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【エッセイ】ロンドンから持ち帰ったのは指定難病でした。

※本記事は潰瘍性大腸炎の具体的な病状に関する記載を含みます。恐縮ながら、どうぞ飲食を終えてからお読みください。食欲をなくしても、食事が美味しくなくなっても責任は取りません。

先日、内閣総理大臣の安倍晋三さんが慶應義塾大学に通院した報道を受けて、この記事を書きました。

せっかくなので、自分の発病や闘病生活について、この記事から切り取って詳しく書いていこうと思います。なお、本稿に記載の内容は私の体験に過ぎません。類似する症状があれば、必ず医療機関を受診してください。

ロンドンで下痢と血便に襲われ、ついには下血

昨年の12月、もしくは今年の1月くらいのことだったと思います。留学で滞在していたロンドンで、頻繁に下痢をするようになりました。おそらく皆さんもそうであるように、今までも一定の頻度で下痢をすることはありました。

当初はロンドンの水や食事が合わなかったのか、それともストレスが溜まっているだけかと思い、大して気にも留めませんでした。「どうせ1週間もすれば落ち着くだろう」と、舐めてかかっていました。しかし、実際には下痢のみならず、排泄のときにトイレットペーパーに血が付いたり、お尻から膿が出たりするという症状にまで発展しました。しかも、症状も長いこと続きました。

それでも、現地の医療機関で病状を英語で説明するのも面倒くさいのと、日本人向け医療機関(日本人の医師やスタッフがいて、日本語での診察を受けられる医療機関)もロンドン市街地から離れていて不便だったので、しばらく受診を躊躇っていました。これが大きな間違いでした。

パリ市内で「刺されるような腹痛」に襲われる

2月下旬から3月初頭にかけて、土日を利用してフランスのパリを訪れました。4月中旬に予定されていた「ロンドンキャリアフォーラム」の説明会に参加して、ついでに市内を観光する予定でした。

パリはロンドンから飛行機や鉄道(ユーロスター)で簡単に行ける距離にあり、土日だけでも十分に楽しめます。

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説明会の途中でも、お腹が痛くなってトイレに駆け込んだことを記憶しています。当時、もはや腹痛でトイレに駆け込んで下痢をするのは日常茶飯事と化していました。

そして、ロンドンに戻らなければならない日曜日の朝、私はホテルのトイレで腹痛に苛まれました。しかも、明らかに尋常ではない腹痛。まさに「刺されるような痛み」でした。もっとも、人生において母親に包丁を向けられたことはあれど、幸いにして「刺された」ことはありません。

ようやくロンドンで通院、もっと早く受診しておけば良かったと後悔

しばらくして腹痛も落ち着き、なんとかロンドンに戻ると、その翌日(月曜日)にロンドン市内北部にある日本人向け医療機関を受診しました。症状を説明していくと、みるみる医師の表情が曇っていき、血液検査と、人生で初めての検便をすることになりました。結果は翌週の月曜日に分かるようでした。

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さらに翌日(火曜日)にはロンドン市内の自宅で再び刺されるような腹痛に襲われ、何度トイレに行っても痛みは続き、遂には黄緑色の液体(おそらく胆汁だったと思います)すら出てくるほどになりました。

実はその時期に大学は教職員のストライキで休みに陥っていて、大阪に住んでいる友達がハンガリーのブダペストに来るというので、暢気なことに、木曜日から日曜日まで現地を訪れる予定でいました。

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そして、その木曜日にロンドンを発ってトランジットのミュンヘンに滞在。しかし、翌朝、ブダペスト市内で日本人観光客が拘束されたとの情報が入り、友人も大阪からの渡航をキャンセルしたため、ミュンヘンからロンドンに引き返しました。時期はちょうど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が欧州で猛威を振るい始めたタイミングでした。

検査結果によると「非感染性の胃腸炎」

翌週には検査結果が告げられました。どうやら血液検査によると炎症マーカーの値が高い一方で、検便では病原体が検出されなかったことから「非感染性の腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病のいずれか)」として、内視鏡検査を要するとのことでした。

しかし、その医療機関で内視鏡検査の予約は5月初頭まで埋まっていました。ちょうど3月下旬から4月中旬までの春休みで一時帰国を予定しており、ともすれば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で英国が入国制限を始めていたり、飛行機が飛ばなくなっていたりする可能性も否定できませんでした。

また、その医療機関で内視鏡検査を担当しているのが台湾人医師で、コミュニケーションが英語となることから、症状を細かなニュアンスまで含めて伝えたり、納得いくまで質問したりする際に、やはり不安がなかったと言えば嘘になります。

そこで、一時帰国を利用して、日本国内で内視鏡検査を受ける運びとなりました。なお、この一時帰国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う入国制限で、3月下旬から3月中旬に数日ほど前倒しになりました。

ちなみに、ロンドンからは5台のスーツケースを手に帰国しました。

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日本に帰ってきたら「潰瘍性大腸炎」の診断

東京都内で潰瘍性大腸炎に強そうな医療機関を探して、炎症性腸疾患(IBD)センターを要する慶應義塾大学病院を受診することにしました。奇しくも、内閣総理大臣の安倍晋三さんが潰瘍性大腸炎で通院している医療機関です。

英国から帰国したばかりということもあって、待合室も個室だったり、案内スタッフが付いたりと、良く言えば「VIP」、悪く言えば「要注意人物」としての待遇でした。そして、初診で事情を伝えて日程を調整すると、4月初頭に大腸内視鏡検査を受ける運びとなりました。

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そして、その大腸内視鏡検査の翌週に、潰瘍性大腸炎の確定診断を受けました。なお、この潰瘍性大腸炎は厚生労働省が指定する「難病」の一つです。

同時に、第一選択薬の「ペンタサ」を処方されました。

「ペンタサ」を飲むほどに悪化する症状

当時の私は下痢や血便に悩まされていました。トイレに行ってお尻を拭けば、必ずと言って良いほど赤い血が付着していました。この症状が改善されるかと思って、処方された「ペンタサ」を飲み始めたところ、その症状はさらに激化して、さらにはゴルフボールくらいの膿が出てくるほどになりました。

さすがにおかしいと、改めて通院して医師に相談したところ、改めて血液検査をしてみたら、「ペンタサ」へのアレルギー反応が確認されました。そこで、いったん「ペンタサ」で悪化してしまった症状を抑えるために、ステロイド剤の「レクタブル」を投与することになりました。5月にレクタブルを数週間分も処方されたときはには大きな袋に入っていて、もはや「おみやげ」、なんなら「結婚式の引き出物」かと思わされました。

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それでも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で授業がオンライン移行したことで、日本国内で安心して治療を受けられる運びになりました。

お尻からステロイド剤「レクタブル」を注入する日々

この「レクタングル」は「注腸フォーム剤」で、座薬のようにお尻から薬剤を注入します。「フォーム剤」との名前の通り、シェービングフォームのようなきめ細かい泡が出てきて、液体のように流れることなく直腸に残って効果を発揮します。

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しかし、あいにく私は肛門に物を挿入したことがなく、最初は苦戦しました。いまでは幸か不幸か慣れてしまっていますが、当時はWebで検索したところローションを使うと挿入しやすかったとの体験談を見つけ、わざわざローションを買って使っていました。

さらに、ステロイド剤ということもあって、当初は不眠や頭痛といった副作用の数々にも悩まされました。

安倍さんも使った「アサコール」にもアレルギー反応

いったん、「レクタブル」で症状を抑え、ひとまず別の5‐アミノサリチル酸(5-ASA)製剤である「アサコール」を少量ずつ、試験的に使ってみることにしました。というのも、「ペンタサ」と「アサコール」で違う部分にアレルギー反応を起こしている可能性もあり、もしかすると「アサコール」なら使えるかもしれない、という理由でした。

しかし、この「アサコール」でも、アレルギー反応を起こしてしまいました。

ちなみに、「ペンタサ」を含む5‐アミノサリチル酸(5-ASA)製剤にアレルギー反応を起こす可能性は約2%だそうです。我ながら「レアキャラ」ですね。

「アザニン」で「肉を切らせて骨を断つ」

5‐アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が使えないということで、免疫抑制剤の「アザニン」を使っていくことになりました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大が報じられている時勢であり、しかも、実はアザニンにも発がん性のおそれがあるとされています。それでも、潰瘍性大腸炎を放置すれば大腸がんの発症リスクが高まります。

もはや「肉を切らせて骨を断つ」戦法で潰瘍性大腸炎と闘っていくしかありません。

これから、どうするんだろう

いまのところ夏休み明けにロンドンへ戻って、授業を受ける予定でいます。でも、現地で治療を受けながら授業を続けることに、一切の不安がないと言えば嘘になります。

他にも、実は病気を揶揄されたこともあります。海外生活と闘病生活を両立した人を探している旨をFacebookで綴ったら、以前に私に粘着してきたNewsPicksユーザーさんがネチネチと嫌みったらしいコメントを寄せてきたこともありました。

(2021年2月16日追記)さらに、安倍さんと同じ病気ということで、有名な軍事ジャーナリストから誹謗中傷・個人攻撃を受けるに至りました。

「難病」という足かせを嵌めながら海外で過ごしていかなければ将来に、やはり不安は拭えません。将来は交換留学や大学院修士課程への進学を考えているものの、大学院を選ぶときにも、他の学生以上に現地の医療体制を念頭に置かなければなりません。

それに、先日もオンラインOB訪問の途中で腹痛に見舞われて中座したこともありました。将来、インターンシップや就職活動を持病で狂わされるときが来るかもしれません。

考えるほどに、いらない「お土産」をロンドンから持ち帰ってきたものだと思わされます。

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