BEFORE20 AFTER21 −20世紀以前と21世紀以降をつなぐTANeFUNeの物語−/「明後日のアートの学校」アーカイブ
「種は船」プロジェクト
植物の種には遺伝情報が詰まっている。根を張って動くことのできない植物の代わりに、種は風や雨、川、海流、あるいは動物などによって運ばれて、次の世代のために時間と距離を越えていく。しかし、「明後日朝顔の種」に詰まっているのは遺伝情報だけではない。「明後日朝顔プロジェクト」を通じて連綿と紡がれてきた人々の想い と記憶、歴史がそこには詰まっている。人と人、人と地域、地域と 地域をつなげることで、発祥の地である莇平から全国各地に花を咲かせ、種を収穫している「明後日朝顔」。人が動くことで種が運ばれ、 種が動くことで人が運ばれる。その様子から「種は乗り物のようだ」 と日比野が着想して生まれたプロジェクトが「種は船」である。 2007年に金沢21世紀美術館で開催された「日比野克彦アートプロ ジェクト『ホーム→アンド←アウェー』方式」において、そのコン セプトがかたちとなった。美術館を港と見立て、モノをつくる造船 所(DOCKYARD)、人や情報が行き交う桟橋(PIER)、道標としての灯 台(LIGHTHOUSE)をキーワードとした本展で、《種は船・明後日丸》、 《種は船・莇平丸》、《種は船・金沢丸》の名を冠した3隻の実物大の 船がダンボールで制作・展示された。その後、水戸(2008年)、横浜 (2009年)、鹿児島(2009年)、種子島(2009年)などで「種は船」を展 開。2010年に舞鶴で制作された《舞鶴丸》が市民たちとの交流を生 んだことをきっかけに、2011年~2012年にかけてFRP(繊維強化プラスチック)製の自走式船《TANeFUNe》が誕生した。《TANeFUNe》は2012年5月19日に舞鶴を出港し、81日間かけて32の港に寄りながら「明後日朝顔プロジェクト」の発祥地である新潟に8月6日に到着したのち「水と土の芸術祭」への参加、2013年の六本木アートナイト(テーマ/TRIP→ 今日が明日になるのを目撃せよ。)への参加(六本木ヒルズにTANeFUNe展示と記録映像・タネフネスコープを路上プロジェクション)を経て、塩竃市へと移動し「つながる湾プロジェクト」に参加し、松島湾を結ぶように浦戸諸島で活動。2016年「さいたまトリエンナーレ」のプレイベントに参加。東京都と埼玉県をつなぐ荒川を中心にさまざまな川で活動したのち、2019年「瀬戸内国際芸術祭秋会期」にて粟島(香川県)で活動を展開した。港と港、人と人、記憶と記憶をつないでいきながら〈海からの視点〉で日常の光景を見つめ直す《TANeFUNe》の航海はこれからも続いていく。
BEFORE20 AFTER21 -20世紀以前と21世紀以降をつなぐTANeFUNeの物語-
姫路で「種は船」を展開するにあたり、日比野は海 洋環境への視点に立った新たなプロジェクトとして 「BEFORE20 AFTER21」(副題:20世紀以前と21世紀 以降をつなぐTANeFUNeの物語)を発案した。2019年 「瀬戸内国際芸術祭秋会期」への参加のため粟島(香 川県)に停泊していたTANeFUNe》が、瀬戸内海 の各島を巡りながら姫路市の西島に航海するなかで、 海や浜から漂着物を収集し、それら漂着物から物語 を創作する。物語づくりにあたっては、「むかしむ かし、あるところに~」からはじまる、おとぎ話の 語り口が採用された。おとぎ話は単なる空想の夢物 語とは限らない。そこには、当時の社会や人々が抱 えていた課題や問題意識、教訓が込められているこ とがある。海洋環境問題という、現代社会が抱える 問題を、一見するとフィクションのようでいて、実 は現実とつながっている物語づくりを通じて改めて 見つめなおそうとするものである。《TANeFUNe》 は2021年4月19日(月)に粟島の「姫路の浜」を出 港した。粟島には浦島太郎伝説があり、「姫路の浜」 は乙姫が訪れたとされる場所である。出港の際に船 長・喜多直人が島の住民から受け取った「玉手箱」 「明後日朝顔プロジェクト」にも参加していたことか ら、まずは校庭に出て明後日朝顔の種を生徒皆が一つ ずつ収穫した。その種の輪郭を画用紙に描き、種の中 に漂着物を描く。この漂着物は、西島の船長小屋か ら《TANeFUNe》に積んできたものを、生徒が各自 選んだものである。漂着物を「これまでを伝える力」、 種を「これからを伝える力」と捉え、「漂着物が何を 記憶しているか、それが種になったとしたら、何を未 来に伝えてくれるのか」を考えて物語づくりを行い、 皆の前で発表したのち、学校内の一室に全作品を展示 した。明後日朝顔の種と漂着物をこのように組み合わ せたワークショップはこれが初めてだという。日比野 の複数のプロジェクトを同時展開する「明後日のアー トの学校」に相応しい、「BEFORE20 AFTER21」な らではの新たな展開であった。 のなかには、明後日朝顔の種が入っていた。この種 は、姫路市の家島で収穫された種から2020年に粟島 の住民が育てて収穫した種である。いわば種の里帰 りともなった航海のなかで、《TANeFUNe》は7日 間かけて38の島や港を渡り、4月25日(日)に西島 に到着した。拠点は、「明後日のアートの学校」の共 催者である兵庫県立いえしま自然体験センター。セ ンターのロッジが「船長小屋」として、収集してき た漂着物の展示と物語づくりの場となった。
実施ワークショップ一覧
7月4日(日)| 「自然と遊ぼう」~TANeFUNe 乗船体験
7月18日(日)~8月22日(日)| 夏の DAY イベント TANeFUNe ワークショップ
8月6日(金)| 「野外活動を楽しむ」
8月7日(土)| TANeFUNe乗船体験
11月20日(日)| 「マイクロプラスチックから海洋環境を考えよう!」
「BEFORE20 AFTER21」では、(一社)タラオセアンジャパン理事シルバン・アゴス ティーニを特別講師に招き、「マイクロプラスチックから海洋環境を考えよう!」と 題されたワークショップを11月20日(土)に兵庫県立いえしま自然体験センターで 開催した。フランスに本拠地を置くタラオセアン(Tara Océan)財団は、ファッショ ンデザイナーであるアニエスベーによる支援のもと、海洋科学探査船「タラ号」を運 用し、気候変動や環境脅威が海洋へ与える影響を研究し、海洋保全の重要性を伝えて いる。日本では、タラ オセアン ジャパンが、全国の国立大学所属の臨海実験所・水 産研究所の連携組織「JAMBIO(マリンバイオ共同推進機構)」と共同して日本列島沿岸 でのマイクロプラスチック汚染の研究調査(Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調 査)を、2020年から行っている。タラ オセアンの探査プロジェクトが特徴とするのは、 海洋科学探査船に科学者だけでなくアーティストも同乗し、「科学の視点」と「アー トの視点」から海洋環境を捉えようとしている点である。この取組に、日比野もタラ オセアン ジャパン理事として関わり、シルバンとの交流があったことから、このた びの特別プログラムが実現した。 参加者はまず船長小屋に集合し、シルバンから海洋科学探査と瀬戸内海の特徴に ついて、日比野からTara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査の概要について説 明を受けるとともに、喜多船長からTANeFUNeで収集した漂着物の紹介とその物語 が語られた。その後、《TANeFUNe》と小型船に分乗して西ヲドモの浜に移動。拾い 集めた漂着物が辿ってきた道程に思いを巡らせ、想像の物語を紡ぎながらひとつひと つを浜に並べて展示した。シルバンからこれら漂着物のなかに多く含まれるプラス チック製品が劣化して細かく砕かれていくことで「マイクロプラスチック」になる ことの解説があり、マイクロプラスチックは小さくて目に見えないが、「目に見えな いからといって存在しないのか」という問いが投げかけられた。参加者はシルバン の指導のもと、実際に研究調査で用いられる手法に則り砂浜をふるいとフィルターで 濾して試料を採集、センターに持ち帰って顕微鏡で観察すると、そこに確かにマイク ロプラスチックが含まれていることを実見して驚きの声を上げた。続いてシルバン は、瀬戸内海が濁って見えるのはプランクトンが多いためであること、植物プランク トンは光合成によって酸素を生み出し、魚のえさとなって瀬戸内海の豊かな漁獲量を 支えてくれていることなど、海洋環境にとって重要な役割を果たしていることを説 明。参加者は、当日の午前中にシルバン、日比野、喜多船長が専用のネットを用いて 《TANeFUNe》で採集した西島の海水に含まれる植物プランクトン(珪藻)を顕微鏡 で観察した。SDGs達成に向けた機運の高まりに伴う海洋環境への関心の高まりを示 すかのように、子どもから大人まで、参加者ひとりひとりがシルバンの説明に熱心に 耳を傾け、意欲的に調査・観察に取り組んでいた様子が印象的であった。
12 月 18 日(土)| 「船長小屋巡り~TANeFUNe 乗船体験~」
3 月 13 日(日)| 「お山で船長と塩づくり」
「明後日のアートの学校」の拠点である書寫山圓教寺境内に「船長小屋」を設置し、漂着物からの物語づくりを行うとともに、西島で採取した海水から塩づくりを行い、「海と山をつなげる」本プロジェクトの仕上げを行いました。
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