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#81既存薬や種々の知見の蓄積により、重症化・重篤化が抑えられている件について

(本記事は2020.9.26に書きかけで放置していたので、一部追記した部分を除き、記事の内容は当時のものです)

依然、コロナが世界各地で猛威を振るっていて、感染者が減るどころか、増え続けています。

一方で、例えばニューヨークなど、感染者の増加は止まらないものの、重篤化したり死亡したりする例は減少しているようです。

これはひとえに、既存薬を使った治療など、多くの知見が蓄積され、一時期の対処不可能な疾病ではなくなりつつあるという兆候であると思われます。

発展途上国や資金力の乏しい国々では依然として高い致死率を保って推移していく可能性はあるものの、比較的安価な既存薬によってある程度対処できるのであれば、やはり良い兆候と言えるのではないでしょうか?

さて、今日は、そんな既存薬に関するニュースを取り上げたいと思います。

新型コロナに効果があると考えられる薬剤は多数ありますが、うち、特に検証が進んでいるいくつかの薬剤について、その内容を以下に引用します。

ステロイド剤デキサメタゾン

COVID-19の治療法の有効性を検証する数多くの試みの中でも、早いうちから成果を上げているのが、英オックスフォード大学を拠点に進められている「COVID-19治療無作為化評価(通称RECOVERY)」試験だ。

現在、試験の対象となっている薬の一つに、ステロイド剤のデキサメタゾンがある。COVID-19は過剰な免疫反応を引き起こすことがあるが、他のステロイド剤同様、デキサメタゾンにはそうした反応を鈍らせたり、緩和したりする効果がある。

2020年6月16日に、研究チームはデキサメタゾンに関する初期の結果を発表した。それによると、酸素吸入や人工呼吸器を必要とするCOVID-19患者において、デキサメタゾンは標準治療のみの場合と比較して、死亡する割合を3分の1ほど減少させた。酸素吸入を必要としない軽症の患者に対しては、デキサメタゾンの有効性は認められず、逆に症状を悪化させることもあるというが、最も重篤な症例においては、デキサメタゾンは生命線となる可能性がある。

この研究は、7月17日付で学術誌「New England Journal of Medicine」に正式に掲載されている。
6月25日、米感染症学会は、デキサメタゾンを条件付きで推奨するよう治療ガイドラインを更新し、米国立衛生研究所も独自のガイドラインについて同様の変更を行った。厳密には米食品医薬品局(FDA)が承認する治療薬ではないものの、デキサメタゾンは、COVID-19の生存率を高めることが示された最初の治療薬となった。

吸入型治療薬インターフェロンベータ

COVID-19の治療法の探究において、早い時期に発見された成果としては、回復期間をわずかに短縮できる抗ウイルス薬のレムデシビルがある。一方で研究者らは、体の自然な抗ウイルス反応を増強する方法も模索している。中でも有望な候補が、免疫系のサイトカインの一種であるタンパク質のインターフェロンベータだ。

通常、細胞がウイルスに感染すると、細胞は多くの種類のインターフェロンを放出して、近隣の細胞が防御のスイッチを入れて、さまざまな抗ウイルス化合物を産生するよう促す。ところが新型コロナウイルスは、こうしたインターフェロンによる罠をすり抜けるのが得意なようで、その結果、肺での初期反応が完全には活性化されず、ウイルスが大暴れしてしまう。

この点に注目したのが、英のバイオテクノロジー企業シネアジェンだ。シネアジェンは長年にわたり、重度の喘息(ぜんそく)や慢性閉塞性肺疾患の患者がウイルス感染症を撃退するのを助ける、インターフェロンベータの吸入型ミストを開発してきた。

7月20日、投資家向けのプレゼンテーションで、同社は101人の入院患者を対象とした無作為化試験の結果を発表した。それによると、インターフェロンベータを投与された患者は、標準治療を受けている患者に比べて、死亡したり、侵襲的な人工呼吸(気管を挿管するなど体に負担のかかる人工呼吸)を必要としたりして重症化する割合が79%減少した。また、インターフェロンベータを投与された患者は、回復した数も多く、息切れも減少しているという。

「率直に言って、この治療法の効果の高さには驚かされました」と、英サウサンプトン大学の免疫薬理学者で、シネアジェンの共同創設者でもあるスティーブン・ホルゲート氏は述べている。「ウイルスが肺に蔓延しつつある初期段階でこの薬を投与した場合、高い効果が得られるだろうということはわかっていました。しかし、今にも人工呼吸器をつけようかという患者にも効果を発揮し、回復を加速させることができたのです」
一方で、インターフェロンの使用はタイミングに依存するという別の研究もある。これによると、投与が遅すぎる場合、効果が低いか、あるいは末期の患者では炎症を増幅させることもあるという。

各薬剤の働きと投与タイミング

上記で紹介した薬剤の働きと適切な投与タイミングについて、簡単な図にしてみました(^^)

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箇条書きでまとめると、

①インターフェロン等の免疫活性剤は、感染初期にはウイルス排除に有効である一方で、感染後期、特にサイトカインストームが起きるタイミングでは逆に症状を悪化させる可能性がある

②デキサメタゾン等の免疫抑制剤は、感染後期には免疫の暴走を抑えることが期待される一方で、感染初期では望ましくない効果を引き起こす(正常な免疫応答が起きない)可能性がある


免疫系はこのように、活性化と抑制のバランスで成り立っているため、これらに作用する医薬品の投薬タイミングはシビアだと思われます。

いま、種々の医薬品が投与されいくつかは効果が出ていますが、投与タイミングによっては期待した効果の正反対になる可能性があり、薬のメカニズムを勘案して適切なタイミングとすることが非常に重要と考えられます。

そういった背景も踏まえて臨床試験がデザインされることを望みますし、同様の観点から、試験結果についてしっかりと検証していただきたいと思います。

(2021.1.13追記)
先日の記事にも書きましたが、免疫応答のトリガーであるIL-6の働きを抑える抗体(=アクテムラ)をコロナ重症者に投与した結果、死亡率が低下した、という結果が報告されました。このアクテムラ(抗IL-6抗体)は、②と同じように免疫系の暴走を抑制する働きにより死亡率が低下したと考えられます。この結果をもとに、英国では医薬品として承認、投与が開始されるとのことです。

今日の記事が参考になれば、「スキ」を押していただけると嬉しいです。

それではまた!

<了>

#コロナ #重症化 #既存薬 #免疫抑制剤 #デキサメタゾン #免疫活性化 #インターフェロン #IL6 #アクテムラ

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