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一生無料のe-signが、一生無料な理由 -誕生の経緯と想い-

この記事を通して、たくさんの方に想いを綴らせていただいた、電子契約サービスe-signですが、xID社の公式サイトでもお知らせさせていただきました通り、2023年6月30日(金)をもって、提供を終了することになりました。
e-signの提供を開始した2020年4月当時を振り返ると、新型コロナウィルスの蔓延が始まる中、新しい生活様式、そしてリモートワークへの急激な社会の変化に対応せんとさまざまなデジタルサービスが誕生しました。
電子契約への関心が高まる中、誰もがその恩恵を受けられるようにとe-signの完全無料での提供を意思決定しましたが、現在ではさまざまな電子契約サービスの普及が進み、わずか3年ほどで一般化しつつあります。
また、当時まだ交付率も10%台だったマイナンバーカードの利活用のユースケースを示す一つの事例としても、e-signの存在は意味のあるものになると考えていましたが、2023年2月末時点でマイナンバーカード交付率も63.5%を超え、いよいよ運転免許証同様の社会基盤となり、電子申請や確定申告などさまざまな利用シーンが出てきたことも受け、e-signの社会的役割も一定程度終えたと考えています。
xID社としても今後は経営資源をより一層、マイナンバーカードに特化したデジタルIDソリューション「xID」に集中させ、xIDアプリや開発者向けAPIをこれまで以上に便利なものにアップデートしていきたいと考えています。
e-signの取り組みを応援いただき、またご利用、ご支援いただいた皆さまには大変心苦しい発表となってしまい申し訳ありません。
サービス開始から多くのお客様のご愛顧をいただき、誠にありがとうございました。
今後ともxIDをご愛顧賜りますようよろしくお願いいたします。

サービス終了に伴う詳細については、下記コーポレートサイトをご覧いただけましたら幸いです。
https://xid.inc/news/81

xID株式会社 代表取締役CEO 日下 光






みなさんこんにちは。xIDの代表の日下です。

今回、一生無料の電子契約サービス"e-sign"をリリースするにあたって、サービスに込めた想い、そして完全無料のワケをお伝えしようと思い、慣れないながらも筆をとりました。

また先日こんなツイートをしたところ、予想以上に反響が大きく、事前登録も1000件を超えましたので、きちんと誕生の経緯もお伝えしたいなと思います。

特にtwitterでもいくつか出ていた、「タダより怖いものはない。」「マネタイズはどうなっている?」という無料が故の不安や疑問に対してもきちんと答えていきたいと考えています。

もちろん、事業を進めていく中で、少しずつ社会に理解されていくというやり方もあるんだと思いますが、せっかくe-signを応援してくださっている方々のためにも、不要な不安要素や疑心暗鬼をなくすために、一つ一つこれまでの経緯も含めて書いていきたいと思います。

そもそも電子契約e-sign(eサイン)って?

e-signは、4月下旬に公開予定の完全無料の電子契約サービスです。デジタル身分証アプリxIDを使って、スマートフォンやPC端末から、ファイルをアップロードし、誰でも無料で電子署名をすることができます。
個人も法人も関係なく、契約締結数の制限もありません。期間の定めもなく、一生無料です。

無料にしようと決めた想いと誕生の経緯

僕たちが拠点を構える北欧に位置するエストニア共和国は、近年電子国家などと称され一部の業界では非常に有名です。

エストニアでは99%の行政サービスがオンライン化されており、国民のほぼ全員が日本のマイナンバーカードにあたるe-IDカードを保有しています。
e-IDカードを中心に、国民にとって利便性が高く、透明性のあるデジタル社会の構築が2002年からスタートし、実現しています。

2017年から現地に移住した僕自身、このe-IDカードによる利便性を実体験してきました。日常生活のあらゆるシーン、オンラインバンクへのログイン、医療機関の受診、公共交通機関の無料乗車など、行政サービスだけでなく民間サービスでも使われる国家インフラなのです。

その中でも一番最初に体験したのが、このe-IDカードによる電子契約です。
日本での捺印による契約の面倒さと煩雑さを痛感していたからこそ余計に、専用の電子契約サービス「Digidoc(デジドック)」に契約書ファイルアップロードして、e-IDカードで電子署名するだけ。という極めてシンプルなプロセスに衝撃を受けました。そしてこの電子契約サービスDigidoc、なんと完全無料で使えるんです。

2部印刷して捺印することも、製本して割印する必要も、返送したりする必要もありません。

e-IDカードさえ持っていれば国民の誰もが、賃貸契約、売買契約、雇用契約、融資契約などなど、あらゆる契約において無料で使えます。
実際、僕自身も大家さんとの賃貸契約は内見をした後、メールでやりとりしてe-IDを使ってDigidocで電子契約をしました。
電子契約という存在が、契約社会におけるインフラになっている。と実感した瞬間でした。

そんな体験をしていたにも関わらず、実はこのプロジェクトを本格的に始動させていた昨年2019年の夏、経営チームの間ではまだSaaSモデルとして有料で電子契約サービスを日本で展開しようという話も出ていました。まるでタイムマシン戦略ですね。

しかしそこで改めて、自分たちが何を優先すべきか?なんのためにこのe-signを提供すべきなのかを整理しました。

・電子契約がエストニアで当たり前に使われる背景には、e-IDカード(デジタルID)の普及が重要な要素としてあるので、まずはデジタルIDの普及こそが重要。
・日本ではすでに電子契約サービスがいくつかあり、有料にしてパイを取り合うよりも、社会全体として電子契約そのものをスタンダードにすることを優先するべき(最終的には相互運用性も必要だと思っている)
・xIDのコアコンピタンスはデジタルIDアプリなので、あくまでデジタルIDアプリ普及最大化のためのビジネスモデルを描く。

そこで僕たちは、e-signを無料で提供することで、デジタルIDの利便性を一人でも多くの人に早期に知っていただく。それによってデジタルIDの「鶏が先か、卵が先か問題」を解決するきっかけになると考えたのです。

どうやってマネタイズするの?

「一生無料凄い!」という反響と合わせて、
一部ではありますが、「無料には絶対裏がある。」「タダより怖いものはない」「契約書データを使った広告モデルだ」「いずれ有料の上位プランを作る」そんな声も聞こえてきました。

せっかく無料にするという大きな決断をしてもビジネスモデルを誤解されてしまい不安がらせてしまうことで一人でも多くの方に使っていただけないのでは意味がありません。

まずははっきりとここに明言したいと思います。
・契約書データを使った広告モデルはやりません
・広告は一切掲出しません 
・有料プランによるアップセルもしません 
 ・マイナンバーを収集・保管して悪用することもありません

とはいえビジネスモデル自体が明らかにならなければ、もやもやするという方もいらっしゃると思いますので、今回はxID社のビジネスモデルについて簡単に説明したいと思います。

まず、僕たちが最も力を入れているソリューション。それはデジタル身分証アプリのxID(クロスID)です。xIDは、マイナンバーカードをスマホにタッチするだけで手軽に本人認証ができるデジタル身分証アプリです。

xIDの登録自体は数分で完結するもので、マイナンバーカードをかざして公的個人認証を実施し、2つの暗証番号を設定するだけ。複雑なパスワードを覚えたり、名前や住所などの個人情報を入力する必要はありません。

マイナンバーカードがない方はメール認証だけでもお使いいただけますが、マイナンバーカードで認証したxIDを使うことでe-signではより確実にお互いに本人性を担保した電子署名が可能です

ちなみに、twitter上でもいくつか疑問の声があったマイナンバー(個人番号)の利用についてですが、xIDで使うのはマイナンバーカードの電子証明書による公的個人認証であり、マイナンバー(個人番号)を弊社のサーバーに収集したり保存したりは一切しませんので安心していただければと思います。
(2020年4月現在、そもそも民間企業によるマイナンバーの収集、保管は番号法で制限されています。)


本題のビジネスモデルについて

さて、ようやく僕たちのビジネスモデルについてです。
僕たちのビジネスモデルはこのデジタル身分証アプリxIDのAPIライセンスによる収益モデルです。

xIDは様々なサービスのログイン、本人確認、電子署名機能として組み込むことができ、そのAPI課金による民間企業および自治体からの事業収益こそがxIDのビジネスモデルとなっています。

つまりe-signは、xID APIが組み込まれた、xID社が直接提供するxIDの最初の導入サービス事例ということになります。

先にも述べた通り、e-signをxIDと同時に提供することで早期にデジタルIDの利便性をより多くの人に知ってもらうこと。
デジタルIDを持つメリットを感じていただくことでxIDユーザーの最大化を図ることが僕たちがe-signを無料にした狙いです。

xID APIはすでにいくつかの自治体や民間サービスでの導入が決まっています。
例えば、石川県加賀市とはxIDを活用した行政サービスのデジタル化を進めています。

加賀市における行政サービスのデジタル化に向けた協定を締結し、エストニアで既に実用化されているデジタルID並びにブロックチェーン技術を活用した「行政サービスのデジタル化推進」に向けて協業することに合意しました。
中略
プロジェクトの推進にあたっては、デジタルIDカードであるマイナンバーカードに加え、xID社が開発・提供するデジタルIDアプリを連携することで、加賀市における行政手続きのデジタル化を目指します。

業務提携をさせていただているスカラグループ(東証1部:4845)さんのサイトでは、
e-signの立ち位置をこのようにわかりやすく表現してくれています。

当社はこれまで国内大手企業を中心にデジタル化支援を行ってまいりましたが、更なる成長に向け国内外の民間・行政へ事業領域を広げるプロジェクトを進めております。e-signのリリースは本プロジェクトに先駆けた位置付けです。
中略
e-signでは、署名の際にxID(クロスID:マイナンバーカードをスマホにタッチするだけで手軽に本人認証ができるデジタル身分証アプリ。4月下旬リリース予定)と連動させることで、その相補性をデザインしました。「契約書にハンコをもらう文化」に変化が求められる現代。まずはe-signを完全無料提供。社会のインフラとして定着させ、同時にその他のあらゆる手続きもデジタル化を推進していく計画です。

xIDは何を実現しようとしているのか?

弊社のミッションは「信用コストの低いデジタル社会を実現する」です。

お互いを信用するために(あるいは疑うために)、かかる時間やお金、それが信用コストです。信用コストを下げ、本来の業務に集中することが可能になる社会システムに変えることで無駄なコストをなくし、新しいビジネスチャンスを産み、多様な生き方、働き方ができる。

僕がエストニアで目の当たりにしたのはそんな社会です。
行政サービスの99%オンライン化、官民のデータ活用による社会づくりが実現している電子国家です。

国家基盤にブロックチェーンの要素技術を活用し、透明性の高いデジタル社会のインフラが既に浸透し国民に支持されている。そこではブロックチェーンだけでなくデジタルIDこそがデジタル社会の重要な基盤として活用されることで、人々の生活をより豊かなものにしていました。

もちろんエストニアでやられてきたことの全てが日本で受け入れられるとは思っていませんし、そうする必要もありません。
しかし、今まさに僕たちはこの日本でもデジタルIDが必要だと考えています。

日本と同じく緊急事態宣言が発令されているエストニアでは、前述した社会インフラのおかげで、家を一歩も出ることなく行政サービスを受けることができます。
医療カルテもデジタル化され、デジタルIDでオンライン上で医師も患者もでアクセスできます。処方箋もデジタル化され、デジタルIDに紐づいています。

今、社会のデジタルシフトは、生命を守るためという新しい目的を帯びて急速に進めることが求められていると考えています。

僕たちはパブリックマインド(公共の精神)を持った民間企業として、同じ志を持つパートナー企業と、誰もが心地よいほど便利と思えるデジタル社会を、共に創っていきます。
e-signはその第一歩です。

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