【ARI】さようなら、俺たちのバムガーナー
はじめに
こんにちは。私は4月、相次ぐコンテンダーとの戦いを無事5割以上で乗り切り勢いに乗るD-backsを尻目に回収率10%前後の低空飛行を続けております。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
さて、好調な滑り出しを見せたチームにあって、私の馬券成績と同じように低空飛行を続けていたある大投手がついに、チームを去ることになりました。
その名は、Madison Bumgarner(マディソン・バムガーナー、以下バムガーナー)。かつて、全盛期のジャイアンツにてエースとして君臨したサウスポー。そして、D-backs投手陣を支える柱として期待された男です。
日本時間の4月21日(現地20日)、Arizona RepublicのNick Piecoro氏ら複数の記者が、バムガーナーのDFAを伝えました。バムガーナーはこのあと4月27日にはリリースされることが発表。正式にD-backsから去ることになります。
2020年に始まった彼とD-backsの契約は、文字通り苦難に満ちたものでした。誰もが「こんなはずじゃなかった」と呻くように呟き、「今年こそは復活するんじゃないか」と淡い期待を抱いてきました。しかし、ついぞその想いを晴らすことなく彼はアリゾナから去ることとなりました。
今回の記事ではD-backsが彼と結んだ契約を簡単に振り返りつつ、契約解除の意図、そして今後の展開について、報道を元にまとめていきます。
期待と希望に満ちた契約(2019年)
それは、D-backsにとって大きな事件でした。2019年12月17日、D-backsの公式Twitterアカウントは当時FAとなっていたマディソン・バムガーナーとの契約を発表しました。
この契約は、いくつかの意味で大きな意味を持っていました。
まず、一つはチームが2020年にコンテンダーとして振る舞う意思表示であったということです。以前の記事でも触れましたが、2019年のD-backsは新戦力の台頭もあり、FAで主力が抜けた中プレーオフまであと一歩という戦いを見せました。否が応でも2017年以来のプレーオフ進出、さらには2011年以来の地区優勝……はちょっときついかもしれませんがが期待されていました。
また、当時のD-backsはZack Greinkeをトレードで放出していました。Robbie Ray、Zac Gallen、Merill Kelly、Mike Leake、Luke Weaverとある程度計算できる(はずの)駒は揃えていたものの、MLBでの経験・実績を考えればGreinkeの穴を埋められるほどの人材はいません。加えてRayとLeakeはFAが迫っていましたから、先発投手陣のリーダーとなれるような投手が必要とされていました。バムガーナーは、その穴を十二分に埋められる選手だったと言って間違いないでしょう。
最後に、バムガーナーは同地区のライバル・ジャイアンツのエースでした。当時ジャイアンツ自体はかなり戦力を落としていたものの、それでも2010年代に猛威を振るったジャイアンツのエースを獲得できたことは、ファンにとって大きな出来事だったと思います。
とにかく、様々な意味でバムガーナーは大きな期待を背負っていました。再びコンテンドを目指す上で、これ以上ないピースの1つになるはずだったのです。
失意と苦悩の中で(2020~2022年)
しかし、2020年の開幕からその期待は見事に破れることとなりました。新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、バムガーナーの初登板は7月24日のシーズン開幕戦となりました。
この日のバムガーナーはパドレス相手に5回2/3を投げ3失点。これだけを見れば及第点の投球です。ただ、そんな結果よりもはるかに大きな問題がありました。
球速が、明らかに遅かったのです。
Fangraphsのゲームログによれば、この日のバムガーナーはストレートの平均球速が87.9mph(約141.5km/h)。前年の91.6mph(147.4km/h)を4mph近くも下回っていました。シーズンを通してストレートの球速が出ない状態は続き、最終的にシーズン平均は88.4mph。さらにストレートのWhiff%(空振り/スイング)は8.4%と、前年を13%も下回る惨状でした。
ただ、バムガーナーはそもそもストレートの威力でねじ伏せるタイプの投手ではありません。その独特のフォームから繰り出されるストレートとスライダー(カットボール)を主体に、複数の変化球を交えた投球術で相手打者を幻惑する、技巧派寄りの投手です。このようなタイプの投手は多少球速が衰えてもある程度のクオリティを維持できることが多いですし、実際バムガーナーも2015年頃の全盛期からは球速を落としながらも、ある程度の質を維持していました。
ただ、結果として見るといくらなんでも平均球速88mphは遅すぎたということでしょう。徐々に打ち込まれる試合が増え、最終的には9先発で防御率6.48、fWARは-0.6。シーズン前に背負った期待からは遥かにかけ離れた、極めて厳しい内容で移籍初年度を終えることになりました。
ストレートの威力不足はこの後も退団するまでの間、バムガーナーを悩ませ続けることになります。2021年には多少改善したものの、高速化とトラッキングデータの発達による打者のレベルアップが続く中では焼け石に水でした。2021年、2022年はともにほぼ年間通してローテーションを守ったものの、残したfWARはそれぞれ1.5、0.5。期待された結果からはほど遠いものでした。
しかし、バムガーナーもただ手をこまねいていたわけではありません。カットボールやストレートが主体という部分は変わらなかったものの、チェンジアップやカーブを増やすなどして、試行錯誤を続けていました。これまでのような投球はできないなりに、打開策を探し続けていたのです。
一方で、彼は再びハイレベルなエースに返り咲くことを諦めていたわけではありませんでした。2022年7月15日のパドレス戦、バムガーナーのストレートは初回最速94.7mph、回転数も2400半ばを記録しました。本人曰く「過去7年間でこれだけの球速を出したことはなかった」という熱投で、5回を投げ自責4と、結果こそ振るわなかったものの、投球のほぼ半分を占めたストレートのWhiff%は25%。少なくとも空振りを奪うという面では全盛期の威力を取り戻していました。
ただ、降板後の彼はただひたすらに苛立ち、悩んでいたようです。なぜ、あれだけの球を投げられたのに打たれたのか?と。当時の記事から彼の発言を引用しましょう。
キャリアハイとなるfWAR4.9を記録した2016年を最後に、バムガーナーの年間平均球速が92mph台に乗ることは一度もありませんでした。そもそも、試合単位で見てもこの7月15日を上回る平均球速(92.6mph)を記録したことはわずかに2度だけ。一度は2017年4月2日のD-backs戦(93.2mph)、もう一度は2019年5月23日のブレーブス戦(92.7mph)でした。
前者で彼はこの年プレーオフに進出したDbacks相手に7回11奪三振無四球(3失点)の快投を披露し、後者でもこの年97勝を挙げたブレーブスを6回6奪三振2四球2失点の好投を見せています。全盛期の威力を取り戻したに相応しかったこの一戦で思うような結果を残せなかったことは、彼の苦悩をより深めたことでしょう。そしてこの日を最後に、バムガーナーの平均球速が92mphを上回ることはついにありませんでした。
もし彼がこの時好投を見せていればたどり着く場所は変わったのでしょうか?私はノーだと思います。1試合本来の力を取り戻したから、その後も快投が続くなんてそんなゲームのようなこと、あるとは思えません。ただ、一方で、思うのです。この日彼が快刀乱麻の投球を見せていれば、何かを取り戻すことができたのではないかと。移籍してから苦悩の中にあった彼を再び蘇らせるきっかけになったのではないかと。論理的でも科学的でもありませんが、なんとなくそう思ってしまうのです。
2021年以降、再建期に入ったチームにあって粘り強くローテーションを守り、若手投手の損耗を防ぐその投球は、決して契約時に期待されたものではありませんでした。ただ、バムガーナーはどれほど打ち込まれても、どれほど失望されても、マウンドに上がり、ローテーションを守り続けました。
それは、6年連続で200イニング以上を消化し続けた2010年代を代表するエースの、矜持がなせるものだったのかもしれません。
そしてついに(2023年開幕)
こうして苦しみの中迎えた2023年のスプリングトレーニングで、バムガーナーはオフシーズンに体重を絞り込んでいたことが報道されました。例年であれば107kg(240lbs)から117kg(260lbs)の間で調整する体重を、ほぼ107kg前後にしてシーズンに挑んだというのです。
前年、若手が次々に台頭し、いよいよ再びコンテンドを目指すシーズンを迎えたD-backs。バムガーナーは長年務めた開幕投手ではなく、先発3番手としてシーズンを迎えることが濃厚でした。Zac GallenやMerill Kellyが先発の柱となり、チーム内のみならずMLB全体でも注目される若手が次々とMLB昇格を果たす中、彼の立場は今までになく危うくなっていたのは間違いありません。チームとしても、そしてバムガーナーとしても、大きな勝負のシーズンでした。
しかし、その悲壮な覚悟がついぞ実ることはありませんでした。
4月2日、初先発となったドジャース戦でバムガーナーは初回から5失点を喫する大炎上。4回を投げ、2奪三振4四球5失点という厳しい内容でマウンドを降りました。この日の平均球速はわずか89.2mph(143.5km/h)。前年と比較して大きく球速を落としていました。この後3登板しますが状態は上がらず、4試合を投げ、16 2/3イニングで10奪三振15四球。とてもローテを守る投手とは思えない投球が続く中、ついにDFAの決断が下されることとなります。
この決断は監督のTorey Lovullo(トーリ・ロブロ。以下ロブロ)としても、GMのMike Hazen(マイク・ヘイゼン。以下ヘイゼン)を中心としたフロントとしても望んだ結論ではありませんでした。なんとかバムガーナーに復活してもらい、ローテーションの一角を占めてほしい。そんな思いが報道からは垣間見えます。
そもそも、ヘイゼンはバムガーナーの放出を(外部から噂されつつも)今年のスプリングトレーニング終盤までほとんど検討していなかったようです。監督のロブロにしても、3度目の登板で5イニングを投げ、5失点を喫したバムガーナーを次回も先発させる方針であることを報道陣に語っていました。チームとしては、最後の最後までバムガーナーを信じていたのです。
フロント内では先発はダメでもリリーフなら、と配置転換も検討されたようでした。少なくとも、DFAよりは簡単で、安全な決断だったでしょう。しかし、彼らは最終的に下したのです。「バムガーナーはロースターの13人には入らない」と。
バムガーナーにとっても苦悩の続くD-backsでのプレーでしたが、それはヘイゼンにとっても変わりませんでした。なぜこの契約は上手くいかなかったのか、という記者の問いに対し、ヘイゼンの答えは以下のようなものでした。
3年半前、期待と希望に満ちていたはずだった大型契約は今、失意と苦悩の中で終わりを告げることとなったのです。
これから
先日の報道通り、他球団からクレームがなかったバムガーナーは正式に放出されることとなりました。この記事を書いている5月2日現在、まだ獲得に手を挙げる球団は現れていません。ただ、彼のような実績ある投手を最低年俸で獲得できる状況となれば、投手不足のチームが動く可能性は十分にあります。近いうちに獲得報道が出るのではないでしょうか。
一方、D-backsはバムガーナーが抜けたローテの枠にTommy Henryを起用。さらに、AAAで結果を残しているトッププロスペクト・Brandon PfaadtをMLB昇格させる方針であることも報道されました。
現状、D-backsのローテは盤石からはほど遠い状況です。期待されたRyne NelsonやDrey Jamesonは不安定な状態が続いており、GallenやKellyに続く先発は流動的です。とはいえ、AAAではSlade CecconiやBryce Jarvisといったプロスペクトが結果を残し始めているのも事実。どちらにせよ、バムガーナーの居場所はもう残されていなかったと言えるでしょう。
そして、皮肉なことですが、かつてコンテンドするチームの柱となるはずだったバムガーナーの放出は、D-backsが今季本気でプレーオフを狙う、というこれ以上ないメッセージとなりました。バムガーナーの契約はまだ3700万ドルが残っていました。スモールマーケットのD-backsにとっては決して小さな金額ではありません。リリーフで起用し、年俸をある程度負担しながら他球団に引き取ってもらうという選択肢も取れたはずです。それすらもしなかったということは、一切の妥協なく勝利を追求するという意思表示と言えるのです。この姿勢自体は、大変喜ばしいことと言えるでしょう。
今後、D-backsがどのようなシーズンを過ごすのか、それはわかりません。ただ、今回の決断は間違いではなかったと、そう思えるようなシーズンを送って欲しいと思います。
データ参考
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