髭鯨の第2期Σリーグ参加記録 その1(2023/10/15 ドラフト会議)

 これは僕、髭鯨(ひげくじら)の第2期Σリーグ参加記録である。

 2023年10月15日は特別な日になった。ネット麻雀という限られた界隈の、それでもその中にいる多くの人達にとって。もちろん僕にとっても。第2期Σリーグのドラフト会議があったからだ。

 Σリーグは(途中名称を何度か変えつつ)今季で5シーズン目を迎えるネット麻雀リーグのひとつだ。各チーム5名ずつ在籍し、計12チームが約半年にわたって打牌成績を競い合う。
 言ってしまえばよくある形式ではあるけれど、このリーグは数ある私設リーグの中でも突出している、と個人的には思っている。選手の雀力、運営力が総じて高い。それによって注目が集まりさらに強者が参入してくる好循環が生まれている。そこで戦う機会を得るために数多の麻雀強者が腕を磨き、配信者ならそのクオリティを上げ、日々の研鑽を重ねている。
 だから今回のドラフトで初めて選ばれて涙を見せる人はひとりやふたりではなかったし、なんなら友人が当選したことで泣いている人なんかも見かけた。僕のフォロワーでも「Mリーグを見る感覚に近くなってきた」みたいなことを言った人もいた。とてもわかる気がする。
 僕は幸運にも、その中のひとつのチームに選手として加わることになった。

ドラフトでの指名

 僕をドラフトで指名したのは、『ANC PURPLE BATS』(以下『APB』)というチームだった。VTuberの甲森あんさんがリーダーを務める伝統あるチームだ。リーグ最初期から存続していて、優勝も1回果たしている。
 率直に言えば、うれしかった。ここ1年くらいはこのリーグに参加できることを目標として雀力を鍛えてきたし、応募期間には慣れない凸待ちにも何度か参加してさも慣れているかのように振舞った。X(旧TW)でも各リーダーの目に留まるようあくせく動いた。それが報われた気がした。
 けれど同時に、このチームが僕を選んだことが意外でもあった。僕を指名してくれそうなチームは事前にある程度予想(妄想)はしていて、隠さず言えばその中にAPBはなかった。僕は主に天鳳で打っているから、そういうフィールドでの成績を評価してくれるリーダーならワンチャン、みたいに思っていた。甲森あんさんは天鳳寄りというイメージではなかったし、直接の交流もないに等しかった。
 どういう理由で僕なんだろうか、と他の指名が続く間もずっと考えていた。当然答えなんかわかるはずもなく、ドラフトは悲喜こもごもを引き連れて進行していく。
 結果としてAPBは僕を含め四人が初参加というフレッシュな顔ぶれとなった。

第2期Σリーグ ANC PURPLE BATSのメンバー

 以下、各メンバーの僕の現時点の印象などである。

・甲森(こうもり)あん(以下『あんさん』または『リーダー』)
コウモリVTuber。VPL2期生。麻雀に限らずいろんなゲーム実況をしている。麻雀では一発をこよなく愛する「コウモリーチ」なる必殺技を有し、くらった相手は画面外で鼻血を吹いて倒れるとか倒れないとか(効果は今僕が適当に考えた)。直近ではVTuber雀魂スタンプラリーみたいな企画を率いていたのが記憶に新しい。単に大人数を巻き込む企画をするだけでも大変なのに、VTuberをまとめる企画の先頭に立つというのはとてもすごいことだと思う。Σリーグでは前身のリーグ時代含め最初期からAPBを率いている。

・日菜(にちな)むい(以下『むいさん』)
幸運を呼ぶ茶柱系Vtuber。こちらもVPL2期生。最近はいろんな麻雀リーグで頑張っているのを目にする。ザ清楚オブ清楚な立ち振る舞いが人気を集めていて、すでにΣリーグ他チームの選手の間にも熱烈なファンが現れ始めている。ここで僕が変なことを書こうものなら一斉にお叱りを受けて僕のネット生命は危機に瀕するかもしれない。どんな局面より難しい押し引きがいま発生している。今期のAPBの育成枠。

・Lusyaba(以下『ルシャバさん』)
指名は今期が初ながらこれまでΣリーグの広報担当として頑張ってきたひとり。対局後の選手インタビューとか観戦記とか僕も楽しく読ませてもらっていた。今回の指名でいろんな人が彼を祝福している。とてもほっこりする。とにかくそんなわけで継続参加している他チームの選手の特徴に詳しいので、すでに色々聞いたりしていて頼りになる。クソコラはスピードが命。麻雀はダマをよく駆使する。

・コータ(以下『コータさん』)
陽気なブタのおっちゃん。麻雀界のブタは舐めてはいけない、という鉄の掟が存在するが、この人もいろんなリーグでの活躍を目にする。麻雀だけでなくクイズもたしなむ側面もあるらしい。段位は魂天。きっと「打牌できないブタはただのブタだ」と言わんばかりのいぶし銀な打牌を披露してくれるに違いない。鳴きを多用するスタイルで、陽気なおっちゃんが鳴き麻雀をするのはとても解釈一致である。

 全体として見ると麻雀のスタイルもバラバラで、パーソナリティもバラバラだ。僕の打牌は割とどっちつかずな感じだったりもするので誰ひとり共通する人がいない。でもそれがゆえに、チームとしてはうまいことバランスが取れているような気もする。
 あんさんはどういう狙いでこの4人を集めたんだろう。まだそのあたりはしっかり話せていない。APBにはこれまで全期間在籍していた矢絣(やがすり)京(きょう)さんという強いプレーヤーがいたのだけれど、今期はドラフトで指名が被り、ルーレット抽選の結果別のチームに所属することになった。その影響は大きかったんだろうか、どうなんだろう。
 ドラフトが終わってすぐ、僕ら新メンバーはあんさんのDiscordサーバーに招待されて簡単に自己紹介をしたり、この後の予定を簡単に確認したりした。まだ僕からつっこんだ話はできなかった。特に僕はリーダー以外のみんなともほぼ初対面だったから、距離感を測るだけで終わってしまったようなものだった。優勝しよう、いぇーっ! みたいな、それっぽい雰囲気でその場は解散となった。

 外から見たら、このチームで一番目立つのはむいさんのはずだった。なにしろドラフト1巡目指名でルーレット抽選までして入ってきた大人気枠なのだから。
 他のチームのリーダーはドラフト直後にもう反省会みたいな配信を始めていて、各チームの特徴がどうとか、この強すぎる編成はずるいとか、と盛り上がっていた。特に今期は四麻天鳳位(天鳳における最高段位で全人類をもってして22回しか到達例がない)のヨーテルさんも参加しているから、そういったネタには事欠かない。そんな他チームと並べた時、APBで話題に挙がるのはむいさんがやっぱり一番多かったように思う。育成枠としてどこまで強くなるか、みたいな話になって、ルシャバさんが「むいさんの成長記録書きます!」みたいなことを言っていた。
 確かに、それが今期のAPBのサクセスストーリーとして一番想像しやすいシナリオのかな、と思った。むいさんがヒロインであり騎士であり、あんさんが経験豊富な魔法使いで、ルシャバさんが僧侶でコータさんが陽気な格闘家ブタープラチナ。僕はまぁ盾役みたいな感じで。ともに旅する中で成長を重ねたパーティーはやがて雀魂界の並み居る強豪を打ち倒し、ついにはラスボスの天鳳位まで撃破して、優勝という栄冠を手にするのだ。めでたしめでたしハッピーエンド。
 でもそれがあんさんが思い描いていたチーム像なんだろうか。

「ごめんね」

 ドラフト直後に集まった際、あらかた確認が終わったタイミングであんさんは唐突に僕らに謝った。

「連覇ができなくて」

 最初はなんのことかわからなかったけれど、連覇の一言で理解が追いついた。ドラフトの前日だったか、確かにあんさんはXでポストしていた。ANC PURPLE BATSは今期でΣリーグ参加が最後になるだろう、ということ。理由は時が来たら明かすけれど、もう決定事項である、ということ。
 そのときまず僕はドラフトで選んでくれたことが嬉しくて、持ち合わせていたのは感謝くらいしかなかった。優勝なんてできたらそれはもう最高の最高で、だから連覇なんて話は考えが及ぶ範囲には存在しなかった。たぶん他のみんなも同じだったと思う。
 それでもあんさんはその点について一言断っておかずにはいられなくて、そんな責任感があるからこの人はリーダーなんだなと思ったりした。ひょっとしたら今期で最後となるAPBは、その最後の責務として、ひとりでも多くの人にΣリーグのDNAみたいなものを残そうと僕みたいな新顔を中心に選んだんじゃないか、みたいな可能性がふと頭をよぎった。
 でもやっぱり、ちょっと寂しいよね。僕ら新人ばかりが喜んでいて、あんさんだけがそういう部分に引け目を感じていたりするのは。
 だから僕は言った。

「じゃあ僕らも楽しいチームになって、優勝して、あんさんがもう一年同じチームでやりたいって思うような頑張りをしないとですね」

 あんさんはそれにちょっと驚いたようだった。そして、

「そうね、それで盛り上がって、周りからAPB存続を求める声が集まったら、そのときは考えてみるかもしれないね」

 と優しく、でも全然本気じゃない感じで笑った。
 この瞬間、本リーグにおける僕個人としての目標は完全に決まった。

 2023年10月15日、第2期Σリーグ ANC PURPLE BATS 始動。

 ――続く

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