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誰でもできる「危ない会社の見分け方」事例(4) ―テキシアジャパンHD投資詐欺事件―

1.事件の概要
 2019年2月14日、テキシアジャパンホールディングス(千葉市)の会長、銅子正人容疑者と、幹部の穂積一志氏、石丸忠志氏、沢幡信吾氏の3容疑者ら計10人が逮捕された。
 逮捕容疑は、企業の海外進出への出資など架空の投資話で、元本保証や毎月3%の高配当を約束し、2013/7~2017/9で、出資者(会員)全国の約1万3000人、合計約460億円を集めた。その後配当、元本返済が滞り、投資詐欺の疑いがもたれ事件に発展した。関係先への捜索で、現金は約1,600万円しか残っていなかったことが判明した。集めた金の一部は暴力団組織に流れていた可能性もあると見られている。
 銅子容疑者は、自らを「キング」と称し、主に中高年の女性をターゲットに自身のコンサートや旅行を企画するなどして、出資金を集めていた。

2.事件の背景
 逮捕された10人のうち穂積一志氏、石丸忠志氏、沢幡信吾氏の3人は、資産運用会社「ライフステージ」(東京都新宿区)に関係していた。穂積容疑者は、ライフステージで代表取締役を務め、石丸、沢幡両容疑者も経営に携わっていた。同社は外国為替証拠金取引(FX)での資産運用で高利配当をうたい、2011年8月~2013年10月、約5,336人から計約146億円を集めた。2013年11月12日、証券取引等監視委員会は、無登録で外国為替証拠金取引(FX取引)への出資を募ったとして、また、出資金を流用した疑いも浮上し、監視委は顧客資産を保全するために、ライフステージと穂積一志代表取締役および100%株主の白鳥勝史前代表取締役に対し、金融商品取引法に基づき業務の禁止・停止を命じるよう東京地裁に申し立てた。
 3人は同社の損失補てんやテキシア社への顧客誘導を狙って、テキシア社の経営に参加したものと見られている。

3.リスクの認識
 月3%の利息とは、年間36%にもなる。今日の低金利において、異常性は明らかであり、先ず信用できるものではない。更に2人の顧客勧誘や投資金額の増額によって会員のランクが上がるなど、この仕組みは「マルチ商法」そのものである。マルチ商法は過去幾度となく多くの被害者を出し、社会問題になっているが、いまだに無くならず、新しい被害者が創出されるのは、被害者側の判断力・注意力を問わずにはおれない。
 銅子容疑者は、自らを「キング」と称し、自身のコンサートや旅行を開催し、顧客を獲得していた。この手法はパーティー商法や催事商法、原野商法の旅行や接待、プレゼントに通ずるもので、正しく詐欺の手口である。また海外取引の大儲け、莫大な資産の保有、超大物・有名人との交友などは、相手を信頼・心酔させるための、詐欺師の古典的なテクニックである。海外の儲けや資産は確認することが難しく、超大物・有名人が銅子容疑者の信用を保証し、債務を肩代わりしてくれる筈もなく、少し冷静に考えればリスクの存在が分かる筈である。
 また、少しの手間、情報ルートを使えば、穂積・石丸・沢幡容疑者の氏名からライフステージの業務停止や、中村容疑者が暴力団員であることを調べる事も可能であり、被害者がリスクを回避できる方法、機会は多々あったと言える。

3.商業登記によるリスクの把握
 前述の如く、リスクの存在は明確であるが、ここでは、あえて誰でも取得できる商業登記から、リスクのシーズを検証してみる。(上掲図表参照)
 同社の商業登記の掲載内容を整理すると次のようになる。

(1)意味不明の商号変更
 一般的に商号変更は、顧客・取引先の案内や、名刺・封筒・銀行口座の変更など、多大な業務負担になることから、余程の事情がない限り行わないのが普通である。
 当社は「テキシア・・・」で設立したが、1か月後に「テクシア・・・」に変更、更に4か月後「テキシア・・・」に戻している。この商号変更にどれほどの必要性と目的があったのかは分からないが、経営の不安定さを感じさせる商号変更と言える。

(2)煩雑な、短期間での本社移転
 一般的に本社移転は、取引先や取引銀行、諸官庁などへの変更連絡・届けなど、業務負担が重く、特段の事情や目的がない限り行わないのが普通である。
 当社設立時の本社は神戸市中央区であるが、2年2か月後に千葉市中央区に移転、更にその3か月後に同じ千葉市中央区内で移転している。当社の場合、地方に複数事業所を有し、それぞれに有力な社員がいることから、有力社員の力関係もしくは都合によって本社を移転したものと見られる。ここにも、経営の安定性に疑問を感じざるを得ない。

(3)煩雑な、短期間での代表者変更
 一般的に代表者の変更は、取引先や取引銀行、諸官庁などの変更連絡・手続きなど業務負担が重く、特段の事情や目的がない限り行わない。また、代表者の交代によって、経営姿勢や方針、役員・組織、事業内容・取引先を変更されることが多々あるため、場合によっては取引先の警戒を招くことがあり、慎重にかつ丁寧に行われるのが普通である。
 当社の代表者の就任期間をみると、内匠屋氏は5か月間、安達氏は2年10か月間、上荒磯氏は7か月間と短く、短期間にかつ煩雑に変更している。その目的・必要性は不明だが、経営の不安定さを感じさせる。

(4)遠隔地の代表者住所
 代表者の居住先は本社の近辺にあることが一般的である。それは経営遂行上合理的であり、中小企業では、代表者自宅と本社が同じ住所であることが多々ある。仮に、代表者の登記上住所と登記上本社の所在地が遠く離れていても、実際上の居住先が業務執行場所に近ければ、業務上支障はないと言える。しかし、当社の本社所在地と代表者住所の関係を見ると、兵庫県神戸市―兵庫県加古川市、兵庫県神戸市―兵庫県神戸市、と当初は近隣にあったものが、後に兵庫県神戸市―神奈川県横浜市、千葉県千葉市―兵庫県神戸市、千葉県千葉市―宮城県仙台市 と遠く離れている。これは、実質的な経営者が別にいて、登記上の代表者は傀儡であるケースが考えられる。

(5)登記されない実質経営者の存在
 遠隔地の代表者住所でもその存在を指摘したが、当社の営業・顧客開拓活動で最も中心的な働きをした人物は銅子容疑者である。会長として社内における地位も高く、外部からは代表者と見られていた。しかし、銅子容疑者は当社の役員には一度も就任していない。
 一般的に、詐欺会社では、実質経営者が代表取締役には就任せず、表に出ないことで、犯罪が発覚しても、責任を回避し、別会社で再び仕事(詐欺)ができるようにしていることが多い。当社の場合、登記上の代表者は逮捕されず、代表者ではない銅子容疑者が逮捕されており、狙いが外れている。これは銅子容疑者のパフォーマンスがあまりにも目立ちすぎたためとみられる。
 外部から見て、当然、代表者や役員と思われる人物が、取締役に就任していない場合は、何かあると疑問符が付けられるのが一般的である。

(6)極めて短い取締役の就任期間
 詐欺会社では、社員が入れ替わり、立ち代わりで役員に就任することがある。このため就任期間は極めて短くなる。一度詐欺会社で味をしめた(楽に金を得た)社員は、次も詐欺会社で働くことが多い、通常の会社であれば長年勤め、企業人としての成長を目指すものであるが、帰属意識もモラルも形成されず、打算的に流れ歩くことになる。
 当社の役員就任期間は、5か月が4人、2年10か月、1年6か月、1年9か月がそれぞれ1人と、極めて短い。この中で逮捕された安達慶三容疑者とその妻、安達淑恵容疑者の2人は元役員だが、逮捕者10人中8人は役員に就任しておらず、少し様相が異なる。
 当社の場合は、登記上の役員と実働の社員とは分断され、登記上の役員は単なる飾りであったものと見られる。

(7)関連性のない、営んでいない事業目的が多い
 事業目的の登記は、実際にその事業を営んでいる必要性はなく、全く自由である。このため、営んでいない事業が多数掲載されていたり、逆に営んでいる事業が掲載されていないこともある。概して、詐欺会社は、金になることは何にでも手が出せるよう、極めて数多くの、様々な事業目的を掲載している。
 当社の事業は海外投資家の募集、海外投資であるが、事業目的は18個もあり、経営コンサルタント、社員教育・研修、会計帳簿の記帳、アウトソーシングの受託、販売促進の企画、工業所有権の売買、貿易業、翻訳業、通信販売などバラバラで、関連性のない、営んでいない事業目的が多く掲載されている。

 以上、その商業登記を取得するだけで、如何に危険な企業であるかが容易に解る筈である。ほんの少しの手間と費用で、損害を回避することが可能だったのである。
                                以上

注:本稿は2019/3に作成したものです。

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