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初めに

マスタリングについての記録をしていきます。
私はマスタリングを独学で学び始めました。
多くの方の助けと支えにより学びを深めることが出来ましたが、誰かの弟子となり、流派を継承するようなことはありませんでした。

一流のスタジオという知識と体験が堆積する場で学ぶことはとても重要で、他では得られないものがたくさんあると思います。
でも私には縁がありませんでした。
ですので私は私の求める音の景色を見出すための技術を見つける道を歩み始め、今まだその半ばにいます。

レコーディング、ミキシング、マスタリングというそれぞれの工程を、自分なりに死力を尽くしてやってきました。
どの工程も巨額のお金がなければ本物の音を実感することができないもので、私は恵まれたことにその一端を実感する機会を得ました。
しかし本当にキリがありませんので、今はデジタルの領域で、本当に必要なものをどのように動かせば理想のものとなるのかを追求しています。

レコーディングについては、零細ながら音響設計と録音設備が充実した個人スタジオに身を置きながら、実感を重ねました。
ミキシングについては、教えることに通じた人と出会うことがありませんでしたので、先達のエンジニアの音とやり方をみて学びました。
でもその当時の私は、今のように音と感情を結びつける肌感覚がなかったので、形ばかり覚えることは出来ても、重要なことはあまり学べませんでした。

それから一人でミキシングの勉強をし、感じながら試しました。
同じ頃にマスタリングをやりはじめました。
マスタリングについては、スタジオでは外注一択だったので、なんの姿も見ることが出来ませんでした。
マスタリングというものがあるのか〜、というレベルでした。

どうしてミキシングが完了したステレオトラックをいじることで、ボーカルが聞こえやすくなったり、ギターがかっこよくなったりするのかが理解できませんでした。
そこからのスタートでした。
マスタリングをするという世界の中では、致命的な状態と環境でしたが、幸いインターネットが私にはありました。
インターネットがなければ即死でしたが、なんとか調べたものを繋ぎ合わせて、試し、本物では無いものは捨て、私が欲しいものだけを選んでいきました。
インターネットに点在するノウハウは、確信を突くものもありますが、多くは本物の真実からは遠い薄味のものでした。

方法論だけ真似ても、音の感情を読み取り必要なことを采配する技術は身につきませんでした。

それからは覚えてませんが色々やりました。
アナログのマスタリングにチャレンジをしたのも大きかったです。
でも1機器につき30万円のクラスの環境では、私の求める音は見つかりませんでした。
機器の選定、私の技術と感覚不足は大いにあるとおもいます。
求める音も手に入らないので、環境を続けられる経済事情ではなくなったことを機に、アナログマスタリングをやめました。
中途半端な資本では私の描く音は手に入らないことを、260万円かけて学びました。
高いか安いかよりもその事実を自分の成長にどう行かすかを考えました。

アナログをいじることはとても根気がいることで、粘り強さや忍耐強さが身につきました。
苦行のような時間だったとも言えます。
また、アナログは音の変動があるため、感覚が鋭くなりました。今日はこうか、とか、前のテイクの音にならないのはどうしてだ、とか。
時間がとてもかかりました。
いい勉強にはなりましたが、仕事としては利益とのバランスが悪すぎました。
もっとそういったことに手間を書けないように整える必要がありましたが、それには設備を投資する必要がありました。

ですので、私は得られたものを軸に、もう一度求める音の実現方法を探しました。
そして今のデジタル完結のスタイルに行き着きました。

アナログの難点は、コンバーターによる音の変形です。35万円のマスタリングコンバーター(LYNX HILO)をつかっていますが、それでもまったく変形がない入出力はできません。
低域の下限が切れたり、トランジェントがなまったりします。
そういうのは嫌になりました。

デジタルではそのような事はだいぶ抑えられます。
デジタルも万能ではありませんので、再起動したら音は変わるし、デスクトップの画像で音は変わるし、USBに差しているものでも音が変わるほど繊細です。
リコールが完全リコールだと思っていると、求める音にはいきつけませんでした。
音楽が生物のように、デジタルもまた生物だったのです。

それでもデジタルは、トランジェントのコントロールが正確にでき、描いた音をそのまま最後まで持っていくことができる点で、よかったのです。それに必要な資本も安くて済みます。

デジタルの難点は、景色を大きく変えることができないということです。音の色や音量カーブの角度をガラッと変えることがそもそも難しいのです。
アナログは機器の音によって色濃く塗り替えることができます。大きくカーブを変化させることも自然にできます。

デジタルのプロセッサーは、音の変動がないため、いつも同じ音がします。
組み合わせを変えても、アナログに比べたら微々たるものです。プログラムされた音の形しかでてきません。
アルバムのマスタリングで同じマスタープラグインをつかっていると、全曲の毛色が同じになります。中身が変わっても外装のラベルが同じなので、違いがわからなくなります。
それはできるだけ避けなければなりません。

ですので、同じ音が出てくるものを、何に対してどのように使うのかを鋭く明確にすることを磨く必要がありました。

私のマスタリングはいまその道半ばにあります。

このブログでは、マスタリングの手法についての記録を通じて、私の求める音の発掘をしていきたいと思います。

マスタリングは1曲4,800円でご依頼を受けております。
ご興味がありましたら、ご連絡ください。

atelier@hikariharai.com

お読み下さりありがとうございます。

いとうたかし

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