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Ep14 リチャード 神風が吹く

次会った時にDVDを貸してあげるよ。そう言われていたので、朝玄関ホールで会った時、リチャードの手元に置いてあったビニール袋が何なのかを瞬時に察した。中身を取り出そうとする彼に、thank you、と先にお礼を告げる。けど、なんのDVDなのかは皆目見当がつかない。

ごそごそと取り出された3枚のDVD。白ディスクにマジックでタイトルが書いてある。想像と違った。既製品を貸してくれるものとばかり思っていたが、「リチャードが自分で焼いて来た、彼えりすぐりのお気に入り映画DVD」のことだったとは。(はぁ、視てあげないといけないのかなぁ・・・)とたんに気が重くなる。

なんの映画なの?と一応聞くことにする。イギリス海軍がテーマらしい。(うーん、面白いのだろうか・・・。)こっちの低関心を見透かしたように、リチャードはこんなことを話しだした。フビライ・ハーンが日本を攻めようとした時、「神風」が吹いたろう?イギリスにも、かつて吹いたことがあるんだよな。その名は「プロテスタントの神風」。イギリス人はみんな知っているらしい。

時は1585年。スペインが、イギリスを攻めることになった。当時イギリスは、キリスト教のプロテスタント系が主な宗派で、スペインは、カソリック系。そんなスペインの王様が、「異端な」イギリスを「正す」ため、征伐隊を送り込んだ。相手は、無敵艦隊と呼ばれる、世界最強の海軍だ。イギリスの運命やいかに?!・・・ところが、北上するスペイン軍が運命の「英仏海峡(English Channel)」にさしかかった時、「強烈な嵐」が彼らを迎え撃ち、彼らの船は傷つき、そして、遠く南方へと押し流されて、彼らはもはやスゴスゴと帰るほかなくなった・・・こうして、イギリスは、「神風」にみごとに護られた。そういう話である。

ほんとにそうだったのぉ?と意地悪く聞いてみる。すると、実のところは「科学の差」でイギリス海軍がスペイン海軍よりも優れていた、そのことが勝敗を分けたんだとリチャードは言う。話を少し巻き戻して・・・「英仏海峡(English Channel)」で一戦あいまみえることになった両軍。下馬評を覆し、イギリス海軍が優勢に立った。大きな理由が二つあったという。

まずは「軍備」。「鉄」の大砲で「石」の砲弾を使っていたスペイン軍に対し、イギリス軍は、鋳造技術が進んでいたため、「鋼(はがね)」を精製できた。この方が、精度高く、破壊力の大きい大砲や砲弾がつくれる。次に「撃ち方」。放物線を描くように大砲を「空中に」撃っていたスペイン軍に対して、イギリス軍は、海面と水平に「水面を」跳ねさせるように大砲を撃っていたのだそうだ。水面に石を投げると、石が水面を滑るように飛んでいくのと同じ原理で、目標物に命中しやすく、また、加速もつくらしい。つまり実際には、神ではなく、技術の力がイギリスに勝利をもたらした。宗教をめぐる争い、というのは表向きで、テクノロジーこそが国力そのものだったのだ。

さて、困った。イギリス海軍の武勇伝、このエピソードでかなりおなかが一杯になってしまったので、貸してくれたDVDだけど、果たしていつか視る気になれるんだろうか。

画:久保雅子 www.masakokubo.com/

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