電気通信事業法の2020年改正(外国法人等に対する法執行の実効性強化)


1 はじめに

2020年5月15日、電気通信事業法の一部改正を含む「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年5月22日に公布されました。

上の法律による改正項目はいくつかありますが、今回は「外国法人等に対する法執行の実行性強化」に関する内容を見ていきます(厳密には外国法人だけではなく日本法人も対象となる規制が追加されています)。

2 改正の概要

今回の改正によって追加された規制は以下の2点です。

① 外国法人の登録・届出などにおける国内代表者・代理人の指定義務
② 電気通信事業法に違反した場合の公表制度

なお、上の規制は執行の実効性違法行為の抑止を図るためのものであり、電気通信事業法の適用対象となる事業者の範囲については明文上は改正は行われていませんが、この部分については解釈変更によって実質的に適用対象が変更されているようです。

以下では、追加された規制(国内代理人等の指定義務、違法行為の公表制度)の概要を見たあとに、解釈変更が行われたと思われる電気通信事業法の適用範囲について見ていきます。

3 国内代理人の指定義務

今回の改正によって、外国法人等は、電気通信事業を営もうとする場合には、国内における代表者又は国内における代理人を定めなければならないことになりました(国内代理人の指定義務)。

国内代理人の指定義務を負う「外国法人等」とは、外国の法人及び団体並びに外国に住所を有する個人のことをいいます(改正法10条1項2号)。

具体的な規制内容としては、例えば、届出・登録の場面では以下のような定めが追加されています(これ以外にも細かい定めが追加されていますので詳細は条文をご覧ください)。

届出の際の記載事項として、外国法人等については「国内代理人等の氏名・名称及び国内の住所」を追加(改正法16条1項2号)
登録申請の記載事項として、外国法人等については「国内代理人等の氏名・名称及び国内の住所」を追加(改正法10条1項2号)+「国内代理人等を指定していない場合」を登録拒否事由に追加(改正法12条1項4号)

このような国内代理人等の指定義務が創設されたのは、外国法人等への執行を強化するためです。例えば、総務省が外国法人に対して業務改善命令を行う場合、日本国内に代理人がいれば容易に業務改善命令を到達させることが可能となります。

4 電気通信事業法違反の場合の公表制度

今回の改正によって、総務大臣において電気通信事業法又は同法に基づく命令若しくは処分に違反する行為を行った者の氏名等を公表することを可能とする制度が追加されました(違法行為の公表制度)。

違法行為を行って公表される対象者につき条文上は「この法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反する行為・・・を行った者」(改正法167条の2)とされており、外国法人に限らず、国内事業者についても規制対象に含まれます

公表事項は、違反行為を行った者の氏名・名称その他違反行為による被害発生若しくは拡大を防止し、又は電気通信事業の運営を適正かつ合理的なものとするために必要な事項とされており、詳細は総務省令に委任されています。

このような違法行為の公表制度が創設されたのは、公表制度をサンクションとして違法行為を抑止するためです。例えば、届出を要するにもかかわらず総務大臣への届出を行わずに電気通信事業を営んでいる場合通信の秘密を侵害した場合重大事故について報告義務違反があった場合などには、今回追加された公表制度の対象となる可能性があります。

5 電気通信事業法の適用範囲について

今回の電気通信事業法の改正は、国内代理人等の指定義務や公表制度は追加されていますが、外国法人等が電気通信事業法の適用対象となるかどうか、という電気通信事業法の適用範囲については明文上改正は行われていません

もっとも、今回の改正法に関する国会答弁によれば、電気通信事業法の適用範囲について解釈変更が行われているようです。

まず、前提としてこれまでは、電気通信事業法は「電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者に対しては規律が及ばない」ものとされていました(総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成 29 年総務省告示第 152 号。最終改正平成 29 年総務省告示第297 号)の解説」・9頁)。

しかしながら、今回の改正法に関する国会の政府参考人答弁では以下のように述べられています。

 設備を外国に設置をしてサービスを提供する外国事業者への電気通信事業法の適用に関し、過去の答弁におきましては、国内に拠点を置かない外国法人等を電気通信事業法の規律対象とすることが可能なのかという問題、それから、仮に規律対象とできた場合であっても規律の実効性を担保することは可能なのかという二つの問題があることから、直ちにこれらの外国法人等に現行法を適用することは難しく、規律が及ばない状態にあるという旨の見解をお示しをしてきたところでございます
 ただ、こうした中、近年、外国事業者の提供するサービスの影響が急激に増大して、国内利用者の利益を保護することが急務となっているということ、これに加えて、EUにおきましても、域外の事業者も対象とする新たな法制度が整備されたといったような動向が出てきているところでございます。
 こうした動向を踏まえまして、外国から国内に対してサービスを提供する外国事業者への電気通信事業法の適用をめぐる論点につきまして、改めて国内法の原則である属地主義の考え方に基づいて規律対象とすることがまず可能であるとした上で、規律の実効性を担保するための措置を新たに設けることが必要であるとし、法執行の実効性強化のための制度整備を今般行うこととしたものでございます。

上の答弁の内容からすると、外国法人であっても日本国内向けに電気通信サービスを提供している事業者は電気通信事業法の適用対象に含める方向で従前の解釈を変更しているものと思われます

そうしますと、新しい解釈の下、電気通信事業法の適用に関するメルクマールである「日本国内向けに電気通信サービスを提供しているかどうか」の判断基準が問題となりますが、この点については国会答弁によれば今後ガイドラインにおいて基準を明確化する予定とのことです(サービスの使用言語、日本国内のユーザー数、決済通貨の種類、日本国内からのアクセス可能性などが判断要素として思い浮かびますが、この点についてはガイドラインをお待ちください)。
したがいまして、外国法人については、新たに策定予定のガイドラインの方向性について注視した上で、対象スコープに含まれる場合には電気通信事業法の規律に対応できるよう準備する必要があると思われます。

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