髭鯨の第2期Σリーグ参加記録 その6 (2024/03/27 お疲れ様会)

 これは僕、髭鯨(ひげくじら)の第2期Σリーグ参加記録である。

 そしてこれが今期最後の記録になる。2024年3月13日、第2期Σリーグはチーム『なんでも鳴けばいいというものではない』(以下『ななない』)の優勝をもってその幕を下ろした。
 なんと連覇である。12チームもいる中で連覇というのは麻雀においてなかなかあることじゃない。運の要素も多少はあるのだろうけれど、チームのマネジメント、そして各メンバーの打牌が秀でていたからこそ、この結果に結びついたのは間違いないことだと思う。

第2期Σリーグ最終結果

 その優勝を決めるファイナルの舞台に、僕が所属していた『ANC PURPLE BATS』(以下『APB』)の名前はなかった。1月末、レギュラーシーズンを10位というボーダーすれすれで突破したものの、僕らは次のプレーオフを勝ち抜くことができなかった。
 そもそもプレーオフはレギュラーシーズン3位~10位の8チームで戦い、うち2チームのみが勝ち抜くことができるという狭き門ではあった。けれど、そんなことはほぼ関係なく、僕らAPBは10位の位置から浮上することすらできなかった。プレーオフの全10戦、苦しい試合ばかりだった。まるでレギュラーシーズンですべてのエネルギーを使い果たしてしまったみたいに、僕らの飛行は上昇気流を掴むことなく終えた。熱意とか、希望とか、そういう類のものではどうにもできない何かがそこにはあった。

 敗退した、という事実はやっぱり重かった。「APBは今期で最後」とリーダーの甲森あんさん(以下『あんさん』)が決めていたから。僕個人としては、その撤回のためにも優勝を、と目標にも掲げていたのだけれど、それが達成できなかったというのは二重の意味での失望だった。
 チームのみんなもたぶん同じような感じだった。配信の場では、頑張ったよ、よくやったよ、みたいな言葉を互いに掛け合いながら、これでAPBは最後なんですね、という確認の言葉はどこか怖くて口にするのがはばかられた。
 ほどなくして、あんさんがXでAPBの解散を改めて告げた。 

APB解散

 シーズン中、そして僕がこのnoteを書いている今にかけても、APBの解散に至る具体的な理由はあんさんから聞けていない。一応あんさんは「それは追って話します」と公言しているので、あるいはこのnoteの公開と近いタイミングでそれが明らかになっているかもしれない。
 現時点では正直なところ、想像もつかない。考えてみれば当然だった。僕はあんさんの5分の1ほどの時間すらこのリーグと接していないし、チームリーダーを務めた経験もない。
 約半年間、APBで過ごした時間は、率直に言って楽しかった。チームメンバーのむいさんルシャバさんコータさん、みんないい人だった。時にリーグ戦でつらいラスを引いて、悔しさを噛みしめながらもそれでもすぐにチームのみんなで打牌を振り返って、たまに僕が無遠慮に強く言ってしまった瞬間もあったかもしれない。それでも険悪な空気が漂った瞬間は皆無だった(と思う)。みんな距離の取り方がうまかった。その場の雰囲気を壊さない気配りが自然にできる人たちだった。
 でも、だからこそと言うべきか、APB解散という時限爆弾には軽々しく触れることができなかった。僕はもう少し踏み込むべきだったんだろうか。どうなんだろう、今でもよくわからない。

「ごめんね」

 と謝るあんさんが、印象に残っている。
 思い返せば最初の顔合わせのタイミングから、連覇ができないことをあんさんは僕らに謝っていた。そんなこと不満になんて思っていないのに、みたいなところまで謝らずにはいられない、そんな責任感がある人だった。
 優勝チームのななないはシーズンの序盤からずっと好調で、その要因についてチーム内で話をしたことがある。ななないの育成枠である夏八木(なつやぎ)玲衣(れい)さんがリーダーのメカゼットンさんからみっちり牌譜検討で鍛えられている雰囲気が、Xの投稿からも伝わってきていた。そういう話をすると「こっちのリーダーはそういうのできなくてごめんね」とあんさんは少し茶化して言った。どことなく寂しそうな声で、そんなことを言うことが何度かあった。
 そこはチーム内の役割分担の話だと個人的には思う。別にあんさんでなくても、僕やコータさんやルシャバさんだったりが意見を出しあえる環境は出来上がっていた。チームとしてそれができるのだから、あんさんが謝る必要はない。でもあんさんはそういうところ、全く気にしていないというわけではなかったんだと思う。
 それがAPB解散の理由の一部を占めているのかと言われたら、わからない。けれど少なくとも、そういうことさえ申し訳なく思ってしまう人だから、今回の解散についてもやっぱりあんさんは僕らに対して、ごめんね、って思うんだろうな。事情も知らない僕が能天気に「もう一期継続しましょう」みたいなことを言ってしまったばっかりに。それが叶えられなくて、ごめんねって。

 僕は今期APBに参加して大きく変わった。
 チームのリーグ戦に参加したこと自体はこれまでもあったけれど、応援配信を自枠でとるのは初めてだった。あんさんからDiscordのVCを配信にのせる方法を教わり、それでも僕のヘボスペックPCではいっぱいいっぱいの有様で、何とかしたいっスと相談したらおすすめのPCや注意すべきスペック項目なんかをこと細かに教えてくれた。
 僕の配信環境が強化された後も、わざわざ普段の配信までチェックしてくれて、OBSの配信設定に関してもアドバイスをもらった。たぶん僕がそのままにしていたら絶対に気づいていないだろう項目だった。
 APBは応援配信のサムネにも趣向を凝らす傾向があって、あんさんによるサムネ作りのコツみたいな講義が開かれたりもした。どうだろう、今期のΣリーグでそういう面でのメンバーの成長を助けてくれたのはAPBが一番だったんじゃないだろうか。
 アドバイスをもらった色々を設定し終えて、その報告すると、

「これでひげくじらさんは他の配信者と好きなようにコラボできるね」

 とあんさんはまるで自分のことのように笑った。その言葉通り、僕はいま『ひげくじラボ』という牌譜検討系の配信を定期的に行っている。複数のゲストを交えてのものだ。リーグ参加前の僕ならとても考えられないことだった。
 むいさんも今このリーグでの経験を得てさらに大きな舞台へと挑戦しようとしている。ルシャバさんも麻雀のスタイルを試行錯誤して、つい先日目標としていた段位、魂天に到達した。コータさんだってもともと広かった活動の幅がさらに広がってきている。
 そんなみんなとのお別れの後で、あんさんの胸の内に残る感情が「ごめんね」であっていいはずがなかった。
 いいはずないだろ、そんなの、決して。

 どうやったらその「ごめんね」を打ち消せるだろうか、とシーズン終盤はずっと考えていた。僕一人のありがとうくらいでは到底足らないと思った。もっと数がいる。蓋をしても蓋をしても、それでも次が溢れ出て、蓋をするのを諦めてしまうくらいの、それくらいの数が。
 3月27日、APBはその最後の活動として第2期Σリーグ振り返りのお疲れ様会を開くことになった。機会はもうそこしかなかった。やることはもう自分の中で決まっていた。ありったけのありがとうを届ける。現メンバーだけじゃない。これまで通算5期の過去メンバーひとりひとりからも、APB解散にあたってあんさんへのありがとうを募り、ぶつける。チーム存続期間が長いAPBだからこそできることだった。
 現メンバー3人に相談したら、一も二もなく快諾してくれた。それぞれ分担して過去メンバーに働きかける。続々とありがとうの声が届き始めた。在籍期間が一番長い矢絣(やがすり)京(きょう)さんには、現メンバーで直接連絡を取りづらい人との間に立ってもらえたりもした。

「矢絣のはきっと長いぞ」

 と予言したのは同じく過去メンバーのひとりエンデさんだった。その予言の通り、矢絣さんからは全体でも最長レベルの長文が届いた。そこにこれまでのAPBの関係性や雰囲気みたいなものを垣間見たような気もした。
 長かったのは決して矢絣さんだけではなかった。一言コメントをください、と依頼したはずなのに、渾身の長文を送ってくる人が何人もいた。それで良かった。みんなあんさんが大好きだった。ひとつひとつをスライドに落とし込んでいく作業には、こみあげてくるものがあった。
 さぁこちらの準備は万端だ。甲森あん、お前はもう完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて、大人しく感謝されろ。

【ANC PURPLE BATS お疲れ様会】

 3月27日当日、お疲れ様会は滞りなく実施され、APBはΣリーグでの最後の活動を終えた。集められたありったけのありがとうは、配信の後半で僕ら現メンバーからかわるがわる読み上げさせてもらった。一言も洩らさないように、大切に、大切に。
 その言葉を受け取ったあんさんは、やっぱりいきなりのことで面食らってはいたようだけれど、最後まで笑ってくれていた。配信後に、

「事前に知らされてなかったから、気の利いた返しができなくてごめんね」

 みたいなことを言い出したときは、こりゃあ筋金入りだなとは思ったけれど。でも配信前まであんさんが持っていただろう「ごめんね」は、すべて塗りつぶすことができたに違いなかった。
 だってほら、みんなの言葉が、この空間が、こんなにもあったかい。

 今期Σリーグに参加して、ありがとうと言いたいことはたくさんある。
 リーグの舞台を整えて大きなトラブル無くファイナルまで仕切りきった運営の皆様。広報の方々には各選手の戦いぶりを刻銘に記録してくれて、自分の記録はそれはもう大切な宝物になりました。
 対戦相手のみなさん。戦いの場以外でも気さくに絡んでくれて、嬉しかったです。時にチームの配信に呼んでいただくなんて機会もあり、貴重な経験になりました。
 そしてチームメイトのむいさん、ルシャバさん、コータさん。みんなとの戦いの日々は刺激になることだらけでした。毎週の水日が楽しみでした。いっぱい学ぶものがありました。
 配信に来てくれたリスナーの皆さん、結果がついてこなくて厳しい状況が続きましたがそれでも声援を寄せてくれて、とっても励みになりました。
 APB過去メンバーの皆さん。配信にゲストとして来ていただくこともありました。今回の僕のいきなりの企みにも快く応じていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。

 それでもやっぱり、最後はこう締めさせてください。

 ありがとう。

 ありがとう。

 甲森あんさん、ありがとう。

 APBは、最高でした。

 ――了

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?