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竜とそばかすの姫 感想 前半ネタバレ無し 後半ネタバレ有り

感想を共有したい人、もやもやする人向けに書きました。

■ネタバレ無し

①思春期の高校生の過去や心に抱えている傷まで映像として見せて深掘りする数少ない長編アニメ

②細田作品の魅力
 魅力の1つとして、メインキャラの過去~現在を視聴者が観た上で、そのキャラが下す最終的な決断にあると思います。
 今作も前後半30分はこの魅力が詰まっていました。
 個人的には中盤の脚本でメインキャラの主観で深掘りしてほしかった。①を描くなら尚更してほしかった(細かいとこはネタバレ有で)

③家族について
 今までの細田作品では血の繋がりのある家族とは強い絆があり、向き合っていく、切っても切れない縁として描かれていたのですが、今作は新しい形を描いていると思います。

④絵、音楽
 めっっっちゃ良かったです。


■ネタバレ有り

目次
①ネットの誹謗中傷について
②日本の村社会
③今作の2つのテーマについて
④美女と野獣のオマージュ作品
⑤残念だった点(物語中盤)

①ネットの誹謗中傷について
 今作の最も良かった点として、細田守監督の経験・想いを一番感じ取れた作品であったことです。
 前作の未来のミライで、作品という一面性だけで、脚本・人間性まで批判を書かれた細田守自身の経験談だと思いました。
また、インタビューで語っている通り、娘とネットとの関わりを描いたことも伝わりました。

 今作、少しの誹謗中傷で動揺していた鈴が、終盤に素顔を出して、50億分の1人のために歌うシーンは、細田守がこの作品を通して、どれだけ批判されても、50億分の1人の好きな人に届けたいという覚悟のように思えました。
詳しくは②で語ります。

②日本の村社会
 鈴の母親が見知らぬ子を助けた際に、ネットの誹謗中傷には「偽善、娘を置いて死ぬのは責任がない、無意味な死」といった書き込みをされます。
確かにその通りだと思いましたが、映画を観た後の私は別の感想を抱きました。
 映画の終盤、実はBelleの存在を合唱隊5人のおば様方が知っていました。
 これは鈴のことを日頃見守り、鈴が好きな音楽との繋がりを守り続けた母親代わりのおば様だから知っていたのだと思います。

 鈴が東京に行く際、おば様方から父親に連絡がいくように、村社会では人の関係が密接です。また、見知らぬ子は救助された際に、母親の救命胴衣を着ており、そのおかげで助かったのかもしれません。
 ここで振り返ってみると、母親が助けたネットでは"見知らぬ子"と表現されていた子も、実は鈴の母親と密接に関わりがあった可能性があります。

 日本の村社会では当然助けるに値することも都会や世界では誹謗中傷の対象になってしまう。ネットの記事は物事の一面性しか捉えられておらず、正論・誹謗中傷する人はそのことに気づいていません。

 これは正義を振りかざすジャスティンとも繋がってきます。

 ジャスティンはUの世界を荒らす竜をアンベールしようとします。しかし、その正体は虐待を受ける子供が憧れるヒーローの姿であり、助けを求めるサインでもありました。

 もし、あのままアンベールされていたとしたら、恵としての姿が世界に晒され、誹謗中傷の嵐と同時に現実でいじめにあう可能性まであります。

 つまり、物事の一面性を切り取り、誹謗中傷をすることは、意図なくその人の将来を傷つけるということです。

 そしてこれを描けるのは実体験として被害を受けた細田守自身であり、救うのは素顔を晒してまで作品を届ける細田守なのだと思います。

③今作の2つのテーマについて 
1.ネットもリアルな自分、どちらも本当の自分であるということ
2.どんな親でも1人では生きていけない非情な現実があること

1.に関して 
 結果的にBelleは全てを拒絶し孤立している竜を救いたいという、過去に母親が川の中で孤立した見知らぬ子を助けた時と似たような感情を抱きます。

 そして歌姫Belle=鈴となることで本当の"自分自身"の感情であることを表現しています。

2.に関して
 虐待、人種差別といった昔からあることも、ネットの普及により問題視されるようになった現在を描いています。
 ネットが無ければ恵の虐待に気づくことはできませんでした。

まとめ
 細田守はインタビューで自身のことを「インターネットを最も肯定的に描いている監督」と仰っていました。
「どっちが正しいか、善か悪ではなくどちらも"本当の自分"」二項対立的な考えではなく、本音と建前が入り混じり、"自分自身"が分からなくなる中で、1人の人間として強く生きてほしいというメッセージ性が伺えます。

④美女と野獣のオマージュ作品

 シンエヴァが様々な作品のオマージュによって出来上がっていたので、個人的にはすんなり受け入れられました。
共通点
 ベル:美女と野獣のベルの母親はペストにかかり、娘に移さないためパリに残り亡くなりました。
 Belle:竜とそばかすの姫のBelleの母親は見知らぬ子を助けに川に飛び込み亡くなります。

 野獣:ポット夫人が語る野獣の生い立ち「ご主人様は心優しい人だったが、母親の死後、厳格な父親に育てられて傲慢になってしまった」
 竜 :母親は他界しており、傲慢な父親から虐待を受けています。

 ガストン:村の英雄である一方、下品で乱暴・横柄な態度
 ジャスティン:一見正義を振りかざしているように見えて、スポンサーや自分の名誉のために竜を狙っている

異なる点
 ディズニー作品のプリンセスは親がいない場合が多いです。これは、作品内で主人公の成長・自立を描きやすいという理由があります。
 今作では父親、学校、合唱隊のおば様方などの優しい環境にいながら、ネットを通して、見守られる側からの自立を描いています。 

 ネットのBelleと竜 現実の鈴と恵 2回の出会いを描いています。これもネットと現実どちらも"自分自身"であることを表しているように思えます。

⑤残念だった点(物語中盤)
 忍と手を繋いだことでクラスLINEが荒れる所は脚本として必要だったのか疑問が残ります。
 現実の誹謗中傷を表現したかったのかなと思いましたが、それよりも竜に対してどのように共感したのか丁寧に掘ってほしかったです。

 インターネット、高校生、家族という今まで作り上げた作品の要素を全て詰め込んでいる集大成といえる作品の一方で、薄くなってしまった面があったなと思いました。

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