに陥った時は、自分の身を省みずに手を差し伸べます。その後お互いに弱みを握らせる事になっても、躊躇せず。

この関係は「ロロッロ!」におけるちとせとうみちゃんに通ずるものがあります。あちらは中学生である事、二人の性格にかなりの違いがある事からいろいろと事情が異なりますが、それでもこの関係は作中においても非常に異質かつ甘美で、素晴らしいと思います。

その二人以外にも様々な人間関係が展開されては移り変わり、非常に興味深いです。

総評

「僕の心のヤバいやつ」から逆流現象的に手を出したこの漫画ですが、まるでテイストが異なる作風ながら非常に面白く、楽しめました。

ギャグ漫画としての絵面、日常漫画としてのキャラの可愛さと魅力、人間関係の変遷。そして下ネタ漫画としての下ネタレベルの高さ。どれを取っても非常に高く、他に見た事の無いタイプの漫画です。

ギャグ漫画好きは下ネタという先入観を一度捨て、見てみてほしい逸品です。

私的好感度:96/100、オススメ度86/100

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