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誰でもできる「危ない会社の見分け方」 事例(6) ―エアコン取り込み詐欺事件-

1.事件の概要


 2019年2月6日、職業不詳・藤田重樹(50=東京都多摩市在住)と72歳男は、エアコン214台をだまし取ったとして逮捕された。逮捕容疑は、藤田容疑者らは2014年2月~4月、業務用空気清浄機の販売会社(江東区)からエアコン214台、2,900万円相当を「東北にある現場でリニューアル案件があるから新しいエアコンが必要だ」といって取引したが、支払いをせず、商品をだまし取った疑い。事前に2度、正規の取引(支払い)を行い信用させていた。また、東京都内の別会社も、同様の手口でエアコン850台、5,700万円相当をだまし取られたと、被害届が出されている。

2.藤田重樹容疑者の前歴


 2013年2月26日、藤田重樹容疑者は電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕された。会社分割制度を悪用して多数の架空会社が設立された事件で、架空会社のうち少なくとも22社が、社債や未公開株など金融商品を巡る詐欺、競馬やパチンコの必勝法詐欺、架空請求、出会い系サイトの悪用、ヤミ金融などの犯罪に使われていた。
詐欺グループなどの「発注」に基づいて会社分割が繰り返され、犯罪の温床になっていた。
 22社は、藤田重樹容疑者が関わっていた経営コンサルタント会社「新宿経理協会」(解散)から派生。同協会が買収した休眠会社2社を分割・再分割して作った計39社に含まれていた。分割設立された会社の多くが20万〜30万円で犯罪グループに売却されたが、中には150万円の会社もあった。
 2013年2月25日、中国籍の高景洋容疑者が逮捕された。逮捕容疑は藤田重樹容疑者と共謀して衣料品販売の架空会社「ゲデュア」を設立していた。高容疑者は「(藤田重樹容疑者に)会社設立を頼んだ。手数料は払った」と容疑を認めた。藤田重樹容疑者に印鑑証明書を渡して名義を貸した見返りに、報酬を受け取っていた都内の生活保護受給者の男(73)も、共謀容疑で書類送検された。
他の1社では、2012年10月5日、社債購入を勧誘して架空会社の口座に現金を振り込ませる被害が広島県内で発生した。計約2,200万円がだまし取られた。

3.リスクの認識・把握


 エアコンの取り込み詐欺は藤田重樹容疑者個人で行われている。214台2,900万円、850台5,700万円という高額取引を、会社ではなく個人で行う事の不可解さが先ず指摘できる。
 「事前に2度、正規の取引(支払い)を行い信用させていた」というが、取り込み詐欺では一般的・定型的・古典的な手口であり、与信取引におけるリスクの認識が甘いと言わざるを得ない。
また、藤田重樹容疑者の前歴は簡単にネットで検索されることから、ちょっとした手間で被害を回避できたとも言える。

4.商業登記によるリスクの把握


藤田重樹容疑者の前歴にある「新宿経理協会」が、様々な詐欺事件を起こす企業を発生させており、犯罪の温床になっていることから、同社の商業登記を確認する。
時系列で設立から現在までを図示すると上掲の通りになる。

(1)同一場所、同一社名の存在
 新宿経理協会(株)は、平成20年4月15日時点に於いて、㈱OMC会計事務所(0111-01-032129)が商号変更した会社と、平成13年7月25日に設立した会社(0110-01-056385)の2社が存在している。しかも本社は、2社とも平成20年4月15日、新宿区西新宿(同一住所)から渋谷区代々木(同一住所)に移転しており、不可解と言わざるを得ない。

(2)関連性のない、煩雑な商号変更
 本来商号変更は、顧客・取引先の案内や、名刺・封筒・銀行口座の変更など、多大な業務負担になることから、余程の事情がない限り行わないのが普通である。よって短期間での煩雑な商号変更は、全く経営者が変わり、事業が継承されていないことが多い。
また、事業、営業、顧客・取引先の継承を考えると、前商号と全く異なる社名にはせず、何らかの関連性を持つのが通常である。よって、全く関連性のない社名への変更は、全く経営者が変わり、事業が継承されていないことが多い。
 0110-01-032129は、全く関連性のない社名変更を2回続けており、平成13年7月25日の設立は関係なく、実質は平成20年4月15日の事業開始と言える。しかし、移転、商号変更、代表者交代をするも、直ぐに解散しており、その目的・意図は不可解である。
 0110-01-056385は、平成28年8月8日に㈱椿堂という全く関連性のない商号に変更している。ここでは、0110-01-032129の設立時の社名と似通っていることから、同社設立時の代表者、野宮武美氏と藤田重樹容疑者との深い関係が確認される。

 2012年3月23日、東京都渋谷区の会社役員、野宮武美容疑者(67)は、架空会社の社債売買を装った詐欺容疑事件で逮捕された。医療用電子カルテ開発などを手掛けるとする実体のない会社「VISCO(ビスコ)」の社員をかたって、被害者に金を振り込ませるための口座を開設した疑い。同事件での逮捕は東京都八王子市と千葉市の男2人に続き3人目。男2人と共謀し、2010年11月、東京都渋谷区の金融機関でこの会社の社員をかたって口座を開設し、預金通帳とキャッシュカードをだまし取ったとされる。

(3)短期間での煩雑な代表者変更
 一般的に、代表者の変更は、取引銀行や得意先・取引先への変更手続きなど多大な手間がかかることから、余程の事情がない限り行わないのが普通である。
0111-01-032129の場合、一度退任した野宮武美氏が復活就任するも、僅か半年で退任、高小伝氏にいたっては僅か1か月間の就任期間で、不可解な代表者交代を続けている。 
また、高小伝氏は、2013年2月25日に逮捕された高景洋氏と苗字が同じであることから、夫婦であるものと推察される。
0110-01-056385の場合も、一度退任した藤田重樹氏が復活就任しており、しかも平口寅男氏の就任期間は半年と短く、両社共異常性が感じられる。

(4)「関連性のない事業目的への変更」「関連性のない、営んでいない事業目的が多い」
 事業目的の登記は、実際にその事業を営んでいる必要性はなく、全く自由である。このため、営んでいない事業が多数掲載されていたり、逆に営んでいる事業が掲載されていないこともある。概して、休眠会社の商業登記を買収した場合は、新しい会社の事業目的が追加されるため、支離滅裂で、極めて多数になるのが一般的である。
紙幅の関係から事業目的の掲載を割愛するが、当社の事業は「会計事務所の経営」にあるものと思われるものの、0111-01-032129の場合、「経営コンサルタント、飲食店・ホテルの経営、情報提供サービス、資産運用コンサルタント、金銭の貸付、投資」など多岐にわたり、関連性のない、営んでいない事業目的が多く、かつ大幅な変更と殆ど変わらない変更を2度行っている。
 0110-01-056385の場合も「会計事務所の経営、経営コンサルタント、飲食店・ホテルの経営、情報提供サービス、資産運用コンサルタント、金銭の貸付、投資」から「販促品・日用雑貨・電化製品・食料品の販売、郵便物の集荷・発送代行、販売促進活動、イベント、土木・建築・解体・内装工事、空調工事」と、全く関連性のない事業目的に変更している。

(5)繋がりのない会社分割
 会社分割(新設分割)とは、既に存在する会社の事業部門を独立させ、新しく設立した別会社へ承継させるもので、通常は、企業グループの再編などに利用される。この制度を使えば、ゼロから会社を設立するよりも、費用や手間が軽減される。手続きに際してはいくつかの書類を作成するが、その外形が整っていれば実質的な審査をされることはない。よって商業登記はあるが実質的な会社は存在しない架空会社を使って、詐欺等に利用されることがある。
通常、会社分割には、元の会社の事業目的や役員、事業所などが継承されるものであるが、当社の場合、011-01-032129、0110-01-056385共に、分割された㈱グレイスに継承されたものは一点もなく、全くの別会社と言える。

 以上、藤田重樹氏の信用度は、新宿経理協会㈱にたどり着けば、その商業登記を取得するだけで、如何に危険であるかが容易に解る筈であり、ほんの少しの手間と費用で、損害を回避することが可能だったのである。

以上
注:本稿は2019/3に作成したものです。

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