見出し画像

#13 夏の風物詩「かき氷」が変わっていた・・・

 地球温暖化の影響なのか、今年の夏は少しおかしい。
梅雨は最短で明け、猛暑が続いたかと思えば、各地で災害級の豪雨があり”梅雨に戻ったのか?”と思うほど雨の日が続いたが、やはりいつもの暑い夏がやってきたようだ。
暑さも年々、酷く蒸し暑く堪える。(これは更年期の影響なのか?とも思いながら)
…となると、身体のためには良くないと思いながら、冷たいものを求め、地球に良くないと思いながら、エアコンをきかせてしまう。

そんな気だるい毎日を送っているなか、小料理屋をしている知り合いから、ちょっとした相談を受けた。コロナ禍の不透明な状況から今後のことも考え、昼の営業を考えている。その昼間には「氷屋」をしたいと。
「えーかき氷? なんで?」
正直、私は「かき氷」がそんなに好きではない。
子どもの頃の夏の思い出の1つに、赤、黄、緑などカラフルな色のかき氷が大好きだった…なんていう話をよく聞くが、私は全く共感ができず、あんなどぎつい色の甘ったるい氷を食べ、舌が真っ青になるような可笑しなものを身体にいれたいなんて思ったことがなかった。少し食べれば、頭がキーンとなり、身体中は冷えて、カップいっぱいのかき氷を食べきったこともなく、どれだけ暑くてもかき氷を手にすることはなかった。
製氷機の氷を口の中にポンといれて、転がして溶けていく方が余程お気に入りの食べ方だった。

そんなかき氷の印象が、余り良くない私ではあったが、相談された手前、かき氷を意識しはじめる日々が始まった。

「ゴーラー」の存在


まずは美味しいかき氷を食べないとイメージが湧かないと思い、検索してみると、出てくる出てくる今までに見たこともない、頭でっかちの大きなかき氷たち。
そしてこの言葉を初めて知った「カキゴーラー」「ゴーラー」族という存在。
かき氷を愛好し、夏だけでなく、日本各地のカキ氷を年中食べ歩く人たちだそうだ。こんなカテゴライズされるほど、カキ氷を愛する人たちが世の中に溢れ、SNSで飛び交う写真の多さにビックリ!
しかも進化系と呼ばれるかき氷は2000円以上するものもある。私の知らぬ間に、高価で立派なスイーツへと変身をなし得ていたのだ。
屋台で200円ほどで食べるかき氷とは、全く別物の存在となり経て、私の知らない世界が広がっている。
と云えども、かき氷に数千円もかけてわざわざ遠くまで食べにいこうとまで、まだ私の気持ちは揺れ動かなかった。

かき氷の歴史を辿る

まずは自分の先入観を取っ払い、歴史を知ることから始めた。
さかのぼること平安時代、枕草子の記述にあるように「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」という文章がある。
冷蔵庫や製氷機がない時代に、氷は冬の間に天然氷を切り、山麓の穴倉などに作った氷室に保存し、夏になると切り出し、宮中に運び届ける。天然氷を刃物で削り、ツタの甘い樹液をかけて暑気払いをしていたという…風流で超贅沢品であったことが伺える。

この情緒あふれる自然から作るかき氷は,想像するだけで喉が潤う。
ちなみに、自然の氷の欠けた氷を削り作ったことから「欠け氷」→「かき氷」といわれるようになったそうだ。

江戸時代末になると、船を使った輸送も可能となり、明治時代に日本で初めての氷屋が開業したことから庶民の口にも入るようになった。
鉋で削っていた氷も明治20年には薄く削れるかき氷機が発明され、現在の形となったようだ。

天然氷

そう、かき氷のベースとなる氷が美味しくないと美味しいかき氷なんてなり得ない。小さい頃食べていたジャリジャリとした氷とは違い、最近のかき氷は、ふわふわと滑らかで頭にキーンとしないのだ。
口の中に入れてもフワフワとした食感、サラッと解けていく氷は、きっと日本の地形が作り出す軟水だからだろう。

枕草子の一説にある天然氷は、どのようにできるのだろうか…
“天然氷”とは、山間などの自然環境下に造った池に、湧水などの良質な水を引き込んで、ゆっくりと自然の寒さで凍らせる。低温でじっくりと凍らせる必要があり、水を引き込んでから、池一面に張った氷を切り出すまでには、おおよそ2週間から20日程もかかるという。
しかし天然だからこそ、塵やホコリや落葉などが入ったりすることもあるだろう…そういったものを取り除くために、毎日塵や雪を除去する作業を行うという。さらに、結氷しても気温が上昇すれば、割って捨ててしまい、また一からやり直す必要がある。
極寒の時、人力で天然氷が十分な厚みになるまで毎日繰り返す作業、なんともテマヒマがかかっているのだ。その切り出した氷を氷室で保管し、出荷するまで備える。これを生業としている人たちを蔵元と云い、大正時代に600軒弱、昭和初期に100軒以上あった氷室が、今では冷凍冷蔵技術の発達や後継者等の問題から、今では全国にたった5軒しかない。
これだけ労力がかかってできる天然氷は、希少価値だ。

天然氷はなかなか手に入れるのは難しいとなると、できるだけ不純物がなく雑味のない氷で、フワフワのかき氷に仕上げたい。
プロの氷屋さんが作る「ブロック純氷」がそれに当てはまるようだ。この純氷をフワフワに削るには、コツいると氷屋さんが教えてくれた。
冷凍庫から出して直ぐの氷ではなく、冷凍庫から出して20分ほど置き、少し表面が溶けて透明な状態になってから削るとフワフワになるのだ。少なくともマイナス10℃以上まで温度をあげた方が良いそうだ。
表面が固いままだとなめらかにならず、薄く削ることが出来ず、ジャリジャリの氷になってしまうということだ。

シロップ

無味な氷を自分好みの味にできることは、かき氷の醍醐味だ。
氷の上からシロップをかけた瞬間、白い山が染まっていく様子を見るのも楽しい。昔のシロップは、色が違えども味はどれも同じようで、好きな色でシロップを選んでいた。しかし今やフレッシュジュースのように旬の果物そのものを使い、果肉もたっぷり入っていたり、またサイエンスのように色が変わる不思議なかき氷もある。

市販のシロップではなく、自家製で、お店の独自性やこだわりがどんどん進化していき、アレンジや変わり種など豊富な種類に驚く。
また進化系の氷になるとシロップがエスプーマになり、トッピングも豊富で、ティラミスやプリンなど色々なスイーツともドッキングし、まるでパフェのように華やかなのだ。

そして、これを食べてみると、確かに様々な食感が楽しめ最後まで濃厚で美味しい。
昔は最後は溶けて、色のついた水となっていたが、これだと最後までキレイに食べきることができる。もはや涼を求めて食べるだけのかき氷ではなく、完全なスイーツなのだ。

ここまでくると、ようやくゴーラーの気持ちがわかってきた。

日本の風物詩であった「かき氷」がイノベーションを起こし、変化し続けることは素晴らしい。
しかし保守的な私は、溶けてなくなる儚さや日本の風土に合わせ、暑さを凌ぎ涼を求め食べた昔からの「かき氷」を大切にしたい。
素朴で自然な味、喉の渇きがとれるかき氷を再現したい。
30℃を超えるとかき氷が売れるという。
連日30℃越えの酷暑、今年は手作りのかき氷で凌ごうと思う。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?