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ずっとわすれない…

大学4年の晩秋
月曜日の午後、大学の掲示板の前で友人と待ち合わせていた。
金曜の夜から日曜まで実家に帰り月曜には戻って来ると言っていた彼女。
1時間2時間と待っても彼女は来なかった。
何度か携帯にかけてみても出ない…
明らかに普通でない気がして少し胸騒ぎがした。
その夜も翌日も何の連絡もなく大学にも来ていなかった…

そろそろ1週間が過ぎようとした深夜、別の友人から聞かされた

"落ち着いて聞いてね?◯◯ちゃん亡くなったよ…"と。

最初はことばの意味が分からなくて頭が真っ白になった。

"え?どう言う事?私、月曜に待ち合わせしたんだよ…"

…と混乱した頭でやっとことばを絞り出した。
彼女は実家に帰った翌日に亡くなった。
何故亡くなったかは分からないとの事だった。

以前、彼女のひとり暮らしのマンションに遊びに行った事がある。
最寄り駅から徒歩5分の素敵なデザイナーズマンション。
部屋にはピアノが置かれていて天井からは小さなシャンデリアが下がっていた。
そしてとても静かで窓の外の音が全く聞こえない。

"防音なの、夜中でもピアノ弾けるんだよ。"

彼女は何不自由なく育った所謂お嬢さまでピアノはレンタルしたとの事だった。
窓辺のソファに座るとモンブランとコーヒーを出してくれた。
"辛党だけど何故かモンブランだけは好き"と以前1度だけ言ったのを覚えていてくれた。
そんな優しい気遣いに心が温かくなる。
他愛ない話をして笑ったり恋バナをして楽しい時間を共有した。

外資系企業に就職も決まり英会話を習い始めたと言っていた。
そんな彼女がまさか…何故?
毎日泣いた。
心がかさかさに乾燥する位号泣した。

それから2、3年は大好きだったモンブランを食べられなくなった。
私が側にいたところで何も出来ないけれど、もっともっとたくさん話をしたりもっともっと色んな所に一緒に遊びに行ったりしたかったと後悔した。
* * * * *
人は2度亡くなると言う。
1度目は肉体の死。
そして2度目はその人を知る人が全ていなくなった時。
忘れないでいよう、ずっとずっと…
彼女の優しさや一緒に食べたモンブランの味や弾いてくれたピアノのモーツァルトの旋律を。
決して忘れないでいよう。

3年位過ぎてようやく心の中で彼女に語りかけられる様になった。

"ねぇ。Yちゃん、もうだいぶ寒くなってきたよ。"

"もう桜が綺麗だよ。お花見シーズンだね?"

を生きる私はいつも記憶を新しくして彼女の思いを忘れないでいよう…

*読んでくださった方、いつもありがとうございます