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さよならタイガース。

バース、掛布、岡田の時代から阪神ファンだった。

当時まだサラリーマンだった父は、1985年当時大阪出張に度々出かけては阪神グッズをお土産に買ってきた。父は大洋ホエールズのファンだったので、特に意図があって阪神グッズを買い求めていたのではないと思うが。岡田や真弓の下敷き、六甲おろしのオルゴールつきの缶バッジは宝物だった。

初めて野球観戦したのも阪神戦だった。後楽園球場での巨人vs阪神、槇原と仲田幸司の投げ合いで阪神が3-2で勝ったことと迷子になって泣きわめいたことを今でも何故か覚えている。


阪神は弱かった。とにかく弱かった。たけし軍団に負けたなんて噂も当時あった。そんな中でも時々出てきてはすぐにしぼんでいく若虎たちに夢中だった。和田、亀山、新庄etc。暗黒時代はとてつもなく長かったが、それがファンをやめる理由にはまったくならなかった。

そして阪神は強くなった。野村、星野という外様監督の元で勝てるチームに生まれ変わった。そして少年時代のヒーロー、どんでん岡田が監督になった。この頃が一番楽しかった。一番足繁く球場に通ったのもこの頃だ(入れ替わりにこの時期あまりサッカーを見なくなった)。

そして阪神に一人の男が入団した。鳥谷敬。学年は3つ違うが同じ時期に同じ大学に所属したこともあり、神宮球場でその活躍を目にしていた六大学野球のスター、その年のドラフトの目玉選手がなんと阪神を逆指名してきた。これには驚いた。しかも監督は大学の先輩である岡田監督。ゴールデンルーキーは監督の温かい支えもあってポジションをつかみ、地味ではあるが確実に成長していく。そして2005年の優勝。この年は初めて甲子園に観戦にいった。当時結婚前の妻とふたりで。妻はスポーツ全般まったく興味はないが、この頃はまだスタジアムに付き合ってくれた。そして事件は起こった…。

優勝を目前にした9月の闘いの中で、主砲金本のホームランがライトスタンドに飛び込む。すぐそばで観戦していた我々も歓喜の雄叫びを上げたその瞬間、後ろのおじさんがビールをこぼした。妻の頭の上から…。

テンションだだ下がりの妻は先にホテルに帰り、それ以後、二度とスタジアムに一緒には行ってくれなくなった。申し訳ないことをした。

この事件を最後に自分もプロ野球を観に行かなくなった。有料放送が充実しだした時代なのでテレビでは観戦していたけど。そこから14年もまったく行かなくなるとは思わなかった。

その後も鳥谷は阪神の中心選手として連続出場記録を伸ばし、2000本のヒットを積み重ね名球会プレーヤーとなった。タイトルとは無縁な地味な選手だったが、メジャー移籍でヤキモキさせたりなんてこともあった。

時代は流れ、次第にポジションを確保できなくなっていくレジェンド。別れの時はすぐそこまで来ていた。

2019年、すっかり味の素スタジアムの住人となっていた俺は、なんだか久しぶりに野球場の空気の中でビールを飲みたくなった。でも、あの頃ガラガラでいつでも入れた神宮球場も横浜スタジアムも今ではチケットが入手困難なほど両球団とも人気チームになっていた。

そしてひとつのことに気づいた。23区に住んでいたあの頃より、今なら西武ドームが近いぞ…と。

そこには見慣れない野球と見慣れないスタジアムグルメがあった。守り勝つ阪神野球に慣れた目には、山賊打線と呼ばれる打って打って打ちまくって勝つライオンズの野球は新鮮で楽しかった。

野球もスタグルも今まで見たことのないくらいの豪快さですぐにこのスタジアムの虜になった。そうして西武の試合を見る頻度と反比例するように阪神への興味は薄れていった。


7月、鳥谷戦力外という見出しがデイリースポーツの一面を飾った。来るべきときが遂ににやってきた。この時期、twitterでもこの件に関することを一切呟かないようにした。事の推移がデリケート過ぎるので、結論が出るのをとにかく静かに待ち続けた。

そして鳥谷の退団が発表された。色んな気持ちがあった。阪神電鉄を許せない気持ちと阪神タイガースというチームへの変わらない気持ちと両方あった。でも、俺にはもうライオンズがあった。


インターネットが発達した時代、地球の裏側のマニアックなチームの試合でも観る手段はいくらでもある。スポーツビジネスがグローバル化している理由だ。だが、グローバルになればなるほど近さを求める気持ちもまた強くなるものなのかもしれない。年齢のせいもあるのかもしれない。生まれ故郷の八王子のプロバスケを応援するのもそんな理由だと思う。

遠くて観にいけないタイガースよりも近くのライオンズ、という気持ちが日に日に強くなり、俺は阪神ファンをやめることにした。そう宣言もした。これからはライオンズファンになると。それでも心のどこかで今日も阪神のキャンプ情報やオープン戦の結果を気にしている自分がある。今シーズンは複雑な気持ちで過ごすことになりそうだ。


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