京都市行財政改革計画(案)への意見

京都市行財政改革計画(案)についての意見

1. Ⅰ 行財政改革計画について
「Ⅰ 行財政改革計画について」に関する御意見を入力してください。」 
本計画は「公債償還基金の枯渇を回避するとともに、基金の計画外の取り崩しからの脱却の道筋を示すために策定するもの」であると記載されています。
そもそも地方自治体の運営計画は(予算も含めて)地方自治の本旨の基づき、主権を持つ国民が在住する地方自治体の主人公としてその運営に参加し、その福利を享受することが目的であると言えます。
したがって、そのことを前提に置かない今回の提案は、そもそも地方自治体の財政の収支合わせのみを目的とした「計画」であり、そのことでどのような都市づくりをすすめていくのかについて、当該自治体に居住する住民(以後「住民」と記載する)の福利の享受といった視点での財政分析・過去の累積欠損の原因・現状の住民の生活実態を踏まえた財政のありかた・地方自治法が想定している国とは相対的に独立した地方自治体としての主体的な財政論など、議論すべき点がたくさんあると考えます。
こうした論点について、更なる言及が必要であると受け止めました。

2. Ⅱ 本市財政の現状と今後の財政収支の試算
「Ⅱ 本市財政の現状と今後の財政収支の試算」に関する御意見を入力してください。」
記載されている数値については、検証するすべが私たち住民にはないため、言及が困難です(情報の非対称性が著しいため)。
本計画では、財政収支が「本市の独自性が強い施策の経費」として1460億円を示し、それに対応する歳入が236億円不足している旨の表グラフを提示していますが、この記述は後述する「市独自事業」の削減に導くための論点の提示の仕方であるため、ここでは立ち入らず、提示されている論点に沿って、発言します。
(1)国からの地方交付税の減による一般財源収入の伸び悩み
これは全国で起こっていることで、各地方自治体の住民福祉の向上の最大の足かせになっています。地方自治体の独自努力で税収が増加したことで地方交付税を減額するという「制度」は、「何か+αの事業をするなら、地方は税収以外に自分で稼げ」という、国の責任を後景に追いやる最悪のルールであると考えます。京都市146万人住民の福利のためには、ここへのアプローチが最大の「課題」になります。
同じ思いの地方自治体が手を結び、住民とその意思を伝える国会議員との共同で、国の制度を変えていくことを戦略的にすすめていくことが、財政再建計画の太い軸になると思います。
(2)社会福祉関連経費の増加
少子高齢化の進展、経済の低迷の中での子育て世代・若者世代を筆頭にした経済的貧困層の増加など、社会福祉経費が増加する要素は確実に存在します。地方自治体の役割は住民福祉の充実という視点からみたとき、冒頭に書かれた「社会福祉制度の充実」はこの十年をふりかえっても、費用負担の方が多くなっているのが住民の実感です。とりわけ京都市は中小企業や自営業が多いため、経済の低迷の影響を受け、収入が減少している住民が少なくありません。
そうしたとき、増える社会福祉費用をどのように賄うのか、といった視点で見ることが、住民福祉の充実のための地方自治財政の立て直し方針としては堅持すべき内容であると考えます。少なくとも「社会福祉関連経費の増加の抑制を図る必要」はありません。それは住民の命とくらしを直撃することに繋がるからです。
(3)国基準や他都市を上回る歳出(支出)水準
➀独自施策の維持・充実
「制度発足時の積算や考え方を踏襲し、サービス水準を守り続けてきた」ため、財政を圧迫してきたとのことですが、発足時の「考え方」とはどういうもので、それは現在否定されるべきものなのでしょうか。
社会経済情勢は常に変化しており、そこへの対応が遅れたとのことですが、ここで大事なのは「遅れた」から今から削減するのではなく、どういう判断でその事業を行ったのか、現在大切にすべきことは何か、変えるべきは何か、を明確にすることのはずです。そして独自施策をしないという方針を持つのであれば、過去(たとえば「子育て環境日本一」など)からの方針転換であることを明確に宣言すべきであると考えます。
➁他都市平均と比較して多い人件費
他都市との比較で人件費が多いとの指摘ですが、民間でも人件費分析をする場合は、年度別採用数(正規雇用、再任用、期間任用別)・年齢別(一般職・専門職・幹部職)構成比・人事処遇制度など、多面的に分析して、どの部分が市民生活を支えていく上で必要なのか、重い負担になっているのかを判断することになります。また公務労働は、市民生活を支える上で不可欠なものですから、単純な公務員削減論は本当に変えないといけない問題を浮き彫りにできません。削減することだけを「良し」とする議論に誘因するような提起はしてはいけないと考えます。
➂他都市と比べて重い公債費負担
ここではどうして公債費負担が大きくなったのかについての原因が、地下鉄事業への財政支援しか述べられていません。公費負債はあってはいけないのではなくて、将来の都市インフラの整備に必要な投資だったのか、金額は適切であったのか、支出プロセスは適切であったのか、などに沿って分析する必要があります。これ以上増やせないという結論だけを記述したのでは、議論になりません。

3. Ⅲ 持続可能な行財政への道筋
「Ⅲ 持続可能な行財政への道筋」に関する御意見を入力してください。」
行財政改革なので、ポイントは2点あると考えます。
一つは「将来の市民に対して、どのような京都市を残すのか」、二つ目は「そのために数年後にはどのような行政内容をどの程度の収支で実現するのか」、これが市民目線での「行財政改革」の視点となると思います。
本計画では、「公債償還基金残高の必達目標」を最上位に、それを実現するための「歳出上限の設定」、そして「税収の増加」「公債費の低減」が提起されています。ここではあるべき京都市の姿が明確に描かれることなく(あるとすれば「市民が受けるサービスの水準を市民負担の水準を均衡させることが原則」ぐらい)、事実上「公費償還基金残高の必達目標」実現のために、全ての数値指標が規定されるという論建てになっています。
現在市議会でも各会派から様々な意見が出されています。「赤字構造のそもそもの原因について突っ込んだ議論がされていない(賛成!)」「公費償還基金残高を減らさないことを理由に、市民負担が強調されている(賛成!)」など、そもそも本計画の前提である、なぜ収支バランスを欠いた状態で推移してきたのか、収支バランだけでなくどのような京都市を目指すのか、といった普通の企業再建計画であれば、最も重要なポイントが本計画案には、市民・住民レベルで「納得・共感」できるもの(間違っても「説得」ではありません)にはなっていません。このことが市議会での議論で露呈したのだと思います。
また後述される「行財政改革の取り組み」は、ここで提起された「持続可能な行財政への道筋」に沿って記述されているため、いよいよ結論ありきの議論と言わざるを得ません。

4. Ⅳ 行財政改革の取組
「行財政改革 1」に関する御意見を入力してください。」
「民間活力の最大限の活用」では“民間”概念が混在しているため、議論を整理する必要があります。
本来住民福祉の向上という観点からは、地方公共団体が行うべき事業と、他者に任せることが住民福祉につながる事業を、きちんと峻別する必要があります。民間といっても、個人事業主(フリーランス含む)、行政区内の中小業者、NPO等非営利法人、県境をまたぐ営利企業など、様々な主体があり、事業の内容に応じて任せること、任せてはいけないことも明確にする必要があります。
また指定管理者制度は、そもそも施設の管理を民間に委託することで効率的な運営を行うことを目的としています。現在、福祉・子育て分野など人の成長や生活に関わるエセンシャルワークを含む施設にも適用されていますが、5年間の事業評価・見直しなど、働く職員の継続性を担保できない問題をはらんでいるため、すべての事業には適用できないことも改めて指摘しておきたいと思います。
本計画には「受益者負担主義」や「受益と負担のバランス」という言葉が多用されています。しかし地方自治体が住民福祉のために法律に基づいて実施している事業は、個人にとっての“益(=利益)”なのでしょうか。
資本主義社会は、自分の利益になる商品やサービスは対価を払って購入するものという価値観を前提にしていますが、これは社会の全てのセクターの共通の価値観ではありません。一人ひとりを大切にする社会構造の進展の中で、人が生きていく上で必要な行為(医療や教育、福祉など)が社会化され、その費用を税金という形で地方自治体に納め、地方自治の本旨(住民自治と団体自治)にのっとり、運用していくのが、戦後の地方行政の事業のありかたです。この営みに関して「収支バランスをどうとるのか」という視点だけの「受益」論は、「サービスを受けたければお金を払え(お金がないものはサービスを放棄せよ)」という考え方と同一線上にあります。
地方自治体の収支は「サービスの売り買いではない」・・・ここの発想を転換させないままの「収支合わせは」不幸しかもたらさないことを指摘しておきます。

「行財政改革 2」に関する御意見を入力してください。」
投資的経費は構成内容をすべて市議会に明らかにし、聖域なく見直すことが必要です。
「行財政改革1」では詳細に項目立てされていましたが、「行財政改革2」は、老朽化対策やライフサイクルコストの指摘しかありません。
ここでは記述されていませんが、国や広域レベルの事業で不要不急なものも洗いざらい記述していただきたいと思います。北陸新幹線やリニア新幹線の京都ルートなどは、安全性や効果性の点で批判も多いため、行財政再建計画案の中からは、決して入っていないと思いますが、こうしたものも含めてすべて議論の俎上に上げることが必要です。

「行財政改革 3」に関する御意見を入力してください。」
公共施設のマネジメントについては「民間移管・存廃や必要な機能に応じた施設のあり方」を検討する際は、利用者・運営者・近隣住民などのステークホルダーの意見をよく聞き、市議会にて理を尽くして検討されることを希望します。
「資産の積極的かつ戦略的活用」については、市の財産は市のバランスシート上の「資産」という視点だけでなく、その地域で果たしてきた役割や地域での金銭換算できない価値にも目を向け、地方自治の本旨(住民自治と団体自治)に則って、戦略的に活用をすることを方針としていただきたいと思います。その戦略とは「地域住民の主体性が育まれ、地域生活がいかに豊かなものになるか」という視点であると考えます。住民自身が施設の活用に主体的に関わることで、収益性も考慮した活用が進むことが望まれます。
昨今、市保有の土地を売却し、市外の資本によるホテル建設などの事例が散見されますが、一時の売却益と建設需要に目を奪われることなく、市民の財産として活用し、収益を生む知恵を集めることが、公共施設のマネジメントとして必要だと考えます。

「行財政改革 4」に関する御意見を入力してください。」
公営企業については、京都市バスのこの間の取り組みが教訓的です。市バス職員さんが知恵を出し、利用回復のための努力を積み重ねることで、(インバウンドの影響もあり)経営改善が進んできたことは多くの市民が知っています。
公営企業は、所属する職員がビジョンを共有し、知恵を出し合いながら、一歩一歩我がこととして経営改革を進めていくことなしに、未来はないことを教えています。他の事業についても、事業単位ごとに、今在籍されている職員の知恵と力を集めることで、経営の改善に努めていただくことが、全ての部署にとって必要であると考えます。
国保会計は、住民の生活に直結します。これはそもそも国の公費負担が削られてきたことで、市民生活が立ち行かなくなり、各地方自治体が補填をせざるを得ない状態に追い込まれたことが、最大の原因であると考えます。全ての事業を地方自治体で賄うことはできません。市議会が一丸となって、国保への公費支出の増額を求めることを方針化することを是非実行してください。

「行財政改革 5」に関する御意見を入力してください。」
職員の削減は、本計画を進めていく上で、重要な提起です。それは先にも指摘した通り、本計画を進める主体は、地域住民とビジョンを共有し、よりよい京都市を創ろうという思いと、そのための実務能力を持った職員集団であるからです。
一方で明確に人件費の削減が提起されているわけですから、労働組合との誠実な協議はもちろんのこと、あらゆる不当労働行為が行われないよう、労働法規に基づいた対応が求められます。

5. V 都市の成長戦略
「V 都市の成長戦略」に関する意見を入力してください。」
「都市の成長戦略」という言葉が示すとおり、ここでは地方自治体の収支改善バランスが改善し「稼ぐ京都市」になるための項目が列挙してあります。しかし、地方自治体は「稼ぐ」主体なのでしょうか。「稼いで収支バランスをとる」ことが大戦略になるのでしょうか。
地方自治体であっても、域内の経済を循環させ、収入と支出のバランスをとり、すべての市民がささやかな生活を全うすることができる自治体経営を行うことは必要です。しかし本計画からは、そんな京都市の姿はみえてきません。
5つの都市デザインは、21世紀の中盤にかけて、社会全体ですすんでいく変化を列挙したものですが、それが市民の日常生活にどう関連し、「全ての」市民が豊かさと幸せを感じることができるのか、というデザインが描かれていないと感じます。
とりわけ「全ての」という言葉でご留意いただきたいのは、現象的に金銭を「稼ぐ」ことが難しい人たちが、成長戦略の中で取り残されないようなビジョンを、社会で共有することが大切と考えるからです。
地方自治体は「稼ぐ」主体ではなく、住民の福祉の向上を実現する主体です。若い世代は、京都という地域で出会った人たちに育まれ、そこから地域への関わりや役立ちを実感することも多いです。彼らは身近で感じた「問題」を解決するために、起業したり、様々な活動に関わることも多く、こうした人材が、世界の問題解決に目を向けるとき、彼らを育んだ京都という土地が、その価値を輝かせることは間違いありません。
彼らは見ています。京都市という地方自治体が、僕らがお世話になった地域の人々を本当に大切にしているか。お金がなければ行政「サービス」を受けられない都市で本当に住みたいと思うかどうかということを。
京都の人々は、どんな時代でも人とひとのつながりを大切にし、地域で生活を支え合ってきました。包み隠しなく正しく情報を知ることができるなら、京都市民は京都市の再生の主人公になることができる、私はそう考えます。
ですから、顔の見えない「資本」が投資し、利益を京都「外」へ持ち出すことを想起させる20世紀発想の5つの都市デザインではなく、新しい時代を担う若者と彼らを受け入れる市民の協働で、5つのデザインがこの地で花開くようなビジョンを描きたいと思うのです。

6. Ⅵ 改革の推進体制
「Ⅵ 改革の推進体制」に関する御意見を入力してください。」
本計画はビジョンとゴールイメージを再構築する必要があると考えますので、推進体制については意見保留となります。なお、この計画で進むようなことがあれば、地方自治の本旨に沿わない考え方が多いため、地方自治体の首長がこの計画を推進することはふさわしくないと考えます。

7.その他(上記以外)
「その他(上記以外)の御意見があれば入力してください。」

【資料】地方自治の本旨について
地方自治の本旨とは、「住民自治」と「団体自治」との両方を含む意味である。住民自治 とは、その地域における統治は中央政府機関によることなく、その地域の住民自身によって行われることである。団体自治とは、国という1つのまとまりのある領土内において、 一定の地域を基礎とする団体が、その地域内の公共事務をみずからの意思にもとづいて処理することである。この場合、国から多少とも独立した人格を有することが必要である。 このうち、基本的には「住民自治」が狭義の地方自治に該当する。住民の意思にもとづく という原理(住民自治)は、国とは別人格の統治団体が公共事務を行うという手段(団体 自治)を要請する。地方自治の本旨にもとづくということは、この理想に添うように、と いう意味である。もちろん、地方自治も、国の統治体制の下に存在しうるのであるから、 地方自治団体が国から独立しているわけではなく、それは相対的なものである。

【資料】日本国憲法
主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する


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