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"こきょう"のなつ

都心のマンションの部屋、ベランダから晴れた日に富士山が見える。
東西と南に大きな窓があり夜景の綺麗な高層階に暮らしている。
そして私の故郷はこの小さな町。
都心であっても少し歩くと人工の小川の流れる緑道や大きな公園があり思いの外緑は多い。
けれど海や山は1番近くて高尾山や隣県の江の島。どちらも電車で1時間半〜2時間はかかる。

原風景と言える目に焼き付いて離れない光景がある。
母方の祖母の実家が九州のとある県にあって
小さな頃夏休みに遊びに行った事がある。
その時見た海がおそらく私にとって初めての海…
幼かった頃には名前さえ意識しなかったけれど少し大きくなって''芦屋の海"だと分かった。
人口1万人3千人程の小さな海辺の町。
これと言って観光名所もなく、さほど混み合ってもいない静かな海。
長く続く白浜にごつごつした岩場もあるけれど水も透明で綺麗だった記憶がある。
そして数軒の海の家があり…

"ねぇ、寄って行きんしゃいよ?"

と明るく声をかける呼び込みのおばちゃま達。
そして忘れられないのは海に沈む真っ赤な太陽
幼かった私には怖いくらい大きく赤く見えた。

ふとした折に"あしや"と言う地名を聞くと、
関西の高級住宅地の"芦屋市"ではなく、あの
響灘に面した美しい白浜や海に沈みゆく真っ赤な太陽を思い出してしまう…

ああ、そう言えば大学生の時、社会人だった当時の彼と旅行でも行った事がある。
海のない県で生まれ育った彼は珍しがってとても感動していたな…

大好きな冬は遥か遠くに去り、今は春…そしてやがて苦手な夏がやって来る…
大好きな魯迅の『故郷の季節だ♡

海辺の広い緑の砂地が浮かんでいる。
紺碧の空には金色の丸い月がかかっている。 
もともと地上に道はない。
歩く人が多くなればそれが道になるのだ。

テスト対策で早くも"故郷"を取り扱っている。夏は苦手で心配だけれど大好きな"故郷"を何度も繰り返し読む毎日、暗記してしまう程に…
そして愛惜とも郷愁とも違う何とも表現し難い
感情
が胸を締め付け、もう2度と見る事のない白浜と海に沈む太陽に想いを馳せる…

ふと気づくと丸い優しい目が空想に耽る私を見つめている…

"ねぇ、ワンコ君、また江の島行こうか?"

*読んでくださった方、いつもありがとうございます