AIイラスト生成サービスについて

話題沸騰のAIイラストサービス mimic について、著作権周りにはあまり詳しくないのですが、 自由と正義2022年2月号掲載の『AIソフトウェアと著作権法』という論文が結構わかりやすかったので、頭の整理もかねてちょっと整理してみようかと思います。


1 著作権法30条の4について 原則と例外の話

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 略
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。……)の用に供する場合

なんのこっちゃという感じですね。要はこれは例外規定なのです。
著作権の原則的な考え方としては、
①イラストをダウンロードする(複製)
②学習のための加工(翻案)
それぞれについて、著作権者(イラストレーター)の許諾が必要になります(もちろん私的利用なら…など従来から許諾不要なパターンもあり)

ですが、日本の著作権法上は、情報解析のためなら、例外的に①②の許諾は不要とする考え方を採用しているのです。
ちなみに、諸外国では非営利目的または研究目的の情報解析の場合のみ許諾不要となっていることが多いようです。

そこでひとつ気になる条文があります。そうです、ただし書です。
『当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合』は許諾なしでの利用ができないとあります。
では、著作権者の利益を不当に害する場合とはどんな場合でしょうか。

2 著作権者の利益を不当に害する場合とは

これについて、将来的に著作物の潜在的販路を阻害する場合と解する見解があります。
たとえば、イラストレーターAさん風のイラストを作成するために、AさんのイラストA①、A②、A③……をAIに学習させる行為は、将来的にAさん風イラストαが生成されることによって、AさんのイラストA⑩と競合して潜在的販路を阻害するおそれがあるから、AI学習にはAさんの許諾が必要である。

一見納得できる見解にも思われます。
もちろん、将来的にイラストαを生成して利用する行為は著作権侵害に該当しえます。ですが、学習させる段階から許さないとなると、あまりにただし書の適用範囲が広くなりすぎます。
AIが既存の著作物を解析する以上、AIが将来的に既存著作物の著作権を侵害するものを生成するおそれがないという事態はおおよそ考えられず、著作権法30条の4が情報解析を利用許諾の例外とした意味がなくなるからです。
そうなると、ただし書の意味としては、『現実に著作物の潜在的販路を阻害する場合』くらいになるのではないでしょうか。たとえば、既存著作物がデータベースだったような場合には、学習した段階で明らかに競合しますからただし書によって許諾なしは許されないことになります。

3 利用段階の問題点

以上は、あくまでAI学習段階の問題です。
では、AIから生成されたイラストの著作権はどうなるのでしょうか。
イラストレーターBさんのイラストを学習させ、イラストβが生成された場合、イラストβはBさんのイラストを複製していると言えるのか、という問題です。
複製と言えるためには、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知するに足りることが必要になります(最判S53.9.7)。

BさんのイラストB①~B⑤を学習し、イラストβが生成された場合を考えます。侵害のパターンとしては大きく分けて二つあります。
パターン1 イラストB①とイラストβが類似している場合
パターン2 イラストB⑥とイラストβが類似している場合
です。

パターン1のとき、イラストB①は学習対象に含まれているのだから、イラストβはイラストB①に依拠しているという考え方(肯定説)と、Bさん風イラストというのはあくまでアイディアであるから依拠していない(否定説)という考え方があり、結論が出ていないらしいのです。つまりグレー…

一方、パターン2の場合、AIはイラストB⑥にアクセスしていないことになります。そうなりますと、仮に肯定説を取ったとしても依拠性は否定される可能性が高い。

4 まとめ

著作権法が認めている以上、AI学習自体を止めることは出来ません。
ですが、その先に待っているであろう著作権侵害については、今後判例なりガイドラインなりが出来てくるのではないかと思いますので、それを注視することになるのかな、と。
ですが、3で記載したような依拠性の問題がある以上、mimicはデータ生成の元データを保存管理し、権利者に対する適切な開示の手続きを設けなければ、著作権者の権利行使を非常に困難にすることは間違いないと思います。