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【書評】恥知らずのパープルヘイズ/上遠野浩平

ジョジョについて、実はぼくは年季の入ったにわかなのです。
子どものころからジャンプでの連載を時々ちらっと読んだりしつつ、それでも熱心に順を追って読むことはできず。
大学で熱いジョジョラーの友人が何人かいたけれども、自分はその影響を受けることもあまりなく。
ネット掲示板などで脈絡なく使われる名言がジョジョ由来のものだったりするという偏った知識だけ身に付けたままもう令和5年。
ジョジョも今では第9部まで連載している始末。

そんな20年レベルの年季が入ったにわかのぼくが、今年に入ってアマゾンプライムビデオでジョジョアニメを見始める。
これは事件ですよ。
ジョジョの奇妙な冒険というあまりにも偉大な作品に対してちゃんと向き合う”覚悟”がようやくできたのであった。


まず、ジョジョってなに?

一応知らない人のために軽く説明しよう。
知っているという人は数秒間キングクリムゾンですっ飛ばしても構わない。

荒木飛呂彦氏による漫画『ジョジョの奇妙な冒険』は英国紳士の生まれのジョナサン・ジョースターとそのライバル、ディオ・ブランドーの対立に端を発する戦いの歴史であるッ!

ストーリーは各部に別れており都度主人公が変わり雰囲気もがらりと変わるのだが根底に流れるテーマはジョースターの血統を軸としたバトルと人間賛歌だ。

第一部、二部までは「波紋」という能力による戦いが主であったが、三部から登場した「スタンド」により能力バトルとしてのストーリーは大きく広がりを魅せる。

キャラクターのセリフやポージングなど、荒木節ともいえる独特のセンスもファンを強く魅了して離さない。

第5部について

そして、今回紹介する(ちょっと待ってね)恥知らずのパープルヘイズは、第5部の物語の後日談。

第5部はディオの息子であるジョルノ・ジョバァーナが主人公。
ギャングの仲間に入った彼が、冷徹非道なボスを倒しギャングスターとして成り上がっていく物語だ。

魅力的なキャラたちと苛烈なスタンドバトル、息もつかせぬ展開で第5部は特に人気が高い。

上遠野浩平氏って?

恥知らずのパープルヘイズで執筆を担当したのは上遠野浩平氏。
代表作は電撃文庫の『ブギーポップは笑わない』シリーズ。ライトノベル黎明期の雄といって差し支えないだろう。

『ブギーポップシリーズ』もいわば能力バトルものであり、上遠野先生によるバトル描写のスリルや爽快感は漫画と小説の差はあれど、荒木先生にも引けを取らない。

洋楽好きなどの共通点もあるようで、上遠野氏はジョジョからの影響を多分に受けていることがうかがえる。
というかブギーポップに波紋呼吸法を使えるおじいちゃんが出てきてたような気がするんですけど……

とまあ、ジョジョの世界観や面白さを十分に表現できる技量やセンスを持った作者であることは間違いないです。

お待たせしました。『恥知らずのパープルヘイズ』感想

主人公は第五部に登場したジョルノの仲間の一人、パンナコッタ・フーゴ。
彼は原作の物語の中盤、ジョルノたちと決別する。
組織を裏切り、ボスへ反旗を翻そうとするジョルノたちについて行けず、彼らの乗るボートを見送ることとなったのだ。

彼が物語から離脱したのはメタ的な理由がある。
一応本編では、IQ152の頭脳を持つ彼は冷静な判断によってボスを裏切ることの危険性を考えてしまい、危ない橋を渡るジョルノたちとは一緒に行けなかったといった描写がされる。
だが、本当のところは彼の能力を荒木先生が持てあましたというのが理由のようだ。

フーゴのスタンド・パープルヘイズは強力な殺人ウイルスを散布し、敵味方の区別なく生物を死滅させる恐ろしいスタンドだ。
はっきり言って悪役の能力ですよね。
これで敵と戦ったらグロい絵面にしかならない。

そんな理由でフーゴのスタンドの活躍は原作では鏡のイルーゾォ戦の一回しか見られず、いいところはジョルノとアバッキオに持っていかれるというなんともかわいそうなことになっている。

そんな荒木先生ですら持て余したパンナコッタ・フーゴと彼のパープルヘイズを、上遠野浩平先生はどう料理したのか。
それが今作の見どころの一つでしょう。

あらすじとしては、本編の半年後、ジョルノがボスとして組織を動かすことになるにあたり、組織の再編および清浄化が行われる。
命令を無視して勝手に動く麻薬チームに手を焼いていた組織は、かつてジョルノと敵対したものや離反したものたちに麻薬チームの討伐を命令した。

その命令を受けたものの中の一人がパンナコッタ・フーゴだ。
仲間として一時期背中を預け合った仲とはいえ、袂を分かつこととなった彼は現在は裏切り者、恥知らずの烙印を押されてしまっている。
その汚名をそそぐチャンスとしてミッションが与えられたのだ。

シーラ・Eやカンノーロ・ムーロロといった小説オリジナルの仲間たちとともに強敵へ立ち向かっていく雄姿が描かれるが、それと並行するようにジョルノたちと袂を分かったあの時の後悔や葛藤、彼の内面での戦いが描写される。

そうそう『恥知らずのパープルヘイズ』というタイトルのわりにフーゴは全然割り切れてもないし傍若無人でもないんです。
まだ16歳の少年らしく、自分の半端さや何者にも慣れない苦悩、決断して進んでいく仲間たちへの憧憬でぐるぐると悩んでいます。

でもこのタイトルがとても良い。
まず語呂がいい。これはさすが上遠野先生のセンスだと思います。
そしてフーゴとそのスタンド、パープルヘイズの強さと成長性を端的に表した素晴らしいタイトルだと思います。

麻薬チームとの対決描写もですが、フーゴの内面の葛藤と成長、ジョルノがフーゴに試練を与えた本当の理由、さらにトリッシュの本編越しの伏線回収など見どころは盛りだくさんでした。

ついつい長くなってしまいましたが、ジョジョ好き、5部好きは読んで損はない物語です。

以上。それでは To be continued →

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