「危ない会社」事例(10) ―パクリ屋のドン「武藤勝」の教訓―

2022年1月14日、取り込み詐欺容疑で男4人が逮捕された。1人は警察では「パクリ屋のドン」、仲間からは「会長」呼ばれる大物「武藤勝(81)東京都台東区橋場」だった。「ドン」「会長」と呼ばれていた理由は、パクリの実績と詐欺の手法を指南し、後進を育てていたことによる。
 武藤勝が逮捕されたたパクリ事件は、ネット検索で本件以外に2件見出すことができた。
(注:マスコミ報道の年月と武藤氏の年齢、住所、手口から同一人物と思われる)
① 2022/1/14 (株)七里物産 被害者数23社 被害金額8,000万円 
② 2017/9/20 リバアースジャパン(株) 被害者数50社 被害金額2億1,000万円
③ 2003/1/28 (株)億万寿楽堂 被害金額7,000万円

 パクリ事件は表面化しないケースが多く、逮捕に至るのは氷山の一角と言われている。よって判明した事件以外にも多数の詐欺が行われ、被害者が出ているものと推測される。
     以下、判明したそれぞれの事件について概要、商業登記の内容を確認し、事前にリスクを把握できなかったのか? 検証する。

1.株式会社 七里物産

(1)事件の概要

 逮捕者は、武藤勝の他、染谷伸明(56 相模原市緑区)、高孝志(61 横浜市南区)、大蔵静男(71 横浜市中区)の計4人。営業実態のない株式会社七里物産(神奈川県藤沢市)を使い、武藤容疑者は「武田勝巳」(偽名)・営業部長と名乗っていた。
 北海道の会社には「給食などに北海道の水産品を卸したい」、神奈川県の会社には「テレビで取り上げられているのを見ました、当社でも卸したい」などと持ち掛けていた。いずれも、最初に少額の代金を支払って、相手を信用させ、後に高額の商品を注文、商品が届くと「会社が倒産した」「破産する予定だ」と書かれた文書を相手に送り、代金を支払わないという手口を繰り返していた。
 2021年3月~7月、北海道から沖縄の16都道府県23社からカニやイクラ、ローストビーフなどの高級食材のほかカメラや温水洗浄便座など、およそ8,000万円相当の商品をだまし取ったとされている。

(2)商業登記

 パクリ屋は常套手段でとして休眠会社の使用するため、商業登記を確認する。
 社名 株式会社七里物産
 本社 神奈川県藤沢市藤沢976-2 秀明ビル
 設立 平成27年10月16日
 目的 1.食料品、日用品販売
    2.清涼飲料水、酒類販売
    3.精米及び雑穀類の販売
    4.水産物、畜産物の加工販売
    5.インターネットにおける通信販売
    6.前各号に附帯する一切の業務
 資本金 1,050万円(R3/1増資)
 役員 代表取締役 染谷伸明 (R2/12就任)
          東京都北区神谷3-44-1-701 ガリシア王子神谷
    取締役   松本春夫
    取締役   石井広幸(R2/12就任)
 閉鎖事項 前本社 神奈川県鎌倉市腰越1-10-9-101 (R3/2移転)   
      資本金 設立時 50万円 R2/12 550万円
      役員  代表取締役 小林清人(H29/3就任 R2/7辞任)
          代表取締役 諸橋喜八(R2/7就任 R2/12辞任)

(3)リスクの把握

 商業登記から、当社のリスクを評価・把握する。
 一般的な評価・判断事項である商号変更や本社移転、事業目的に特筆すべきことはないが、代表取締役の交代が5年間で3回あり、その就任期間は小林氏3年4か月間、諸橋氏はわずか5か月間、染谷氏は2022/1時点で1年1か月間しかなく、不安定な業態が伺える。
 H27/10月の設立で今年業歴7年になるが、実質は染谷氏が代表に就任したR2/12が事業(取り込み詐欺)開始であり、それまでは休眠していたものと見られる。取り込み詐欺実行時は業歴1年未満と見られる。
 一般的にパクリ屋の実力者・実権者は取締役に就任しないものであり、武藤氏は取締役に就任していない。明らかに実力者・実権者と見られる人物が取締役に就任していないのは不自然であり、パクリ屋を疑うポイントになる。
 ただ、代表取締役の染谷氏が逮捕されているのは、パクリ屋としては逆に意外と言える。

2.リバアースジャパン 株式会社

(1)事件の概要

 2017年9月20日 東日本大震災の復興イベントを装って商品をだまし取ったとして、男3人が詐欺容疑で逮捕された。当詐欺事件では、これまでに4人逮捕しており、合計7人の逮捕となった。
 容疑者(リーダー:武藤勝(77)、東京都台東区橋場)らは、2015~16年、休眠会社のリバアースジャパン(株)(イベント企画会社、東京都千代田区一番町3-3)の社員を名乗り、神奈川県の食品卸売会社など2社から数百万円相当のカップ麺や清涼飲料水をだまし取った疑いのほか、関東を中心に全国の約50社から電子たばこ、立ち乗り電動二輪車、などで約2億1千万円分の商品を詐取したものとみられている。
 少額の商品を購入して信用させた後、大量の商品を発注。代金を支払わないまま2016年3月ごろから連絡が取れなくなった。定価の6~7割で転売したものとみられている。

(2)商業登記

 R4/1/18現在 R3/5/18閉鎖
社名 リバアースジャパン 株式会社
本社 東京都千代田区一番町3-3 ラシーヌ一番町8階(H27/11~)
設立 平成19年4月2日
目的 1.環境保全に係る水、空気等の浄化処理装置の設計、製造、販売及  
     びそれらに関するコンサルティング                
   2.建築工事の企画、設計、監理、施工に関する事業
   3.建築資材の販売及び輸出入
   4.各種イベントの企画、制作、運営及び管理
   5.広告宣伝に関する企画、制作及び広告代理業
   6.インターネットを利用したセールスプロモーションの企画、
      開発、運営及びコンサルティング
   7.EC(電子商取引)サイトの企画開発、運営、販売及び保守に
     関する業務                    
   8.総合食品及び雑貨の販売及び輸出入
   9.損害保険代理及び生命保険募集に関する業務
   10.前各号に附帯関連する一切の業務
 資本金 2,000万円
 役員 代表取締役 北嶋高広(H27/4就任)
          (R3/5/18職権抹消により復活)
    東京都墨田区江東橋3-1-10-1003ハーモニーレジデンス錦糸町#003
    取締役 永井英世
 閉鎖事項 取締役 佐藤好郎(H27/7辞任)
      前本社 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-29-12北参道ダイヤパレス404 
          (H27/7移転)(R3/5/18 職権抹消により回復) 

(3)リスクの把握

 本社移転や商号変更、役員変更などでパクリ屋の特徴を見出すことはできないが、時系列(西暦)で推移をみると、
  2007/4 設立
   ?  職権抹消
  2015/4 北嶋氏 代表に就任
  2015/11 現在地に本社移転
  2017/9 逮捕
  2021/5 職権抹消により回復
  2021/5/ 閉鎖
 商業登記法第135条により職権抹消され休眠状態にあった商業登記を利用し、2015/4北島氏が代表に就任、事業(取り込み詐欺)を開始、僅か2年5か月で逮捕に至った経緯が読み取れる。正常な企業で2007年の設立であるなら、2015年で8年の業歴に達し、一応の業態・経営実態を築いている筈である。よって、業歴ゼロ年の犯行当時、業態・経営実態に大きな違和感があったものと推察される。ここにリスクを見出すヒントがあったものと思われる。

3、株式会社 億万寿楽堂

(1)事件の概要

 2003年1月28日、取引を装って食料品などをだまし取った詐欺容疑で野中政義(43)越谷市南越谷、武藤勝(62)の両容疑者が逮捕された。
 野中容疑者らは、株式会社億万寿楽堂を使用し、2002年3月~4月、埼玉県八潮市の食品販売業者からコロッケ約37万個(時価約690万円)を納入させ、だまし取った。コロッケはディスカウント店に約140万円で転売していた。同様の手口で関東地方の卸売会社などから食品や生活雑貨をだまし取る犯行を繰り返していたとみられ、被害総額は約7000万円に上るとされる。
 野中容疑者らは、株式会社億万寿楽堂を、1998年11月、千葉県富里市にて設立したが、ブローカーから入手した福島県出身のホームレス男性の戸籍抄本を使い、男性の住民票を勝手に同社事務所に移し、社長として登記していた。また、ブローカーを通じて東京都内に住民票があるホームレス男性ら約10人の戸籍抄本などを数万円で購入し、会社の所在地を頻繁に移動させていた。

(2)商業登記

 2022/1/18現在、登記情報提供サービスにて、千葉県富里市と全国で検索するも、当社の商業登記を確認することはできなかった。

(3)リスクの把握

 商業登記によるリスクの把握はできなかったが、氏名・会社名及び逮捕・詐欺等によるネット検索でヒットする場合があり、リスク把握の情報を得ることがある。

 掛け売りの新規取引には、必ず正式会社名、本社所在地を聞き取り、商業登記を取得すること(自分で取得することが重要)、代表者名や役員名、担当者名、実力者名でネット検索することが肝要と言える。

 パクリ屋は再犯性が高く、一度その旨味を知った人物は犯行を重ねる傾向がある。しかも、その手口を指南する人物がいて、詐欺師が量産されている。手口は更に巧妙化し、本件のように商業登記を使用したリスク把握が難しくなっていることもあり、今後更なる大きな事件の発生が予想される。

パクリ屋からの被害を回避するため、与信管理をより充実させる必要がある。
                                以上

注:本稿は2022/1作成しました。
参考:武藤勝氏は2022/10死去したようです。

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