見出し画像

某事件の振り返りと教訓

0.はじめに

おはようございます。くにみち(@ku2m1)です。ツイッターで私をフォローしている方であればなんとなくお察しかと思いますが、先日報道された某事件の被疑者と関係、一部事件に巻き込まれておりました。全国紙のネット記事でインパクトのある見出しや内容で報道されたことにより、ツイッターでもトレンド入りするなど、一時大きく話題になったようです。まだ法的な判断は先になると思いますが、この機会に事件に関して振り返っていこうと思います。

なお、検索避けのため、事件の被疑者の名前などについては伏せることとし、以下、被疑者をT氏と呼ぶことにします。

T氏はK大卒の医師を自称し、医師免許を持たずに医療行為を行った疑い、偽造学生証を用いて住民票を入手するなどした疑い、日本国籍を持たずビザが切れたまま日本に不法残留した疑いがかけられています。

1.私とT氏の間の出来事

私がT氏と関係を持ってから現在までの出来事について時系列順にまとめました。

画像1

この表に沿ってT氏との関係、T氏逮捕の事件について述べていきます。

2019年の秋、Twitterのリプライ(返信)機能を経由してT氏と会話したことから、彼との関わりを持ちました。彼はTwitterで「K大生と会ったら鮨を奢る」ことを謳っており、初めて彼と対面した2019年12月京都での会食でも実際に全員分の会計を支払いました。その会食の際に彼の名刺を貰い、(記載された医療機関について検索した上で)ある程度信頼できると判断。翌日、彼から口内炎の薬を購入しました。そしてこれが確かに届いたため、さらに信頼が強まりました。その後の複数回の会食(その大部分の会計を支払って貰う)の中である程度親しい関係になりました。

事が動き出したのは、T氏が耳を負傷した事件のあった同年10月。私がこの事件について詳しく訊いたのは11月になってからで、この時に金銭的に困っているという話もされました。それ以前にT氏は勤めていた医療機関を辞めていたこと、耳の手術が保険適用外であることなどもあって、金銭的に困っているという言葉に信憑性があると判断。さらに、当時T氏と(男女)交際していた人物の存在ならびにその人物のツイート、そして今までの恩義から5,000円を送金しました。(当然ながら今までのことを考えると総合的に大きくプラス(利益)です。)

そしてその数日後、T氏の逮捕を知りました。T氏の関係者らで彼のあらゆる嘘についての調査を行い、その内容を訊いた後に警察の捜査に協力、さらにT氏と留置所で面会し、今生の別れとなりました。年が明けてしばらく経ち、先日T氏逮捕に関する全国的な報道があり、現在に至ります。

2.T氏の性質に関する認識

T氏は、外国籍で日本国籍を持っておりません(持っていないとされています)(なお事件発生前は日本国籍を持っているものと認識していました)が、日本語能力は極めて高く、語彙力は一般的な日本人を優に超えるレベルであったと思います。(これは京大卒であるという本人の主張を納得させる一因でした。)また、高いコミュニケーション能力、見ず知らずの他人と積極的に関わっていく姿勢を持っていました。一方で、行きつけの鮨屋のツケをしばらく溜めて払わないといった後回し癖を感じさせる面もありましたが、そういった面も含め「K大にいてもおかしくない」雰囲気を持つ異質な人物でした。

T氏は、自身を中心としたK大生(や他の大学の学生)のコミュニティを作っており、その理由として「互助」を挙げていました。「K大生(など)は将来有望であるため、今そこに"投資"しておけば、自分が今後何かしらの苦難に遭った時に助けて貰える可能性がある」と考えているようでした。彼は堅実に生きられるような人間には見えなかったため、これにも納得感がありました。

一方で、事件後、関係者によるさまざまな調査の末に新たな側面が見えてきました。T氏は外国で出生しましたが、家庭の都合で幼い頃から日本で暮らしたようです。(これが日本語能力の高さに繋がっていると思われます。)しかし、成人する前に両親はT氏を残して海外へ飛んでおり、これは彼の複雑な生育環境を感じさせます。また、あらゆる経歴の詐称にも関わらず、計画的な詐欺が見られない点を鑑みれば、金儲けを考えている訳ではない、虚言癖的な性質を感じます。彼の偽造した文書は(少なくとも一見した程度では見抜けないような)精度の高いものも多く、それが本人が作製したにせよ他者に委託したにせよ、圧倒的な行動力、行動力といっても社会性や倫理観に裏打ちされないそれを持っていたと思われます。後回し癖についても、容疑の一つである不法残留が、ただ単に手続きの滞りが原因であったようであり、そういう性質は改めて感じました。

そして、これは個人的な想像の範疇を超えませんが、彼は「人間を強く肩書きで捉える」性質を持っていたのではないかと思います。報道では「彼が修学旅行でK大を訪れた際に強い憧れを抱いた」という分析もありましたが、それに加えて、彼が自分自身が医師であるというアピールを頻繁にしていたことを考えると、K大卒でなければ、医師でなければ、K大生などに慕われないといった意識があった可能性を感じます。

T氏の正確な心理については誰にも知りようがありませんが、事件後も漫画や小説のような悪人という印象はなく、異常な生育環境を起因とした社会性の欠如の結果としてこのような事件に至ったと推測します。

3.事件の被害

この事件では、報道のように、医療行為によって健康被害があったということは聞いておりませんが、一部の人との間で金銭問題があるようで、多額の金を貸した人や、クレカを勝手に使われた人(ただし同居人であれば不正使用にはならないようです[1])について耳にします。

本件は特に外部の人からしてみれば、「T氏という犯罪者が多くの人を騙した」という単純な構造に見えるかと思いますが、私を含めT氏周辺の人々にとっては多様な見方があったように思います。T氏の行為による"被害"には一般的に言われるような犯罪被害という印象がなく、(騙された、裏切られたという感情を持つ人はいましょうが、)恐らく多くの関係者にとってはむしろ金銭的にプラスで終えているという点が、本件を単純化できず複数の視点によって異なる考え方を発生させた原因であると思います。

4.本件から学ぶべきリスク管理

本件による"被害"について、当然最も責められるべきはT氏であるにせよ、率直に言えば、"被害"者本人のリスク管理にも大いに問題があったと考えています。また、健康被害等がなくとも、医療行為を受けた人や医薬品を購入した人あるいは譲渡された人全てに危機管理意識の欠如していたと考えており、私も彼から医薬品を購入した一人であり深い反省があります。この事件の中心人物がT氏ではなく、もっと明確な悪意を持った人であったならば、もっと医療の能力や医学的知識に問題のある人であったならば、被害は甚大になっていた恐れがあるでしょう。

以下、本件から学ぶべきリスク管理について述べますが、これらは社会において当然とされているような常識ばかりかと思います。

①オフラインでの対面リスク

本件では起こりませんでしたが、寸借詐欺や(店側とグルになった)ボッタクリなどの危険性があります。特に、インターネットから知り合った人であればそのリスクが高まるでしょう。ただし、多人数であれば被害を抑えやすい、またはそもそも被害が起こりにくいと考えられます。

②他人の家に上がるリスク

密室かつ他人の領域であることから様々な犯罪被害の危険性が高まります。また逆に、今後その人が自分のテリトリーに侵食することを安易に許してしまう恐れもあるでしょう。

③クレジットカードに関するリスク

クレジットカードはカード本体に書かれている情報で簡単に不正使用が可能です。(その点において、カードを店員に渡すタイプの決済方法は抵抗があります。)特に、不正使用者が家族や同居人であった場合はカード会社から補償されないため注意が必要です。(参照)

現在は、携帯端末でクレジットカードを管理する機能もあるので、その場合は当然携帯端末の管理についても、短時間であれ放置して離席しないなど注意する必要があります。

④金を貸すリスク

当然ですが、貸した金は返ってこない恐れがあります。大金であれば友情などゴミ屑に等しいでしょう。わざわざ法的な措置を取るのも面倒ですので、初めから無くなっても良い程度の金額を貸すことが賢明でしょう。困ってる人に金を貸す優しい自分に酔って自分の身の丈に合わない金を貸すのは絶対にやめましょう。

⑤非正規の方法での医療行為のリスク

ピアスの穴開けや入れ墨なども含め、医院で行われない医療行為は健康被害の恐れが高まります。衛生上の問題や、そもそも医療行為を行う人物が本当に医者なのかという問題があります。また、身体を人質に取られることで、様々な犯罪被害に遭うリスクもあると考えられます。

⑥非正規の方法での医薬品や食品などの購入リスク

⑤と同様に健康被害の恐れがあります。医薬品は基本的に名称で調べて効果や使用上の注意など自分で確認することで被害を抑えられると思いますが、包装されていても小さな針で異物を混入されている恐れもあります。また、去年は消毒用アルコールの不足により一般人の間で売買が行われることもあったようですが、こういったものについても、元の製品から容器が移し替えられているなど内容物がわからない場合は危険と言えます。

⑦飲酒などによる判断能力低下のリスク

①〜⑥のようなあらゆる被害のリスクが高まります。

以上のようなリスクは、必ずしも完全に排除する、できるものではなく、あくまでも低減するものであり、その上で覚悟するものだと思います。寸借詐欺を恐れて人と飲食しないわけにもいきませんし、仲の良い友人であれば家に上がることもあるでしょう。酒を飲んで酔うこともあります。しかし、自分の健康や大金が失われるような危険は出来るだけ避けるべきでしょう。このハードルは、相手とどれだけ親密であろうが下げるべきではないし、ハードルを下げるならそれなりの覚悟をすべきでしょう。私たちは、傲慢にも常識を軽視し、実際の判断能力が欠如しているにも関わらず、己の能力に慢心していました。自分が、正しくハードルを下げることが出来ていると誤認していました。これは、T氏がどれだけ人を欺くスキルが高かったかに関係なく、私たちは深く反省しなければなりません。

5.おわりに

T氏が多数の人物を騙したこの事件を経ても「これからどうやって人を信じれば良いのか?」といった安易な不安、他人への責任転嫁に帰着すべきではないと思います。そもそもどれだけ親密になろうが、安易に越えさせてはならないラインがあります。そういう意味では人間など信用すべきではありません。他人に自分の何かを強く侵害される危険を許すことを信用というのであれば、人間など全くもって信用すべきではありません。また、こういった強固な防壁をもってしても被る被害というものはあるでしょう。いざとなった時に諦めをつけられるような意識をすることもリスク管理の一貫と言えると思います。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言います。私は賢者ではありませんでした。愚か者であってもまだマシな部類に入れるように、経験から最大限学ぶこととします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?