「森保JAPAN戦術レポート」を読んで

サッカー観戦において、面白い試合を目撃すれば気分が高揚するように、面白い本に出会える喜びも格別のものだ。たとえそれが、一定の面白さが担保されていると事前に予測できるものだったとしても。

この本の著書で著名な戦術ブロガーでもあるらいかーるとさんのことは、"サッカーの戦術"に興味を持ち始めた2017年ごろから一方的に存じ上げていた。当時、徳島ヴォルティスを率いるリカルド・ロドリゲスの狙いが知りたくて、戦術本や戦術ブログの類を片っ端から読み漁っては、徳島ヴォルティスの試合を繰り返し見ていた。戦術なんて右も左も分からなかった私に、様々なブロガーやライターさんが羅針盤となってくれた。勉強して試合を見てアウトプットする。その一連の流れが最高に楽しかった。もちろん、間違えもたくさんあっただろうし、「アイツわかってねえな」と陰口を叩かれていたこともあったかもしれない笑。でも「自分もサッカーの試合をああいう眼で見られるようになりたい」という強い欲求の前に、そんなことは気にならなかった。

"戦術沼"にのめり込むきっかけの一人であるらいかーるとさんの新著は、事前の期待値を上回る良書だった。
最終的にワールドカップ本大会でドイツ・スペインを撃破し、ベスト16入りを果たす森保ジャパン。うるさ型のファンには、一貫して受けの良くなかったチームだったが、その立ち上がりから終戦までの過程が丁寧に描写されている。

何ができて何ができなかったのか
何が継続されて何が捨てられたのか
どこまでが事前の準備でどこからがアドリブなのか
そもそも、この試合における監督の意図は何だったのか

何より驚かされるのは、図を用いた説明が無くともピッチ上の情景が目に浮かんでくることだ。布陣の変更による嚙み合わせでプレッシングやビルドアップ隊の枚数を合わせるといった全体図から、サイドバックが内側に絞ることでウイングへのパスラインを創出するといった部分的な描写まで、一つ一つの表現が実に巧みである。チームとしてうまくハマった箇所、ハマっていなかった箇所、それに対してどの段階でどのような手当てが施されたかを丁寧に抽出することで、点と点が線で繋がる構図になっている。

「ピッチにすべての答えは落ちている」とは氏の言葉だが、その背景に膨大な知識と目にしてきた試合の数々がストックされていることも忘れてはならないだろう。だからこそ、試合ごとの現象に加えて、サッカーの原理原則に基づいた的確な指摘ができる。[4-3-3]ならここがポイント、5レーンと後方支援隊の意味、各ポジションのタスクにおける適材適所。

よって本書は、日本代表の記録に留まらず、これから開幕を迎えるJリーグの各チームを追いかけるサポーターにとっても大変有意義なものとなっている。配置のかみ合わせ論、プレッシング開始地点の設定によるチームの狙い、人を替えることがもたらす意味。これらはJリーグの試合においても、同じ情景が必ず出てくるはずだ。試合を見返さなくても、それらの意味が頭に入るようになっている。巧みな表現の数々によって。

Jリーグの開幕を目前に控え、何かリハビリが必要と考えていた身にとって、大いに刺激を与えてくれる本だった。1つのチームを追いかけてその文脈を理解していく楽しさや、サッカーの奥深さを本書は教えてくれる。誰もがすぐにらいかーるとさんになれる訳ではないけれど、少しずつ近づくことはできる。みんなで試合を見て、あーだこーだと語り合う。そんな楽しい毎日が戻ってくる前に読む本として、本書は最適である。おススメ!


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