【架空のバンドインタビュー記事】アマツミツキ

こんにちは。
最近はすっかり架空のバンドに夢中ですが、そのきっかけとなったのが次の記事でした。

柴山ヒロタカ様が執筆された素晴らしい記事です。
内容は、Twitter上で架空のバンドのアイデアに関する募り、それを参加バンドとして架空のフェスを開催するというもので、恐縮ながら私もこちらに寄稿させていただきました。
本稿は、私が寄稿させていただいた「アマツミツキ」というバンドのインタビュー記事です。早い話が補足資料ですので、まずは当該記事を読んでください。「ない」のに「ある」バンドたちが織りなす「音楽体験」を、まずは楽しんできてください。
読み終えた方で、「より深くこのバンドを知りたい」と思った方は、本稿をお読みください。
それではどうぞ。


「キツネたちはその沈黙をやぶる」

「ボカロP」と「芸大卒」の化学変化で生まれ、多様な音楽性でリスナーの心を「つまんで」いく4人組ロックバンド。それがアマツミツキだ。
メンバーチェンジと活動休止。新型肺炎による全国ツアーの中止とオンラインライブ。それらをブレイクスルーし、破竹の勢いで掴んだメジャーデビュー。そして、デビューアルバムを引っ提げての全国ツアー。バンドとして着実に進化を続けるアマツミツキの現在に迫った。

「こんな時くらい、マスの酒が飲みてえじゃないですか」

カゲロウロックフェスのステージ、拝見しました。海辺の開放感も相まって、皆さんの演奏もいつも以上に弾んでいたように思います。

小安「ありがとうございます。今回がフェス初参加でしたが、楽しんで演奏できました」
小糸「楽しんでって、あんた死ぬほど緊張してましたやん(笑)」
中野「この男、Rodysが「天気良いね」って言ってる時、轢かれたカエルみたいな顔してましたからね」
小安「つい数年前まで見る側だったのに、見られる側になるわけですから。緊張もひとしおでした」
加藤「ミスったらどついたろうと思って(小安を)見てましたけど、ミスらなかったですね」
中野「アツいな、加藤」
小糸「私は、揚げ蒲鉾のことばっか考えてました」
小安「とにかく、僕以外のメンバーはみんな楽しんでたみたいです、カゲロウロックフェス(苦笑い)」

皆さんの自由さや柔らかさが、楽曲に弾みや楽しさを与えているように感じました。

中野「だってよ小安」
小安「そこはありがとうございますで良いじゃないですか」
小糸「こんなに好き勝手やって褒められる仕事、ミュージシャンくらいですからね。ありがとうございます」
加藤「ありがとうございます」
小安「良い意味で力みがないというのは、アマツミツキの特徴だと思います。小糸さんや中野さんは、言ってしまうと結構適当に曲を作ってきますから(笑)」
中野「おい、語弊がある言い方をするな」
小糸「取り消せよ今の言葉」
小安「だって、「売り手」の時だってひどかったじゃないですか。この曲、元々は小糸さんが手グセで作ってきた曲なんですけど、アルバム内で対になる「買い手」もそういう曲だったんですよね。そこで、2曲の違いを出したかった小糸さんは、あえて中野さんに編曲を依頼したんです」
小糸「めちゃくちゃにしてくれって言ったやつだね」
小安「そうです」
中野「めちゃくちゃにしろって言われたので、めちゃくちゃにしました」
小糸「めちゃくちゃにされました」
小安「結果、今までにない面白い曲ができました。僕らに曲を聴いてくれるコアなファンの中には、中野さんが書いたの曲なのか小糸さんが書いた曲なのかを考えながら聴いてくださる方もいるみたいなんですけど、「売り手」はそういったリスナーを良い意味で混乱させた曲なんじゃないかと思います」

「めちゃくちゃにしてくれ」という言葉からも、メンバー間の信頼関係が見えてくるような気がします。

小糸「実際、「この人たちならなんとかしてくれる」と思ってやってるところはあります。ボカロPでやってた時とか、他のバンドでやってた時に諦めてたアイデアも、このバンドに振ったらなんとかしてくれそうな期待感はあります」
小安「その分、ついていくのは大変ですけどね。要求されるレベルは高いです。でも、だからこそ今がある。止めちゃいけないな、と思います。このスピードでいかないと」
中野「今日の小安くん、気合い入ってますね。授業参観で張り切っちゃう小学生みたいな」
小安「恥ずかしんでやめてください(汗)」
小糸「信頼って面でいくと、中野くんは小安くんと違う意味で信頼してます。中野くんはおもちゃ箱です。次はどんな面白いものが出てくるんだろうっていう。でも、毎回外さない」
小安「中野さんの持ってくるデモは、毎度度肝を抜かれます。今回はそう来たかって」
小糸「何食ったらあんなの思いつくの?」
中野「おにく」
小糸「そっか。わたしもおにくたべよ」
小安「春斗はどう?」
加藤「音楽の面では信頼してますよ。あくまで音楽の面では、ですけど」
小糸「お、一言多いぞ。いいぞ加藤」
中野「誰が私生活ベートーヴェンじゃい」
加藤「いいからお前は、黙って部屋を掃除しろ」

メンバー仲が良さそうで何よりです

(一同目を合わせる)
小安「仲は良いと思いますよ」
小糸「嘘つけ」
中野「仲は良いと思いますよ」
小糸「中野くんは一回黙ろう」
加藤「仲は、正直良くはないです。打ち上げとかやっても、中野なんかは行かずに帰ろうとしますからね」
中野「だって、帰りたいし」
小安「結局連れていかれるけど」
中野「あれ、マジで納得いってないからな」
小糸「中野くん、酔うとオモロいから」
中野「人をエンタメとして消費すな」
小安「酔った中野さんは、見境なく暴言を吐きます」
小糸「あれはエンタメ」
中野「記憶ないので実質暴言吐いてないです」
加藤「言霊ってあるぞ、中野」
小安「仲は良いと思いますよ。多分。きっと」

個性的なメンバーですが、どのように集まったのでしょうか

小安「元々は、中野さんが小糸さんを誘ったんですよね」
小糸「突然、Twitterのダイレクトメッセージがきました。あれは怖かったです」
中野「小糸はボカロP時代から一定の知名度があって、ファンもいたんですけど、中には厄介なファンもいたようで、私は完全にその類だと思われてたみたいです」
加藤「そうだろうな」
小糸「いきなりデモが2〜3曲送られてきて、「ニコ動に上がっているあなたの歌が良いと思ったので、バンドを組みませんか。僕は天才です」みたいな文言があって。そりゃ無視しますよね」
中野「小糸からは金の匂いがぷんぷんしたので、絶対捕まえようと思ってました」
加藤「それを厄介なファンっていうんだよ」
小糸「それから毎日、同じ文言とデモが送られ続けたので、これは埒あかないなということで、しょうがないから「デモは聴いてやるから少し黙れ」と言いました。そしたら、良かったんですよね、デモ」
中野「コロンビア(両腕を掲げるポーズ)」
小糸「それで、結成です」

他のお二方はどういった経緯で加入したんですか?

小安「僕は、小糸さんから突然連絡が来まして。バンドやらないかと」
小糸「一番断られなさそうな小安くんをまず誘いました。大学の軽音サークルの後輩だったんですけど。彼は真面目なので」
小安「え、そんな理由だったんですか?」
小糸「言ってなかったっけ?」
小安「初耳ですよ」
中野「好奇心は猫を殺すだな」
加藤「お前、何言ってんの?」
小安「実は、春斗に落ち着くまでにドラムは結構メンバーチェンジが激しくて、僕もこのままバンドを続けるべきか悩んだ時期もあったんですよね。でも、ここでやめたらこれから先もずっとダメだろうと思って、食らいつきました。その判断は間違ってなかったと思ってます」
小糸「ほら、真面目でしょ?」
小安「面と向かって言われると照れますね(苦笑い)」

加藤さんはどういった経緯で加入したんですか?

小糸「バイトやめると、やめた奴が次の新しいバイト連れて来いみたいな雰囲気あるじゃないですか? そういう感じで、やめたドラマーが連れてきてたのが加藤くんです」
中野「要は、ドラムガチャウルトラレアです」
加藤「話聞く限り面白そうなバンドだと思ったので、試しに一回くらい見てみようと思って、最初はすぐやめる予定でした。なんだかんだ居付きましたけど」
小安「なんでだろうね。加入してすぐやった飲み会で、中野さんとめちゃくちゃ喧嘩したのに」
加藤「だって、俺が食べたくて頼んだ唐揚げ、この人全部食ったんですよ」
中野「しゃあないだろ、草食えないんだから」
加藤「でもまあ、全員楽器うまかったんで。それが大きいですかね。言ったらやってくれる。たまにとんでもない難易度のデモ送られてきて腹立ちますけど」
中野「春斗くん、それは僕なりの愛ですぜ」
加藤「キモ、帰れ」
小安「君のその一言も雑誌に載るんだから、そんなこと言わないで」
小糸「お笑いの言葉使え」

話は変わりますが、初参加となったカゲロウロックフェスはいかがでしたか?

小糸「小安くんが緊張してました」
小安「その話はもう良いじゃないですか」
小糸「冗談はさておき、素直に良いフェスだと思いましたよ。海沿いっていうのは単純に気持ちが良いです。ご飯もおいしかったし」
小安「完全に観客目線じゃないですか...」
小糸「私は揚げ蒲鉾のことばっか考えてたので...演者としては、お客さんのノリが良くて助かったなという感じでした。結構、やりたい曲ガシガシ詰め込んだ感じのセトリでしたけど、盛り上がってくれて良かったですね」
小安「それは僕も同感です。カゲロウロックフェスのお客さんは本当に音楽が好きな方が多くて、こちらがやった分だけ答えてくれるような、そういう感覚がありました」
中野「あんなに緊張してたのに感覚あったんだな」
小安「ありますよ...中野さんはどうでした?」
中野「なんか、ずっとカレーの匂いしてたよね?」
小安「カレー?」
加藤「近くにカレーの露店ありましたよ」
中野「やっぱそうだよね?良かったわ。腹減りすぎて幻覚見てたのかと思ってた」
加藤「匂いは「見ねえ」よ」
小糸「それで、結局お昼は何食べたの?」
中野「おにく」
小糸「そっか〜、おにくか〜」
小安「食べ物の話はそろそろやめましょう。中野さん、演者としてカゲロウロックフェスはどうでした?」
中野「途中、鍵盤が浮遊した瞬間があった記憶があるので、多分気持ち良くできたんじゃないですか?」
小安「あ、中野さんは気持ち良くなると鍵盤が浮いて見えることがあるみたいなんです」
中野「申し訳ないですけど、いつもライブの記憶ないんですよね。ボクサーが試合の記憶ないみたいな感じで。全国ツアーやらせてもらった時も聞かれたんですけど、そこでも鍵盤浮いたしか言えなかったです。今回はカレーの匂いがずっとしてた印象が強かったのもあって、やっぱそれしか言えないです。ごめんなさい。カレロウロックフェスって感じでした」
小糸「カレロウロックフェスらしいです」
小安「中野さんの鍵盤が浮いてるのはゾーンに入っているような時だけなので、中野さんをそういう状態にさせるという意味でも、素晴らしいフェスなんだと思います」
加藤「無理のあるまとめ方だな」

セットリストはデビューアルバム「きつねのマスいり」からの選曲が多いように感じました

セットリスト

1.きつねのよめいり
2.アッパー
3.売り手
4.コンとして混沌
5.買い手
6.きつねのマスいり

加藤「ほとんどがマスいりからでしたね」
小安「セットリストはいつも小糸さんが選んでるんですけど、今回マスいりの曲多くしたのはどういう意図だったんですか?」
小糸「フェスですから。こんな時くらい、マスの酒が飲みてえじゃないですか」
中野「マスの酒がうめえ」
小糸「マスいりって、表は「大衆とアマツミツキ」みたいなテーマなんですけど、実は裏のテーマがあって。祝福みたいなニュアンスなんですけど」
小安「ツアータイトルが「マスの酒がうめえ」なのもそういう意味なんですよね。音楽を気兼ねなく楽しめる瞬間を祝福しようという思いを込めて。祝い酒のイメージです」
小糸「前作の「ばかしちらかし」は、祝福とは対照的に、「傷を傷として受け入れる」みたいなニュアンスで作ってたので。でもやっぱり、酒はうまいしフェスは楽しいんです。そういう場に相応しいのは祝福だと思うんですよね。音楽が生活に近い芸術だからこそ、非日常としてのフェスが映える。日常が戻ったからこその非日常。そういう場としてのフェスを祝いたかったんです」
中野「今日、初めてまともな話になったな」
加藤「水を差すなよ」
小糸「私、たまにしか真面目な歌詞を書かないんですよね。多くの人は、例えば電車に乗りながら音楽を聴くわけですから。肩肘張った歌詞って意外に流行らないんじゃないかと思って、あえて好きに書くようにはしてますね」

最後に、今後の展望を聞かせてください

中野「億万長者になること...?」
小糸「まあ、金の匂いに釣られてバンド組んでるもんね」
中野「人を果物トラップにかかったカブトムシみたいに言いやがって」
加藤「億万長者になるならもっと別の方法あるだろ。FXとか」
小安「展望と言われると難しいですね。これまで、今できる最善を尽くしてきたようなイメージなので。これからもそうでしょうし」
中野「セツナ的だ」
小糸「でもやっぱり、死ぬまで音楽やってたいとは思わないですよ。良いタイミングで綺麗にやめたいとは思ってます」
中野「億万長者になるまではやめるなよ。なったらやめるけど」
加藤「やる気ねえなこのバンド」
小糸「元々はこんなところまでいくつもりで始めたバンドじゃなかったからね。言ったら、最初からずっとボーナスステージみたいな」
中野「稼ぐだけ稼ぐか。このボーナスステージ」
加藤「全然展望喋らないなこのバンド」
小安「でも、この肩肘張らない感じがアマツミツキらしくて良いんじゃないですか。その時々で大変な出来事もあると思いますけど、為せば成るの精神で、風に吹かれながらやっていければ良いのかなと今は思ってます」
小糸「根を詰めて嫌になったら元も子もないからね。そんな柄じゃないし」
中野「良いこと言ったぞ、小安。このまま適当にやって音楽で飯食うぞ」
小安「語弊しかないですよ中野さん。炎上しますよ」
中野「インビュアーさん、これ(手をチョキの形にする)で」
小糸「いや、罪と罰です。採用してください」
中野「そんな、ひどい」
加藤「泥舟に乗ったつもりで、これからも頑張ります」

後書き

「カゲロウロックフェス参加アーティスト特集」。第6弾となった今回はアマツミツキのインタビューをお送りしました。
本企画はアーティストの自然な姿を読者にお届けしたいとの意向で、アーティストの皆さんには「なるべく自然体で」とお伝えしているのですが、今回のアマツミツキは自然体がすぎて、逆にこちらが圧倒されました。
ゆるい雰囲気でぽてぽてとおかしみのある言葉を紡いでいく小糸さんと、時折喋って「節」を見せて去っていく中野さん。それに辛辣なツッコミを入れる加藤さんに、まとめ役の小安さん。スタジオでもこんな風に曲作りをしているのだろうなという想像が、容易に広がりました。
カゲロウロックフェス前にアマツミツキの楽曲はある程度聴きましたが、やや尖った奇抜な音楽性の割に、どこか柔らかい、抜けたような雰囲気を感じました。そしてフェスのステージで彼らを見た時もその印象は変わらず、不思議なバンドだなと漠然と思っていましたが、今回のインタビューを通して、彼らの根底にある柔らかさが曲にアウトプットされているのだと気がつきました。その柔らかさを否定しないという共通認識が言わずともあるのも、個人的には好感が持てるポイントでした。
また、結成経緯やメンバー仲の話を聞いていると、本当に奇跡的なバランスで続いているバンドなのだと感じました。双方の距離は比較的近いですが、それ以上は近づきすぎず、それぞれのプライベートスペースには過干渉しない、絶妙なバランスを保っているように感じました。インタビューの中で、それぞれの音楽的なセンスを明確に信頼していながら、それはあくまで音楽に限った話であることが言及されていました。バンドに限らず、そうした距離感を保つことこそが、組織を長続きさせるコツなのかもしれないと思いました。
今回のインタビューでは、あまり彼らの音楽性を掘り下げるに至りませんでしたが、楽曲の質はホンモノです。メンバー固定後、わずか3年でメジャーデビューの切符を掴んだという事実がそれを物語っています。彼らの中に現時点での明確な展望はないようですが、私も1リスナーとして、彼らの「肩の力が抜けた」音楽を楽しみに待つことにします。
次、「きつね」に頬をつままれるのはあなたかもしれません。
彼らの「ばかしちらかし」は、まだ始まったばかりです。

文、構成、取材:影六郎

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