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「危ない会社」事例(9)三建商事 ―前科のある社名でなぜ詐欺ができるのか?―

1.事件概要
2020年9月25日までに、警視庁と大阪府警の合同捜査本部は電化製品詐取の疑いで、埼玉県草加市金明町、飲食店経営西島博文容疑者(58)ら男5人を逮捕した。西島容疑者らは2015年ごろから首都圏や関西地方で、代金を支払う意思がないのに取引を持ち掛ける「取り込み詐欺」を繰り返し、約170社から計約6億円相当の商品をだまし取ったとみられる。
 住宅の大規模改修や民泊申請代行を行う「三建商事」をかたり、関西では「民泊事業で需要がある」、首都圏では「大阪で商売していて東京での仕入れ先を探している」などと大量の電化製品を注文し、だまし取った疑い。

2.前科
 2009年6月23日警視庁捜査2課と志村署などは、東京都江戸川区上篠崎、建築資材販売会社「三建商事」元社長、三浦徳之(65)と埼玉県新座市石神5、無職、佐々木啓(84)の両容疑者ら男女6人を詐欺容疑で逮捕した。三浦容疑者らは2007/4~2008/6、8都道府県の約40社から約5億2,000万円相当のステンレス鋼板やパソコン、家電製品などを詐取した疑い。
 三浦容疑者らは経営実態のない三建商事の社長や役員を名乗り「道路公団から納入を請け負った。栃木県の工場で加工するので購入したい」と持ちかけていた。実際に購入額の一部を支払ったり、架空会社の偽造手形を手渡したりして、犯行の発覚を遅らせていたという。
 三建商事による犯罪を整理すると次のようになる。
 年月  逮捕者      被害者    商品      期間
①2020/9 西島博文 男4人 170社6億円 エアコン    2015~2020/6
                     布団クリーナー
②2020/7 藤田岳弘 2人  20社1億円  発電機     2018~2019
③2009/6 三浦徳之 4人  40社5.2億円 ステンレス鋼板 2007/4~2008/6
                     家電、パソコン
出所:ネットの記事情報を筆者整理

3.本件の特異性
 事件概要だけでは一般的な取り込み詐欺であり、手口もペーパーカンパニーの利用、最初の支払いは期日前に行う、活発そうな事務所を見せる、大量発注で商品を入手したら直ぐ姿を隠す(もちろん代金は踏み倒し)という一般的なものである。
しかし、本件の背景には、一度取り込み詐欺の旨味を知った人は、何度も詐欺を繰り返すこと、一般的に知られた古典的手口であっても、それに騙される人は後を絶たないことを見事に物語っている。しかも、通常、詐欺会社は前科のある企業名を隠すため、商号変更を繰り消すのが通常であるが、本件の場合は前科のある企業名をそのまま使用している。ネット等でそれが容易に検索できるにもかかわらず、である。
本稿では、なぜこれほどに被害が拡大したのか? 被害者はなぜ前科のある企業にだまされたのか? を考察する。

4、本店移転
 本件の被害者が「三建商事」に取り込み詐欺の前科があることが分かれば、被害を回避できた筈である。三建商事の前科はインターネットで簡単に検索できるため、その企業と現在取引しようとしている三建商事が同一企業であることが分かれば、商品をだまし取られることはなかったのである。
 同じ企業であるのかを判定するには、商業登記を確認する必要がある。
 最新の三建商事の商業登記は次の通りである。

社名 三建商事 株式会社
本店 東京都品川区南品川4-19-1
設立 平成9年(1997)12月15日
目的 1.上下水道処理及び環境整備の企画、施行
   2.建築資材、建設機械及び室内装飾品の販売
   3.コンピュータの周辺機器の製造、販売
   4.ホテル及び住宅宿泊事業
   5.住宅宿泊事業の各種・申請代行事業
   6.リノベーション事業
   7.前各号に付帯する一切の事業
資本金 1,000万円
役員 代表取締役 藤平文幸(江戸川区南小岩8-26-6)
   取締役   広瀬次郎
   監査役   熊谷秀夫
移転 平成30(2018)年8月1日、東京都大田区大森北4-12-3カーサK2Bから本店移転
出所:登記情報提供センターから筆者入手

 この、現在地(品川区南品川)に所在する商業登記は、現在事項のみであり、綺麗であり、特に不安を覚えるものはない。むしろ設立平成9年と業歴22年に達する立派な企業とすら思ってしまう。
 一つ気になる点は、平成30年8月に大田区大森北から移転とあるので、大田区大森北の閉鎖登記を調べてみる。と同時に過去の閉鎖登記を調べた。
上掲図表参照 出所:登記情報提供センターから筆者入手
 
図表によれば、1997年12月の設立から現在に至るまでに、商号変更1回、本社移転5回、事業目的変更2回、代表者交代にいたっては7回を数える。しかも1998/8~2001/5、2003/3~2007/1の2回、経営者不在の休眠期間もある。
 当社の設立は、レイソウの1997/12とは何ら関係なく、休眠会社を買い取ったもので、実質2007/1と言える。
 2007/1に就任した三浦徳之氏は2009/6逮捕されており、ここまで商業登記を遡ることができれば、当社の信用度が簡単に把握できた筈である。しかし、一般の企業が、前々々住所まで登記を遡って調べることは先ずないと思われる。
 商業登記は、法務局の管轄地域を越えた本店移転によって、真っ新になることから、何度も移転を繰り返せば、過去を隠すことが簡単にできるのである。よって商号変更をせず、同一の社名であっても、疑われなかったのである。

5.詐欺師
 三浦徳之氏は2008/2に代表を辞任、取締役になるも、それも辞任し、2009/6の逮捕時は役員についていない。詐欺を実行した時期と代表者を毎年のように交代させた時期は同じであり、常に代表者・役員を固定せず、責任の所在を不明確にしているのが分かる。 
警察発表による逮捕者の氏名は、全員が明らかにされていないため、詳細は不明であるが、三浦氏以外で公開されている逮捕者の氏名は、代表者及び役員名には見当たらない。
取り込み詐欺は一つの商号登記(会社名)を利用して、詐欺師達が各自勝手に詐欺を働いているのである。一般会社のように社長―取締役―部長―社員といった業務系統、組織はない。このため、企業というくくりで、まとめて逮捕することは困難なのである。
詐欺師達はどこかで取り込み詐欺を経験し、その旨味が忘れられず、どこかで詐欺を重ねているのである。勝手気ままである。よって、警察が個別取引の犯罪性を立証し、逮捕することはできても、一網打尽に詐欺師達を逮捕することは難しい。
詐欺師達の活躍の場は、商業登記の隘路、犯罪の立証という難問によって、法的に守られているとさえ言えるのである。
一般的な与信管理しかできない一般企業が、その餌食になるのは無理もないことなのかもしれない。
 以上

注:本稿は2020/9作成したものです。

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