2020年5月27日(水)

たっぷり眠ったので身体の疲れは少しほぐれている。今日一日で大阪の住居を決めなくてはいけない。3キロほどだったので、ホテルから京橋駅の不動産屋まで歩いて向かうことにした。途中で「まん福ベーカリー」に寄って、ピロシキとつぶあんぱんを買う。コロッケパンも焼きそばパンも美味しそう。幸せな香りに包まれているこのお店のことがすっかり気に入ってしまい、大阪に滞在してからもう4〜5回は訪れている。夜の23時まで営業しているというのが、たまらなくいい。そんな時間にパン屋に行くことはそうそうないだろうけども、夜中にパン屋の明かりが灯っているところを想うだけで、少し力が湧いてくるような気がするのだ。そんなことを考えながら、パンを頬張り歩いた。もうすっかり汗ばむ気候だ。

社交性ポイントがゼロになっているので不動産屋に入店するのも緊張してしまう。不動産屋というのはわりと濃密なコミュニケーションをとらないといけないので気が重い。大塚製薬の自販機でジャワティのペットボトルを買って一口飲み、入店する。事前に電話でやりとりしていく中で不信感を覚えていた担当が急遽外れることになり、異様にコミュニケーション力の高いAさんがこの日の担当になった。前任者とは打って変わってヒアリングを元に色々と提案してくれて、実に頼もしい。しかも、この人は2年前にわたしの隣の席の巨漢の先輩の家探しも担当したのだという。なんという偶然。

車に乗せてもらい玉造、谷町6丁目、北浜、南森町の物件をいくつか回った。車内でもコミュ力の高いAさんが会話の主導権を握ってくれるので助かる。何を話したのかはあんまり覚えていないのだけど、Aさんがいきなり「京アニの犯人って死んでなかったんですね」と言ったのだけは妙に覚えている。嫌な気持ちになったとかではないのだけど、その一言で車内の磁場がグニャリと変わったような感覚が印象的だった。

街の雰囲気はどこも気に入ったので、もう単純に部屋の広さで決めてしまった。うっすらと閉所恐怖症なので壁の圧迫感が強い空間が苦手なのだ。わたしが大阪の生活を始める地は、北浜であります。北浜は大阪取引所を中心とした金融街。少彦名神社という医薬にゆかりのある祭神を祀った神社もあるため、製薬会社の営業所も多く立ち並んでいる。ようは硬派なビジネス街で、東京でいうと日本橋あたりのイメージだろうか。生活を営むような場所ではないとも思ったのだけど、意外と悪くないでのはないかという気もしている。

北浜は街並みの雰囲気がとてもいい。太平洋戦争での空襲被害が少なかったためレトロな建造物が今でも多く立ち並んでいる。また「水の都」とも呼ばれるリバーサイドの景観も悪くないのだ。そして、なにより素敵な飲食店がとにかくたくさんある。特にカレー、カフェ、喫茶店の質の高さは都内でも匹敵するエリアは少ないのではないだろうか。それに現在のホテル暮らしを慰めてくれている「FOLK old book store」も「まん福ベーカリー」も「スタンド プチ」も北浜にあるのだ。ちょっと前まではスーパーがなく不便だったようだが、最近は夜の1時まで営業している「ライフ」ができた。「ライフ」なら東京でも馴染み深いスーパーなので安心だ。「スーパー玉出」はわたしにはまだ早い。南森町から天満にかけての商店街が歩いて行ける距離なのもうれしい。

これはきっと楽しくなるぞと思いつつも、住む家が決まり、本当にこの見知らぬ大阪の街で1人ぼっちで暮らしていくのだな…と思うととてつもない不安に襲われる。お腹がギュルギュルと音を立てている。声にならないので、胃腸が叫びたがっているのだろう。息苦しささえ覚えたので、気持ちを落ち着かせようと喫茶店に入り、アイスコーヒーとたまごサンドを注文する。

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おそろしくフワフワのたまごサンドが尖った神経をほぐしていく。とても美味しい。たまごサンドの付け合わせがゆで卵なのには驚いたけども、このお店も気に入ってしまった。これから何度もこの店に足を運び、「わたしの生活はここから始まったのだ」と思い返すことになるだろう。iPhoneで中村一義を聞きながら、新居の回りを散策してみる。

先日ひさしぶりにMVを観たら、すっかり郷愁に駆られてしまい初期のアルバム何枚かを聞き直している。アルバムに未収録のシングル「主題歌」に、今でも10代の頃と同じように励まされてしまう。

笑えるように、笑えるように、にじり寄んだっ!
それは、絶対、余裕じゃない。だから、止めないんだ。
青の時代を延々と行くのも、また一興だ。
成功と失敗、全部が、絶対、無駄じゃない。
もう、全然すぐれないような日々も。
絶対、ウソじゃない。千年後の僕も僕だ。
絶対、アセらない。万年前の君も君だ。

実際さ、これは、のんびりもんの主題歌なんだ。

少し泣きそうになりながら、ズンズンと歩いた。

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