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HILL TO HILL プロジェクト始めます。

まずは自己紹介から始めたいと思います。前田景です。アートディレクター、フォトグラファーとしてデザインと写真の仕事をしています。2020年の春に、東京から北海道美瑛町に妻と娘と3人で移住してきました。なぜ東京から移住してきたのか?それがこのプロジェクトの発端になります。

祖父・前田真三と美瑛の丘

僕の祖父は、前田真三という1970〜90年代に大活躍した風景写真家です。50冊以上の写真集を出版し、展覧会を日本全国で開催、企業のカレンダーやポスターでも数多くの写真が使われ、写真家として大きな仕事を成した人でした。しかも40代から商社マンを脱サラしての遅すぎる写真家人生のスタートからの、です。これがいかに超人的なことか、40歳になったいまの僕にはよく分かります。

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祖父の人生は語るべきことが山のようにあるので、追々じっくりと書いていきますが、一旦話を美瑛に戻します。美瑛の丘の風景は、北海道のイメージとしてお馴染みだと思います。どこまでも広がる小麦やジャガイモの雄大な畑。この風景を50年前に発見し、日本全国に写真を通して初めて伝えたのが前田真三なのです。

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いまでは多くの観光客が訪れる美瑛ですが、その観光の礎となったのは前田真三が1987年に開館したフォトギャラリー「拓真館」でした。1990年代にはその人気も絶頂となり、観光バスや車が次々に拓真館を訪れ、最盛期には年間30万人もの人々が訪れる人気スポットとなりました。いち風景写真家のギャラリーがここまでの人を集めるなんて、現在でもなかなか考えられないことです。

忘れられていく前田真三と拓真館

その絶頂期の最中、1998年に前田真三が亡くなります。僕は当時、高校生でした。今でも、あれだけ多くの方々が訪れるお葬式は経験したことがありません。祖父がいかに多くの人に愛され、作品が大きな影響を与えたか、計り知れません。

没後すぐは回顧展や全集の発売などで、また多くの人々に祖父の写真を見てもらったと思います。それでも10年、20年と経つうちに、展覧会も年間に数本に減り、写真集もほとんどが絶版、前田真三の名を聞くこともめっきり少なくなったと思います。

拓真館も同じくして、徐々に来館者が減っていきます。展示内容や販売物もあまり変わらないようになり、いつしか時が止まってしまいました。年間の来場者も5万人を切り、入館料無料ということもあって存続の岐路に立たされています。

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美瑛に移住し、考える一年

2020年春、僕ら家族は拓真館の存続・リニューアルのために美瑛に移住しました。娘はちょうど小学校に入学する春。ここしかないタイミングでした。

世はコロナ禍で全てがストップし、移住してきた僕らも何もできない状況になりました。しかし、まずは北国で暮らすこと、そして美瑛や北海道のことを知るところからのスタートだと思い、この一年さまざまなことにトライし、地元の人と出会い、周辺地域に足を運びました。その中で拓真館のことを気にかけてくれている方々が数多くいることに気付かされました。

そんな思いを結集していけば、きっとこの場所をもう一度素晴らしい場所にできる。そのためには前田真三の思いを継ぐ僕が旗を振らなくてはいけないと。長い冬が終わり、雪が溶け、ようやく一年が経ちました。旗を振る時が来ました。

丘から丘へ

拓真館の存在意義は何だろうと思ったときに、やはりこの丘の風景とは切っても切り離せません。祖父が撮影した美瑛の丘の風景は手つかずの自然ではなく、畑です。自然がつくり出した稀有な地形に、農家さんが長い時間をかけて開墾し、作物を育てることで生まれた風景です。自然と人との共作とも言えるこの風景を祖父は、

類まれな地形と気象条件に恵まれて、この丘はおおらかな田園風景を見せてくれる。先人たちの労苦と今ここに住む人たちの丹精で、この景観は成り立っている。今後、農業の形態の変化によって風景もさまざまに変わっていくことだろう。いずれにせよ、見せるために作られた風景ではなく、生きるための労働がひいては風景を形づくっていくことが重要だ。それがこの丘陵地帯をいつまでも美しい大地として保ち、そこに夢広がる田園風景が存続していける鍵があるのではと思っている。

と記しています。自然あっての、農家さんあっての風景。拓真館は観光だけではなく、そのふたつと手を取り合い、美瑛の丘の美しさを写真を始めとしたアートの力で伝え、残していくのが存在意義なのではないでしょうか。

自然、農業、写真、食、人。それらをつなげ、広げていく場となることが、これからの拓真館の役割です。

まずはその旗を振り、思いを集めることからスタートします。丘から丘へ、その思いがつながっていけば、拓真館も、丘の風景も、次代へとつないでいくことが出来るはずです。HILL TO HILLプロジェクト、この2021年5月早春の美瑛より始動します。

前田景

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Portrait photo by Kentauros Yasunaga




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