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戸越銀座の話 〜その1〜

私はもともと神奈川と東京のちょうど境にある川崎市多摩区というところに住んでいた。

周りは基本坂道。
最寄り駅前も数軒の居酒屋とマック、すき家がある以外は何も無い。
歓楽街なんてもってのほか。地獄のような街だ。大学院を含めると7年間住んでいることになる。

飲み会終わりはヘベレケになりながら、急坂を毎回登り帰宅していた。
おそらくSASUKEのファーストステージ【そり立つ壁】はクリアできていたであろう。

通っていた大学がそこにあって住んでいたのだが
会社に就職する際、引っ越しのタイミングを見事に逃し、私だけがこの街に取り残された。
(学生時代の友達からは相当バカにされた。お前ら家来てたくせに。)
だから就職後も泣く泣くここから会社へ出社していた。

でも今更引っ越しするのもめんどくさいし、当時家賃も4万円だったから、かなり辛抱しながら生活していた。(ちなみに地元に帰った時は、東京に住んでるというどうでもよい嘘をついていた。
だって、ほぼ東京なのだから仕方がない)

2017年8月、社会人2年目の夏。
土曜日の22:00だっただろうか。
突然一本の電話がかかってきた。スマホを見ると大学時代に親しかった先輩の名前が。
なんか嫌な予感。この先輩の電話に出ると毎回ろくなことがない。とりあえず渋々電話に出る。

「おい、今五反田にいるから早く来いよ。」

嫌な予感は的中した。しかも場所が五反田。
私は思った。

「この人は絶対に如何わしいことをしようとしている。」

五反田→歓楽街→風○。。。

絶対にそうだ。間違いない。
こういう時の私の勘は、大体当たるのだ。
しかも、この先輩は結婚して奥さんもいる。
奥さんもいるのになんて破廉恥な。
この破廉恥先輩をなんとかしなければ。
私は正義感を抱き五反田へと向かった。
(いや、行くんかい)

五反田の指定された場所に向かう。そこはカラオケ館だった。はっ?カラオケ館??
まっ、まさかカラオケで?!この破廉恥が!!
五反田に到着し、カラオケ館へと急行する。

カラオケ館に到着し、扉を開けると先輩が湘南乃風「睡蓮歌」熱唱していた。
なんと如何わしい曲!!間違いない!!この先輩を止めなければ!!

すると先輩が一言
「この曲終わったら、ラーメン食って帰ろう」

???

えっ?

ラーメン??食って帰る???

私が来た意味は???歓楽街は???

全く状況が掴めぬまま、カラオケ館を後にし
五反田駅近くの家系ラーメンを食べた。

先輩がなぜわざわざ私を呼んだのか聞いたら、「いや、お前どうせ暇だろ」の一言。

なんてデリカシーのない!私だって忙しいのだ!
朝からYouTube見たり、ネットサーフィンしたり
見ることが沢山あるのだ!!(暇だと認めろ)

ラーメンが食べ終わる頃には、深夜0時になろうとしていた。街は仕事であったであろうサラリーマンと同伴のキャバ嬢、キャッチのイカツイお兄さん達で溢れていた。
時間も時間だし、何のために来たか全くわからないけど、終電も近いし帰ろうと思ったときに
先輩が一言

「ここから俺ん家近いし、部屋も空いてるから今日は泊まってけや。」

怒涛の展開。
というより、奥さんに了承は得ているのか。
「奥さん大丈夫なんですか?」と言うと
「もう言ってある」とのこと。

「。。。」

返す言葉も無かった。


既に泊める前提で呼んだのか。
こちらは奥さんのことも知ってるからいいけども向こうは気まずくないのだろうか。

違和感が残りつつも、とりあえず先輩が住んでるという街へ向かう。五反田で乗り換えるらしく五反田駅改札へ向かうと、たった3両しかない電車があった。東急池上線という五反田と蒲田を結ぶ路線らしい。
地元ローカル線みたいで少し故郷を思い出した。

「俺、戸越銀座住んでるんだよね。」と先輩。
「戸越銀座?なんかテレビで見たことあるけど
商店街でしたっけ??」

テレビで特集されたり、ロケで出てきたりとなんとなくは知っていたが、今回行くのは初めてだ。
(街歩き好きの人間として恥ずかしい)
五反田駅からは2駅らしく、電車だと4分の移動だ。

戸越銀座駅に着くと、木造デザインの駅舎だった。なんとお洒落。絶対隈研吾の設計だろこれ。(あとで調べたら当たってた)

駅の改札前がちょうど商店街となっているみたいなのだが、暗くて全く見えない。
疲れもあったため寄り道もせず、先輩の家へ向かい疲れを取ることとした。先輩の家は、駅から徒歩10分程度。

家に入ると奥さんに出迎えられ、久しぶりに3人で学生時代の話に華を咲かせた。
「本当色々と旦那が迷惑かけててごめんねぇ。」と奥さん。
(いや、今もだけどな。)と思いながらも
「全然そんなことないですよ、いつもお世話になってます。」と超絶社交辞令で切り返す。
(偉いぞ、私)

「ちなみに、明日はどんな感じなんですか?」
と私が言うと。せっかくここまで来てくれたから、戸越銀座を案内してくれるという。

これは嬉しい!
久しぶりの街歩きで、しかも知らない街だ。
事前に知っていれば行きたい場所も調べていたのだが、明日は先輩夫婦に任せることにして、今日は寝床に着くことにした。


寝る時に先輩から雑にハンモックを渡された。
これで寝ろだと。まったく夫婦揃って。。。

戸越銀座の話〜その2〜に続く。


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