髭鯨の第2期Σリーグ参加記録 その5 (2024/01/29 レギュラーシーズンを終えて)
これは僕、髭鯨(ひげくじら)の第2期Σリーグ参加記録である。
けれど今回の主人公は僕ではなく日菜むい(以下『むいさん』)であるかもしれない。2024年1月29日、第2期Σリーグはレギュラーシーズンの日程を大きなトラブルなく乗り切り、この日にその最終節(第20節)を迎えた。全12チームのうち上位2チームがファイナルの舞台への進出が約束され、3位から10位までが残り2枠を争うプレーオフへ進む。下位2チームは残念ながらここで敗退となる。
敗退、ということはつまりここでチームとしての活動を終えなくてはいけない、ということだ。ルールは時として残酷である。そしてこの第20節で出場機会を得た選手はその残酷さと対峙しなければいけない。ANC PURPLE BATS(以下『APB』)からその役割を任されたのはふたり。第1試合が僕、髭鯨であり、より結果に直結する第2試合に出場したのが、むいさんだった。
「本当に最低限のことしかできなかった感じで……」
重要な舞台での役目を終えて、みんなのもとへ戻ってきたむいさんは開口一番にそう言って恐縮した。けれど、どこかみんなの期待に応えられた安堵感がそこには込められていたように思う。
11月、このリーグが開幕した当初、僕らAPBは順風満帆と言っていい滑り出しの中にいた。
なにしろ1位につけていたのだから。これ以上など存在しない。
それが徐々に勢いを落として、
とうとう20節開始時点ではプレーオフ進出ラインギリギリの10位にまで後退していた。折り返しの10節ぐらいまではなんとか耐えていたけれど、そこからは笑ってしまうくらいに綺麗な下降線だった。
当の本人たちはといえば、とても笑っていられるような心境ではなかった。優勝しよう、という話はいったん脇に置いて、いかにして10位以上で最終節を切り抜けるかにみんなが意識を集中していた。11位のチーム縁とのポイント差は約70。これは1試合で入れ替わってもおかしくない差で、いわんや各節2試合あるのだから、これは現実的すぎるくらいの条件が残っていた。12位のエンペン社との差だってひっくり返る可能性も、奇跡とはとても言えないレベルで残っている。
だから最終節に登板する選手にかかる重圧は大きかった。誰が出るかはチームのみんなで話し合って決めた。片方を僕が出るのはほぼ規定路線だった。このチームの中で僕はそういう立ち位置だと思っていたから、覚悟もできていた。
問題はもうひとりをどうするか。場合によっては、連投する、という言葉も出かかった。けれどその必要はなかった。
「出ます」
むいさんがはっきりとそう言い切ったから。
むいさんはここまで7試合に登板して1着1回、2着3回、3着3回のラスなしで乗り切っている。育成枠として選ばれたとはとても思えない安定感を発揮していた。数日前には雀魂のランクで本人初の聖2への昇段を果たしている。そういう過程もあって、むいさんの中に自信みたいなものが根付きつつあるような、そんな主人公然とした格好良さをその優しい声の響きから感じ取れた気がした。リーダーの甲森あんさん(以下『あんさん』)やチームメイトに異を唱える人はいなかった。
思えば、ドラフトが終わった直後、このチームの主人公はむいさんだ、なんて半分茶化して僕は書いていた。本人がどう思ったかはわからないけれど、むいさんはしっかりそれを実現してきたんだな、と思った。自分の手で成長を描いて、自分の手でその物語を続けようとしている。
第1試合と第2試合のどちらを選ぶか、はふたりの間で決めた。というより、僕がむいさんに選択をゆだねた。それが一番良いように思った。むいさんはより重圧がかかる第2試合を自ら選んだ。今後VPLの舞台など、どこかでまた重圧や条件が絡む状況が待ち受けているかもしれない、ということを見据えての選択だった。どこまでも厳しい方に身を置こうとするその姿勢はどうしようもなく格好良かった。
肝心の試合は第1試合、第2試合ともにエンペン社の猛追を許しながらも僕が2着、むいさんが3着で点差を辛くも守り切り、APBは10位でレギュラーシーズンを終えることになった。
特に第2試合はエンペン社に逆転を許す瀬戸際まで追い詰められながら、むいさんは赤5pを含む危険牌を4連打して和了を強引にもぎ取り、土壇場を切り抜けていた。あまりに格好良すぎて公式配信「熱闘!Σリーグ」で取り上げられるに違いないのでこの場では触れる程度にとどめておくが、チームの窮地に先頭に立って突破口を切り開く主人公の背中をそこに見た気がした。それに救われたのはきっと僕だけではないと思う。
これから僕らは全5節10半荘のプレーオフへと闘いの場を移すことになる。APBの物語はまだ続く。
これで僕が本当にほっとしたのは、リーダーのあんさんのこともあったからだ。心変わりに至ったかはわからないけれど、あんさんは今期をAPBのラストと宣言している。場合によってはチーム最後となるかもしれない試合を、自身は出場しないという決断をする。これはとても勇気のいることだと思う。最後は自分が出場する、と言ったとして、むしろ僕はそれが自然だと思っていたくらいだし、万一それで悪い結果になったとしても、しっかりみんな納得して終われていたと思う。けれどあんさんはこれがベストと決めて、僕とむいさんを送り出した。そんなリーダーのAPBとしての活躍の場を残すことができて、本当に良かった。
プレーオフに向けて、APBはすでに動き出している。通過したとはいえ一番苦しいポイント状況で僕らは他チームと競い合うから、チームで一度集まって方針や改善点などをすり合わせよう、という話になっていた。
実は今回の第20節の直前も、同卓する対エンペン社を想定した練習戦をチームでこなしていて、多少なりともその成果はあったように思う。
新参者だらけで集まったこのチームは、いまだんだんとチームらしくなってきている。
APBはいいぞ。はじめは暗示のように使い始めた言葉だけれど、今は自信を持って言える気がする。
だから、応援してくれるみなさんも、僕らがいい闘いをしていたら、僕らと一緒に言ってほしい。優勝だって全然あきらめていなくて、まだまだプレーオフも頑張っていくから。
せーの、
APBはいいぞ!
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