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プラチナ通り

秋に向け、その体力を蓄えている銀杏の樹が、緑々と整然と並んでいる。
暑さを微塵も感じさせない瀟洒な店々が、街行く人々の多少は羨望の眼差しを受けながら、さも涼しげに軽やかに立ち並ぶ。
東京・白金台、外苑西通り、通称プラチナ通り。
場所柄、高級でハイセンスな洗練された通りの造りとなっている。

「すごい店ばかりですね」
一緒に仕事に出た若い男性は、ため息が出そうな気の抜けた声で言った。
「まぁ、ほぼ縁のない店だし、入れなくても気にすることはない」
自分に言い聞かせるかのように私は言った。
「こんなんじゃ大金持ちしか住めないですね」
「それはそうだが・・・、おい、ここ曲がってみるぞ」
プラチナ通りを曲がり、細い路地に入った。

一本裏に入るだけで、その様相は一変する。
狭い道に、ぎっしりと小さな家々やアパートが建ち、電線がまさに網の目のように空中を行き交い、ゴミの回収箱が所々に置き去りにされている。
古い住宅街にありがちな風景そのものだ。
「あれ?なんか普通ですね」
「だろ?ここなら住めそうだろ」
「でも住所が白金台だし、これでも家賃高いんですよね、きっと」
「まぁ、こういう場所でもあるということだ。戻るぞ」
また道を曲がり、プラチナ通りに向かって歩いた。

もうすぐ地下鉄の駅。
「よし、入れる店に入ってみるか」
「え?どこです?」
目を輝かせ期待いっぱいの声で聞いてきた。
「あそこ」
正面の白い建物を指差した。
「・・・」
「入れるだろ?」
「・・・別に行きたくないです」
いつもは黄色と黒を派手に押し出した店の造りが、ここだけはプラチナを意識した白の造り。
一見してもわからない。
ようやく読み取れる『驚安の殿堂』の文字だけが、彼の行く気を失わせた。


頑張って働いて、誰かとプラチナ通りを歩けるようになればいい。
一応、心の中で思ってあげた。



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