『レビー小体型認知症とは何か』(六車由実さんの書評)
民俗学者から介護職へと転身し、『驚きの介護民俗学』(医学書院)、
『それでも私は介護の仕事を続けていく』(角川学芸出版)などの名著で知られる六車由実さんが、facebookに『レビー小体型認知症とは何かー患者と医師が語りつくしてわかったこと』(ちくま新書)の書評を投稿してくださいました。ご本人の承諾を得て、noteに転機いたします。
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六車由実さんの書評
新年最初の読了は、樋口直美さんと内門大丈さんとの対談本『レビー小体型認知症とは何か―患者と医師が語りつくしてわかったこと』(ちくま新書)でした。
当事者と医師との対談形式なので、とてもわかりやい!
レビー小体病について日頃から知りたいと思っていたことを、両者が質問し合い、語り合ってくれ、「そこそこ、知りたかったんだよ」「ああ、なるほど」「そうなんだ」と納得したり、「そういうこともあるんだ」と新鮮な驚きがあったり。本当に勉強になりました。
現場の介護スタッフみんなで読んでみたいですし、利用者さんのご家族にもご紹介したいと思います。
でも、何よりも、専門職、特に多くの医師に読んでほしいと心から願います。
現場の実感としては、レビー小体病について、医師がどれだけの知識を持っているのか疑問に思うことが多々あるからです。
すまいるほーむの利用者さんの中にも、アルツハイマー型認知症と診断されている方が、レビー小体病ではないか、と思うわれる症状(小刻み歩行、すり足歩行、夜間せん妄、薬剤過敏症状、意識レベルが日内で変動する、便秘等の自律神経の失調症状等)がみられることがあります。そこで、ご家族にレビー小体病の資料をお渡しして可能性をお伝えしたところ、早速主治医(認知症専門医)に相談してくださったのです。ところが、主治医からは「ここまで認知症が進んでいる状態ではもはやレビー小体型認知症かどうかは問題ではない」というニュアンスのことを言われ、特に検査はしてくれなかったとのこと。ご家族は、申し訳なさそうでした。
確かに、私たち現場の介護職は医療の専門ではありませんから、その方が、レビー小体病かどうかはわかりません。
ただ、日頃の様子や変化から、その可能性を疑い、体調の変化や薬剤の副作用、歩行時の転倒等にとりわけ注意を払わなければならないと思ったのです。だから家族を通して、主治医に現場が把握している、その方の状態を伝えたのです。それが、「もはやレビー小体型認知症かどうかは問題ではない」と一蹴されるとは。。。
このケースばかりでなく、介護の現場において、医療職(特に医師)と介護職との連携は必ずしもうまくいっているわけではありません。私たちがかかわっているケースでは、担当者会議に主治医が参加することはごくごくまれです。訪問看護師が入っている場合には、訪看さんを介して医師との情報共有ができる場合もありますが、訪看さんが入っていない場合には、医師との情報共有すらできていないのが現実です。このケースもそれにあたります。
ご本人やご家族が安心して暮らせるようになるために、医療職と介護職とがお互いにどう歩み寄り、ご本人もご家族も共に、みんなが対等な立場で対話ができるか。それが一番の課題だと改めて実感しています。
その第一歩としても、本書をみんなで読んで、互いの知識や理解を深めるということができたら、と思います。
さて、本書の中で私がとりわけ注目するのは、樋口さんが前著でも繰り返し述べられている「時間感覚の障害」についてです。この問題はこれまでほとんど研究されてこなかったそうなのですが、実は、言葉に表現されなかっただけで、もしかしたら多くのレビー小体病の方(もしかしたら、レビー以外の認知症の方)にもみられる症状なのではないか、と思うのです。
たとえば、現場で聞き書きをしている時、それはいつ頃のこと?とか、何歳くらいのこと?と聞いても、明確な答えが返ってこないことが多々あります。あるいは、話を聞いているうちに、いろんな時期の出来事が混ざり合って語られることがあります。
それは、今までは、認知症の症状、もしくは、認知症による記憶障害によるものと短絡的に理解していましたが、もしかしたら、記憶障害ではなく、樋口さんの言う「時間感覚の障害」なのかもしれない、とも思うのです。だって、出来事自体は、かなり詳細まで語ってくれますから、忘れてしまっているわけではないはずだからです。
私も、現場で、この「時間感覚の障害」ということを念頭に置いて、利用者さんたちとかかわってみたいと思います。
最後に、ご紹介したいのは、樋口さんの以下の言葉です。
「できないって、何も悪くないですよ。病気の症状なんですから。他のことならできることがいっぱいあるんですから。自分が好きで得意で、やっていて楽しいと思えることをすればいいんです。楽しいって、脳には最高の薬なんです。
自分で自分を苦しめることはやめて、どうしたら少しでも楽になるか、それだけ考えればいいと思っています。」(p191)
すごく励まされる言葉です。認知症の方も、そうでない方も。
改めて、本書に出逢えてよかったです。
⭐️鈴木大介さん(文筆家・高次脳機能障害当事者)による書評
webちくま 「正しく診断を得る」ための最良の一冊
⭐️来島みのりさん((東京都多摩若年性認知症総合支援センター、センター長))による書評