トマトと餃子

「これ、おいしいから食べてみて」

鷄の唐揚げの横に添えられていた
トマトを私は高尾にあげた。

私はトマトが大嫌いだ。

「お、ありがとう」
高尾はおいしいものを食べるように
トマトを口に運ぶ。
「うーん、別に普通のトマトやけどなぁ」
高尾は真面目に味の感想を言った。

私は「これ、おいしいから食べてみて」の
意図というかボケを
高尾が理解していると思っていた。
なんなら、
「嫌いなトマト食べてほしいだけやろ」と
つっこみを待っていた。

結果的に私は高尾を騙したような形に
なってしまったが、
長年の付き合いもあってか、
別に悪いことをしたと思わなかった。

高尾という人間は阿保である。

ある時、
「これ誰かわかる?」と
私がサッカー選手のイニエスタを指さした。

「イスラエル」と答えた。

ある時、
ラーメンとチャーシューメンがあるお店で

「チャーシューメン、チャーシュー少なめで」
と注文した。

「それがラーメンやで」と私は言った。



私の嫌いなトマトを食べ終わると高尾は、
「これもおいしいから食べてみて」と言い、
私に餃子を1つくれた。

言っていなかったが、これは王将での話だ。
私たちは28歳だ。初めて王将に来たわけがない。
そして高尾とは何度も王将に来たことがある。
王将の餃子の味を知らないわけない。

でも、高尾は餃子を1つくれた。


いつの日か私も何か1つ高尾にあげたいと思った。
そして今、この文章を書くに至る。

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